学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は、ムサビの映像学科を卒業し、アニメーション・イラストレーション作家として活動するまるあかりさん。自身の作品制作を続けながら、ミュージックビデオ、広告、テレビ番組、教育現場など幅広い領域で活躍しています。後編では、クリエイティブチームを組む意義や学生時代のこと、10年後・20年後の未来について伺いました。

●ゲスト講師 まるあかり(アニメーション・イラストレーション作家)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)

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質問4 クリエイティブチーム「rhythmos(リュトモス)」を結成したのはなぜですか?

(酒井)先ほどからクリエイティブチームのお話が出ていますが、もう少し詳しく聞かせてください。ひとりで活動することもできたなか、あえてチームを結成したのはなぜでしょう。

(まる)rhythmosは、大学3年生のときに知り合った映像ディレクターの仲間3人で組んでいるチームです。もともと6年ほど一緒に制作を続けていたところに、後から名前をつけました。チームにした理由は、ひとりではつくれないものをつくるためです。単に分業するという意味ではなく、3人で一緒に考える時間そのものが必要だったんです。私たちはディスカッションしながら進めていくタイプなので、特にそう感じます。

いまはアニメーション制作においてあらゆる技術が発展し、SNSではさまざまな作品が流れていく時代です。たとえば、今日死ぬ気で仕上げたミュージックビデオがあったとしても、翌日には別の監督がものすごい作品を出してきて、視聴回数を争わなければいけない。そんなふうに、数多くの作品がつくられては消費されていく大きな流れのなかで、「その時々で作品をつくって消費されるだけでいいのかな」という感覚がずっとありました。

rhythmosで手がけた広告系映像やMV

だからこそ、アニメーションを通して自分たちはなにができるのか、そのとき抱えている問題をどう乗り越えるのか、問題意識や考えをどう社会に共有するのか――それをひとりではなく3人で考えたかったんです。もちろん大きいチームでもできるけれど、小さいチームだとより問題提起しやすいし、柔軟に動けるので、商業とアートの間を行き来しやすいんです。

(酒井)再生回数だけで成果を測るのではなく、作品と向き合ったことの意味を確認し合うチームという感じですか。

(まる)チームで“認め合う”という感じですね。私自身、作家として生きていきたい気持ちがある一方で、やはり広告的な仕事を求められることも多い。その間を行き来するためにも、阿吽の呼吸で動けるチームが必要で、それがこの3人だったんです。

(酒井)まるさんが先ほどおっしゃっていた「商業の仕事にも自主制作のテーマがベースにある」というお話と、チームを組むことはすごく関係が深いのだなと感じました。チームで作品づくりをするたびに「この作品をつくった意味」を話し合うことで、ご自身の作品の軸を少しずつアップデートして、次の作品を生み出すエネルギーにしているのかなと。ただ商業の世界に消費されるのではなく、ピュアな気持ちで作品と向き合うための仕組みを、まるさん自身が無意識のうちにつくっているようにも感じました。

(まる)そうかもしれないです。私の場合は、それをするのに脳みそがひとつでは足りなくて、3つくらい必要だったという感じですね。

質問5 学生のうちに知っておきたかったこと、やっておけばよかったことはありますか?

(酒井)学生時代からたくさんのお仕事をされていたまるさんでも、学生のうちに知っておきたかったこと、やっておけばよかったなと思うことはありますか?

(まる)めちゃくちゃあります! 私は学生時代、NHKの『みんなのうた』の映像制作に携わることが夢でした。でも、夢までの距離が遠すぎて、いつも「頑張らなきゃ」と焦っていました。その結果、実績をつくるためにいろんな仕事を頑張りすぎて、学校の課題が置いてきぼりになってしまったんです。いま振り返ると、全力ダッシュしすぎていたなと思います。

その後、『みんなのうた』の映像制作に携わるという夢は叶いました。そのきっかけとなったのが、仕事から一度離れて、2~3カ月の間に集中して制作した学校の修了制作でした。私が『みんなのうた』で映像を制作したリーガルリリーというアーティストは、女の子のコンプレックスや複雑な苦しさを曲で表現することが多く、私の修了制作のテーマに親和性を感じてプロデューサーの方が声をかけてくださったんです。

学生のときって、目指す場所がすごく遠く感じるじゃないですか。だからこそ走りたくなるけど、自分のペースでいかないと結局はつまずいてしまう。だから遠い目標だけじゃなく、身近な目標を立てることも大事だと思うんです。たとえば、毎回の課題で好きな表現を必ずひとつ試すとか、卒業制作で自分のやりたいことを100%出すといったように、まずは目の前の制作のなかで自分の軸をつくることができていたらよかったなと思います。あとは、作品はつくるだけじゃなく、届けることも大事ということ。どれだけいいものをつくっても、誰にも見えない場所に置いていたら仕事にはつながりにくい。だから、作品を自分の関心のあることが伝わる形で外に出すことも重要です。

(酒井)修了制作で立ち止まったときに、見えてきたこともあるんですね。

(まる)そうですね。仕事ばかりしていると自分の軸がわからなくなっちゃうときがあって、自分の制作に向き合うことで、ようやく「本当にやりたいことってこれだったよね」と思い出せました。あとは、学生の可能性は限りないので、「いつかなんとかなるかもしれない」という楽観的な視点も大切だと思います。だから学生のみなさんは、焦りすぎずに余裕を持ちましょう(笑)。

質問6 映像作家でなければどんな進路があったと思いますか?

(酒井)まるさんは、映像作家でなければどんな進路があったと思いますか?

(まる)私、学生のころは警察官になりたかったんですよ。

(酒井)警察官ですか! 想定外すぎて(笑)。

(まる)そうですよね(笑)。あとは、漫画家になるのも夢でした。手塚治虫先生とか、『ケロロ軍曹』の吉崎観音先生がすごく好きで、好きな作品は全ページ模写していました。漫画だけではなく、イラストを描くことも、写真を撮ることも、マルチでなんでも好きでしたね。

(酒井)そのなかで、なぜ映像作家の道を選んだのでしょう。

(まる)アニメーションには時間軸があって、感情の変化を描けるナラティブな表現だからです。自分のなかにある、社会への問題意識を誰かと共有するためのコミュニケーション手段として、自分に合っていたんだと思います。

質問7 10年後、20年後のことを考えることはありますか?

(酒井)最後の質問になりますが、まるさんは10年後、20年後のことを考えることはありますか?

(まる)ありますね。教育現場については、10年後にはもっと専門性を高めて、教える側・教わる側という一方通行の関係性ではなく、学生と一緒に成長できるような状況にしていきたいです。個人的な活動でいうと、アニメーションと社会の問題を結びつける「ケアと倫理と表現」の研究に取り組んでいるので、10年、20年という時間をかけて実践と研究を積み重ね、専門的にアプローチを進めていきたいです。

(酒井)教える側と教わる側、研究と実践といった、みんなが線を引きたがるところをグラデーションとして捉えて可能性を考え続けるというスタンスは、今後も変わらないんですね。そういった軸が、まるさんのなかには強くあるんだなと感じました。

(まる)ありがとうございます。商業とアートについてもそうだし、自分の可能性についてもそう。すべてにおいて、線を引く必要はないと思っています。


<講師プロフィール>
まるあかり/アニメーション・イラストレーション作家

武蔵野美術大学映像学科を卒業後、パリ国立高等装飾美術学校(École nationale supérieure des arts décoratifs)に短期留学。2024年にアニメーションチーム「rhythmos」を結成。2025年に東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻を修了し、「rhythmos」とフリーランスの活動を兼業。2024年から武蔵野美術大学映像学科の特別講師を務める。