学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。イラストレーターのKIMUKIMU(キムキム)さんをゲスト講師に迎え、作家としての活動や気になるお金のことについてお聞きしました。

●ゲスト講師 KIMUKIMUさん(イラストレーター)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)


学生時代に始まったアーティスト“KIMUKIMU”の活動

酒井博基(以下、「酒井」)2022年にムサビの大学院を修了したKIMUKIMUさんですが、まずは学生時代にどんなことをしていたのか、アーティストとしてこれまでどのような仕事や活動をしてきたのかを教えてください。

KIMUKIMUさん(以下、「KIMUKIMU」)最初はムサビの空間演出デザイン学科に入学し、1、2年生の頃は舞台美術や環境計画、インテリアなどを学んでいました。デッサンの授業で描いたモデルさんのポージングでグッズをつくったことがあります。これは今の活動のルーツになっているかなと思います。ただ、空デの授業はグループワークが多かったことと、平面をやりたいと思っていたこともあり、3年生から油絵学科版画専攻(現グラフィックアーツ専攻)に転科しました。

版画専攻は、学校の機材が使えて専門的な技術が学べることが魅力でしたね。版画の技法はいろいろあり、最終的に専門にしたのは銅版画ですが、シルクスクリーンでグッズをつくって芸術祭で販売したりしていました。当時からグッズだけでなくパッケージも自分でつくっていました。

在学中はほかにも、タピオカのお店やドッグカフェの壁に絵を描かせていただいたり、初めての個展も開いたりしました。個展は4年生の卒制の前にやろうと決めていて、作品とグッズをつくり、渋谷のビルのレンタルルームを借りて開催しました。卒制では銅版画の作品に空デの頃の作品も加え、集大成として展示しました。

グッズ販売のポップアップショップを展開したのも学生の頃からです。PARCOに入っている「ニュースタア」というお店で、ステッカーやキーホルダー、バッグ、ポーチなどをつくり、渋谷・大阪・福岡と巡回させていただきました。その後、阪急百貨店やラフォーレ原宿でもポップアップショップを開いたり、展示もさせていただいたりしています。

イラストの仕事をいただけるようになったのは、大学院を修了してから。アイドルやシンガーソングライターの方のグッズや芸人さんとのコラボグッズのイラストのほか、地元の浜松市では浜松市文化振興財団の情報誌の表紙イラストを描かせていただきました。

質問1 作家として活動していこうと決めたときに不安はありませんでしたか?

(酒井)学生の頃からすでにグッズを販売していたということですが、作家として活動していくことに不安はなかったのでしょうか?

(KIMUKIMU)学生時代から、売り込みなどをして自分から仕事を取りにいくのではなく、SNSで自分の活動を発信し続けることで、DMやメールで依頼をいただいていました。ありがたいことに、一つの展示やポップアップが終了すると次の案件が待っている、という状況が続いたので、不安はあまりなかったかもしれません。

(酒井)早くから手応えを感じていたのでしょうか。

(KIMUKIMU)最初の学外でのポップアップショップが渋谷PARCOというのは大きかったですね。自信になりましたし、実績になったので、クライアントが声をかけやすくなったように感じました。

(酒井)作家としてのキャリアがまだ浅い場合でも、大きなクライアントから声をかけてもらえるようにする手立てのようなものはあるのでしょうか?

(KIMUKIMU)正直なところ“運”もあると思います。僕の場合はグッズをつくって芸術祭でお店を出し、その様子をSNSに投稿したところ、PARCOのニュースタアの方が偶然見て声をかけてくださいました。

(酒井)KIMUKIMUさんはグッズのパッケージなども含め、見せ方が非常に上手な印象があります。SNSでの発信の仕方やパッケージデザインも、ご自身の特徴として意識していますか?

(KIMUKIMU)SNSはポートフォリオだと思っているんです。自分はなにをしている人で、なにができるかということを載せ続けていますが、人にいいなと思ってもらうには、やはり完成度を高くしないといけない。グッズも商品としてお店に置きたいと思ってもらえるように、当初からイラストだけでなくパッケージもこだわっていました。

グッズについては、パッケージを印刷してカットし、商品を詰めるまですべて自分でやっています。自分がそういう作業が好きだというのもありますが、世界観が伝えやすいし、欲しいと思う気持ちもより強くなるかなと考えています。

