学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は、ムサビの映像学科を卒業し、アニメーション・イラストレーション作家として活動するまるあかりさん。自身の作品制作を続けながら、ミュージックビデオ、広告、テレビ番組、教育現場など幅広い領域で活躍しています。前編では、商業とアートを線引きせずに映像表現を続けるまるさんの、学生時代の歩みや仕事観を伺いました。
●ゲスト講師 まるあかり(アニメーション・イラストレーション作家)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
商業とアートの間を自在に行き来する生き方
酒井博基(以下、「酒井」)まずは、まるさんのご経歴と、これまでどのような作品をつくられてきたのか伺いたいです。
まるあかり(以下、「まる」)2022年にムサビの映像学科を卒業し、東京藝術大学大学院でアニメーションを専攻して2025年に修了しました。現在はフリーランスのアニメーション・イラストレーション作家として活動しています。

学生時代から、自主制作では孤独、家族関係、承認欲求、依存など、10代や20代が抱える心理的な問題をテーマにしてきました。私の作品にはそれぞれモデルがいて、取材にかなり時間をかけるんです。直接話を聞きに行ったり、手紙を書いてもらったりしながら、その人から受け取った感覚を見た人にどう受け渡すかを考えながら制作しています。ジャンルでいえば“ドキュメンタリーアニメーション”ですね。
実写には事実をそのまま映す強さがありますが、個人的なエピソードにとどまりやすい。でもアニメーションなら、匿名性を保ちながら“誰かの物語”として共有できるんです。人々が持つ言葉にならない矛盾や整理されていない気持ち、曖昧な記憶まで表現できるところに、アニメーションの可能性を感じています。
そして学生のころから商業の仕事も並行していました。主にミュージックビデオや広告、テレビ番組の映像監督を担当することが多いですね。ミュージックビデオではYOASOBI、TOMORROW X TOGETHER、Aiobahn、≠MEなどのアーティスト、テレビ番組では、NHK『みんなのうた』や『名曲考察教室』、Eテレのオープニング映像なども担当しました。広告では、薬物乱用防止の啓発動画など、硬いテーマの仕事もあります。2024年からはムサビ映像学科の特別講師も担当しています。
(酒井)学生時代からすでに幅広いお仕事をされていたんですね。
(まる)そうですね。アニメーション以外の仕事をすることもあります。たとえば、学生アニメーションの映画祭「インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル(ICAF)」では、第21回のメインビジュアルを担当させていただきました。また、フランス留学時代のご縁から、シードルのラベルデザインを制作したこともあります。
また、映像作家3人で「rhythmos(リュトモス)」というクリエイティブチームも組んでいます。個人にはミュージックビデオの依頼が、チームには広告系の依頼がくることが多いですね。ここ数年では、音響機器メーカー・TOAの大阪万博向けプロモーション映像をはじめ、「ちいかわ」「たまごっち」など、キャラクターコンテンツの広告映像まで幅広く手がけてきました。
商業以外のアートワークとしては、雑誌にイラストを寄稿したり、個人の想いを伝えるインディペンデントマガジン『RIM magazine(リムマガジン)』で文章を書いたり、漫画を描いたりしています。

質問1 映像作家として生きていこうと思ったきっかけを教えてください
(酒井)ここからは、7つの質問を通してさらにお話を伺っていきたいと思います。クライアントワークとご自身の制作を両立しながら多彩に活躍されている印象ですが、まるさんが映像作家として生きていこうと思ったきっかけを教えていただけますか?
(まる)高校の授業で、アニメーション作家のぬQさんに出会ったことが大きなきっかけです。ぬQさんの作品を初めて見たときに、「アニメーションってこんなに面白いんだ!」と衝撃を受けました。それがきっかけで、高校を卒業したあとすぐにぬQさんの制作を手伝うようになって、大学3年生まで現場で学ばせてもらいました。
(酒井)どこかに就職するという形をとらず、フリーランスとして活動をしていこうと決めたのはどうしてですか?
(まる)最初からフリーランス志望だったわけではなく……就活で自己PRがどうしてもうまく書けず挫折したんです(笑)。ただ、学生時代から映像制作の仕事をしていたので、結果としてそのまま、いまの仕事につながっています。

