学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。美術作家であり、「美術系施工集団square4」の代表も務める小滝タケルさんに、値付けの仕方やものづくりのこだわりなど、活動の軸となるものをお聞きしました。

●ゲスト講師 小滝タケル(美術作家/美術系施工集団square4代表)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)

> 前編を読む


質問3 作品の値付けはどのようにしていますか?

(酒井)3つめの質問は、値付けの仕方です。小滝さんの場合は作家としての作品の値付けと、square4の受託仕事の値付けがありますが、それぞれどのように考えて値付けしていますか?

(小滝)絶対的な基準はないのですが、square4については材料費と人件費、そしてsquare4としての利益を鑑みて金額を決めています。利益は全体の金額に10%上乗せするなどパーセンテージで計算することが多いです。
作品の場合は時間も経費も計算が難しいので、だいたいこれくらいかかったという金額を出して、そこに次の作品をつくるために利益を上乗せして計算しています。

(酒井)square4の案件は特殊なオーダーが多く、毎回見積もりをつくるのが大変なのではないかと思います。見積書というのは、仕事の契約をする前にクライアント側が求めるもので、その金額が予算と合うかどうかが発注の判断材料になります。仕事を受ける側は、その案件に対する材料費や人件費、日数などの見通しを立てて見積もりをつくる。それには経験が必要ですし、square4のように決まったパターンに当てはめられない仕事だと見通しを立てるのも難しいのではないでしょうか。

(小滝)そうですね。壁の施工や展示作業などであれば単純に面積や材料で考えられるので、見積もりに関してはシステム化できている部分もあります。軸になるのは必要な人数と日数ですが、やはり特殊な案件はそこを決めるのが難しいので、仲間と相談しながら算出しています。あとは作業の時間のほかに、材料の仕入れにかかる日数や、仕入れのときに実物を見に行く時間などを計算に入れておくことも必要かもしれません。

質問4 ビジネスだとしても、作家として譲れないことはなんですか?

(酒井)次の質問です。これまでのお話から、小滝さんは自由であることを大事にされている印象ですが、作家活動をしていて「こういう作品をつくってほしい」という依頼もあると思います。そのときに、ここだけは譲れないというポイントや、引き受けたくない仕事などはありますか?

(小滝)受けたくない仕事でいうと、予算と時間、クオリティのバランスが取れていない仕事でしょうか。予算も時間もないけれどクオリティを上げてほしいというお話をいただいたときは、予算内でできることを考えて提案したり、別のところから予算を引っ張ってくることを提案したりします。

(酒井)先ほど紹介していただいた事例にもありましたが、オフィスやアトリエの棚など個人的な依頼も受けていますね。

(小滝)そうですね。お話をいただいて僕たちのやりたいこととマッチしていれば、基本的にはすべて受けています。どんなご相談でも、いきなり「できない」とお伝えすることはなく、なんらかの形でつなげられるようにしたいと思っているんです。それが譲れないポイントというか、大事にしているところです。一ご依頼をいただいたら、どうにかできる方向性を検討してみる。もちろん自分が許容できるクオリティの度合いはあるので、それができないほど予算がないということになると、別の方に頼んだり、既存のものを使うご提案をすることになってくるかもしれません。

(酒井)クライアントからなかなか予算の話が出てこない場合は、こちらから聞いてみるのは失礼なことではないですよね。

(小滝)仕事を受けるにあたり、予算は絶対に必要なことなので、とにかく最初に聞いた方がいいと思います。

(酒井)いいものをつくりたいと思うからこそ、予算を明確にしておくことは大事ですね。予算内でどういう工夫ができるのか、その引き出しが多ければ多いほど、square4のように信頼され口コミで仕事が広がっていくのかなと感じました。

質問5 うまくいっていること、苦労していることはなんですか?

(酒井)うまくいっていることについてはこれまでのお話のなかから見えてくるところもありましたが、苦労していることはどのようなことでしょうか。

(小滝)square4では、これまでは依頼があると僕がいろいろなことを決めて、それをメンバーに伝えてやってもらうという形で進めてきましたが、規模が大きくなってきて、そのやり方が難しい場合が出てきています。たとえば、1カ月の間に3、4件の現場が並行して動いていると、僕がすべての現場に立ち会うことはできません。現場の状況を判断して、クライアントに提案したり交渉したりするメンバーをどう育てていくかが、今の課題になっています。

(酒井)パートナーシップを組む相手を増やすというよりも、小滝さんが育てていく内部の人材が必要ということでしょうか。

(小滝)square4自体が会社というよりも“個人事業主集団”なので、業務提携したり協力関係を築いたりできるような相手も探していますし、square4メインで働いてくれるメンバーの底上げも常に考えています。大きな案件をいただくこともありますが、こちらのキャパシティが広くないと仕事を受けることが難しくなってしまいますし、かといって仕事を狭めていくとsquare4の一員になってくれる人も限られてきてしまうので、そのバランスが難しいですね。最近は、現状でできるギリギリのボーダーラインよりも少し上くらいを意識して仕事を受けて、ちょっとずつ成長できるようにと考えています。

(酒井)常に次のステップを意識しているからこそ、成長が続いていくということですね。うまくいっていることはまさにこのsquare4の成長かと思いますが、立ち上げの頃はこんなに大きくなっていくことは予想していましたか?