質問2 作品販売、グッズ販売、クライアントワークなど、収入源の種類と比率を教えてください。

(酒井)次は、作家は実際のところどうやって食べていっているんだろう、どういう収入源があるんだろうという質問です。

(KIMUKIMU)大学院を修了してからの1年間を振り返ると、ポップアップショップの回数が比較的多かったので、グッズ販売の収入が最も多かったです。グッズは一度に量をたくさんつくり、1年かけて販売していくイメージです。単価が高いのは作品で、作品が売れることが自分としてはやはり一番嬉しいですが、全体の比率で見るとグッズ、作品、クライアントワークの順になっていると思います。それ以外の収入源では、アルバイトでの収入もありました。友だちが勤めているミュージアムショップの手伝いを頼まれ、2〜3ヶ月働かせてもらっていました。

(酒井)作家活動だけでなくアルバイトもしておきたいと考えたのでしょうか?

(KIMUKIMU)自分の制作やポップアップショップなどの活動と、アルバイトを両立できるかわからなかったのですが、いい機会をいただいたのでやってみようと。結果的に、とても大変でした。それまでは家にいる時間が多く、その中で制作やグッズの梱包や発注、メールの返信などをしていましたが、その時間がかなり減ったので……。

(酒井)アルバイトは今後も必要に応じてやっていきますか? KIMUKIMUさんにとっては、収入面のリスクはあるけれども作家活動に集中できたほうがいいのか、時間のマネジメントをしつつ一定の収入を確保したほうが作家として“攻めの姿勢”を保てるのか。

(KIMUKIMU)作家活動は収入が入るタイミングやリズムもバラバラなので、アルバイトをして毎月決まった日に収入がある安心感はすごくありました。ただアルバイトの後に制作しようと思っていても疲れて寝てしまうこともあり、両立は本当に大変だなと思いました。それでも、もしかしたらそのほうが心に余裕ができるのかもと思い、少し揺らいでいます。

アルバイトに関してもう一つ言うと、仕事の探し方が難しいと思いました。自分の制作やポップアップショップなどのスケジュールに合わせて、行きたいときに行けるアルバイトを探すというのはなかなか大変そうだなと。ラフォーレ原宿のポップアップショップのレジの方たちは、みなさん“スキマバイトアプリ”を通じて応募したと聞き、そんなふうに都合に合わせて働くほうが、自分の活動が別にあるような人にはいいのかもしれないと思いました。

質問3 値付けはどのようにしていますか?

(酒井)次もお金の話です。作家を軸として活動していく場合、やはり作品の値付けが重要かと思います。KIMUKIMUさんはどのようにして基準を決めていますか?

(KIMUKIMU)ポップアップショップの場合、グッズだとショップの取り分がだいたい30%なので、それを考えてグッズは原価の3倍くらいに設定しています。パッケージなどによってそこにプラスすることもあれば、少しマイナスすることもあります。

(酒井)原価が30%でお店に30%、そして自分に40%という計算ですね。自分で手売りした場合は自分が70%になる。ポップアップショップなどでは「掛け率は何%ですか?」という聞かれ方をすることが多いかもしれませんが、お店に卸す場合の卸値を決めておかないといけないということですね。

(KIMUKIMU)そうですね。時間をかけてつくっているものなので、自分のところにきちんとお金が入ってくるように計算しています。作品の場合はギャラリーの取り分が50%前後のケースが多いかもしれません。この掛け率については、僕の場合はまず自分の希望を伝えています。お店やギャラリー側の設定もあると思いますが、とりあえず伝えてみて返事を待つという形にしています。作家が損をするようなことはそんなに言われませんが、交渉するというのも大事なことだと思っています。


学生時代から作家として活躍するKIMUKIMUさんの、仕事との出会い方や値付けの基準などをお聞きしました。後編では時間の使い方や苦労していること、またどのように先を見据えて作家活動をしているのかなどをお届けします。

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<講師プロフィール>
KIMUKIMU(キムキム)/イラストレーター

1998年静岡県浜松市出身。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科に入学後、3年次に油絵学科版画専攻(現:グラフィックアーツ専攻)に転科。武蔵野美術大学大学院美術専攻版画コースを修了後は、イラストレーターとして活動中。在学中からカドのない作品を制作し続けており、銅版画作品やドローイングの個展を度々開催、イラストレーショングッズを全国の百貨店,商業施設での期間限定ショップなどで販売している。最近では企業やアーティストとのコラボレーション、壁画制作など幅広く携わっている。
Instagram:@kimukimu324