(酒井)学生のうちから順調にお仕事がきていたから「このままやってみよう」と思えたのでしょうか。
(まる)自分では順調という感覚はまったくなかったです。ただ、やりたい仕事はあるけれど、正面から入る力はないと思っていたので、別の入口を探していました。
(酒井)直感的に「この道でいける」と思ったわけではない?
(まる)直感はなかったですね。本当に手探りでした。ただ、その場その場でやりたいことは言葉にするようにはしていたかもしれない。ぬQさんのアシスタントをするときも自分から「やりたいです」と手をあげましたし、最初のうちは名前が出ない仕事もたくさんしました。いろんなことを積み重ねていましたね。
質問2 最初にお仕事をもらったきっかけはなんですか?
(酒井)学生時代からたくさんのお仕事をされていますが、最初にお仕事をもらったきっかけはなんですか?
(まる)最初のきっかけはSNSでした。高校生のときからX(当時Twitter)で自分の作品を発信していたら、それを見たインディペンデントのアーティストからミュージックビデオの制作依頼がきたんです。いまはSNSだけでなく、映画祭で作品を見てもらったり、教育現場で人と出会ったり、チームのつながりから仕事がきたりすることもあります。
(酒井)SNSからダイレクトに依頼がきたんですね。ご自身で営業などはされましたか?
(まる)いわゆる営業メールをたくさん送るタイプではなかったです。ただ、自分がどんな作品をつくっていて、なにに関心があるのかということは発信し続けていました。作品を通してコミュニケーションを取る人や、言葉でコミュニケーションを取る人など、人によっていろんなコミュニケーションの取り方があるので、映画祭に出たりZINEをつくったりして、いろんな人との接点をつくるようにしています。
(酒井)いろんな場所で発信しているからこそ、まるさんのように幅広いジャンルのお仕事が舞い込んでくるのでしょうか。
(まる)それもあるかもしれません。ただ、私の自主制作を見た広報担当の方から声をかけていただくことも多いので、ぱっと見はバラバラな仕事でも、実は常に自主制作のテーマがベースにあるんです。たとえば薬物乱用防止の啓発動画は、一見まったく違うジャンルに見えますが、自分の作品テーマや問題意識と無関係ではなかったのでお受けしました。最近は、差別的な表現や偏見が強い内容の仕事をそのまま受けることはしないように気をつけていますし、受ける場合も「どうしたら別の視点を入れられるか」「自分がやる意味は何か」を、以前よりきちんと考えるようになりましたね。
質問3 お仕事をする際に大切にしていることはなんですか?
(酒井)まるさんのお話を伺っていると、自主制作というしっかりとした軸があるからこそ、商業の仕事でも「この表現ならいけそう」という判断ができているように感じました。軸を保ちながら射程距離を広げている印象といいますか。いかがでしょうか。
(まる)すごく素敵な解釈をしていただいて……ありがとうございます(笑)。
(酒井)そんなまるさんが、お仕事をするうえで大切にしていることってなんでしょうか。
(まる)ひと言で言うなら、「商業とアートをはっきり線引きしすぎないこと」だと思います。世の中ではライスワーク(生活のための仕事)とライフワーク(自分の表現)を分けて語ることが多いけれど、私は両者は完全に別々ではなく、行き来しながら考えることができると思っています。商業の仕事は“依頼された課題をどう解決するか”という課題解決で、自主制作は“社会に何を共有したいのか”という問題提起だと捉えています。でも、商業の仕事のなかにも自分の問題意識や作家性を忍ばせることはできる。私はミュージックビデオでそれを表現することが多いです。反対に、自主制作のテーマに誰かが共感してくれることで商業の依頼につながることもある。だから、商業とアートは対立ではなく、むしろ地続きなんです。

(酒井)商業とアートを二項対立と捉えず、「俯瞰して見ると地続きなんじゃないか」という解釈の仕方はとても興味深いです。そうした視点は、どのように養われていったのでしょうか。
(まる)チームで話し合っているのが大きいのかもしれません。私たちのなかでは「商業とアートに線はなく、グラデーションでしかない」という共通の考えがあって、両者に線を引いてしまうことが社会の課題だと思っています。たとえば「自分の絵しか描きたくない」という作家がいたり、商業の現場では「作家は面倒くさい」という偏見があったり。よくある話ですが、これらはどちらもお互いに線を引いている状態で、その線があることによって分断が生まれてしまう。最近はインディーアニメの発展もあって、商業とインディペンデントの境界がどんどん曖昧になってきています。だからこそ、その線をなくすことがアニメーションの発展にもつながると感じます。映像作家として生きることは、私にとってその線を取っ払うことでもあるんです。
(酒井)価値観をちゃんと話し合う仲間がいることも大事なんですね。ほかにも大切にしていることはありますか?
(まる)“表現の倫理”ですね。私はアニメーションづくりにおいて、孤独や痛み、コンプレックスなど、社会のなかで見えづらい問題に関心があります。でも、そういうテーマは簡単に消費されてしまう危うさがあるんです。「かわいそう」とか「切ない」だけで終わらせず、その感情を抱えている人とどう向き合うかを常に考えています。自主制作でも商業の仕事でも、そこは研究しながら手探りでやっていますね。
後編では、クリエイティブチーム「rhythmos」の活動や学生時代にしておけばよかったと思うこと、まるさんが思い描く未来について伺います。
<講師プロフィール>
まるあかり/アニメーション・イラストレーション作家
武蔵野美術大学映像学科を卒業後、パリ国立高等装飾美術学校(École nationale supérieure des arts décoratifs)に短期留学。2024年にアニメーションチーム「rhythmos(リュトモス)」を結成。2025年に東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻を修了し、「rhythmos」とフリーランスの活動を兼業。2024年から武蔵野美術大学映像学科の特別講師を務める。