(小滝)それはあまり思っていなかったですね。最初はほとんど僕ひとりで完結できるような業務内容を考えていましたが、協力してくれる仲間がいたおかげで幅が広がっていきました。先ほど苦労していることとして、僕ひとりではいろいろなことが回せなくなってきたという話をしましたが、同時にメンバーががんばってくれていて、僕の代わりに案件のリーダーを務めてくれたり、ほかの現場にいってくれたりして、その課題が解消されている部分もあります。そこはうまくいっているところだと思います。

(酒井)小滝さん以外のメンバーも作家活動をしている方が多いということでしたが、それぞれ自分の活動と近い領域の仕事で収入を確保しながら、個々のスタンスで制作と向き合う環境をつくれるというのは、とても健全でひとつの理想形なのかなと思いました。

(小滝)僕自身が作家なので、自分の展示前はそちらに集中しますし、メンバーたちもそれぞれ展示前は動けなくなりますが、もちろんそれはOKというスタンスです。そういう働き方ができる会社がたくさんできたらおもしろいですし、時代にも合っていると思います。

(酒井)square4は美術系の施工を軸にしていますが、施工や制作のほかにできそうな分野や注目している文脈などはありますか?

(小滝)僕らは今は依頼をいただいたものをつくっていますが、ゼロから生み出すようなことでしょうか。新しい企画を考えて提案するようなことを、今後やってみたいと思っています。

質問6 10年後、20年後など、先のことを考えることはありますか?

(酒井)次はもう少し先の未来についての質問です。10年先や20年先については、どのようなイメージを持っていますか?

(小滝)square4は、最終的には僕が動かなくても済む状態にしていきたいと思っています。今はまだ進行管理も現場作業も自分でやることが多いのですが、僕ではない誰かが回せる状態にして、僕自身はそのシステムの中に入っていきたいです。そうすることでさらに仕事の規模も大きくしていけると思うので。
僕はsquare4を通して作家活動している人たちの支援がしたいと思っています。それは作家が活動するための場所をつくったり、展示を企画したりする方法もあるし、square4のメンバーになって稼いでもらうという選択肢もある。いろいろな可能性があるので、規模を大きくすることで作家の支援につなげていければと思っています。

(酒井)square4のメンバーはみなさん小滝さんと同年代ですか?

(小滝)僕が今36歳で、メンバーは僕を基準にプラス10歳〜マイナス10歳くらいですね。若いメンバーもとても優秀で、次の世代の可能性はすごく感じています。

質問7 作家として成功するための条件はなんだと思いますか?

(酒井)最後の質問です。作家として成功するための条件について、小滝さんが考えることを教えてください。

(小滝)僕の場合は、自由であることですね。作家活動を自分のしたいように行えるための自由を得る。その自由を獲得することこそが「成功」かもしれないと思っています。僕にとってはその手段のひとつがsquare4ですし、square4自体も自由にやらせてもらっているので、ストレスがない、気持ちのいい状態になっています。

(酒井)square4の在り方や考え方が、小滝さんの作品ととても通じるものがあると感じました。自由であることを自分の意思で選択しているし、そこをすごく大事にしていますね。

(小滝)そうですね。やはりフリーランスでやっていくことは、すべての責任を自分で負うということですが、同時にすべて自分で決められる。その責任がモチベーションにつながっています。仕事をするうえでは、クライアントとの打ち合わせの段階から、つくるものやそのクオリティについて、こちらの意思を伝えて反映させたりすることもあります。自分で責任を負えるからこそ自由になれるところだと思います。
square4は、僕自身が自由であり、働いてくれるメンバーもなるべく自由に働ける状態でありたいと思っています。ベストな働き方は本当に人それぞれなので、それらを全部肯定できるような仕組みを確立して続けていきたいです。


<講師プロフィール>
小滝タケル/美術作家・美術系施工集団square4代表

主に樹脂を用いた彫刻作品制作の傍ら、仲間と立ち上げたsquare4の活動を行なっています。多種多様な作家のニーズに応えるため、都度専門分野のメンバーを招集するスタイルで、展覧会施工、台座や額縁製作、作品の制作補助、取り付けまで行なっています。
http://www.odakitakeru.com
https://www.instagram.com/square4_official/