学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は、「CON_」のディレクターである加藤久智さんです。後編では、アーティストやクリエイターが形成しておきたい人間関係、ギャラリーという場所を持つ意味、失敗の本質、そしてこれから社会に出る美大生へのアドバイスについて掘り下げます。

●ゲスト講師 加藤久智(CON_ ディレクター)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)

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質問4 アーティストやクリエイターが形成しておきたい人間関係やコミュニティとは?

(酒井)アーティストやクリエイターが築いておくべき人間関係やコミュニティについて、どのようにお考えですか?

(加藤)突き放した言い方に聞こえるかもしれませんが、ギャラリー側の視点で言うと、アーティストとの関係は友情や家族のような曖昧なものではなく、契約だと思っています。アーティストは一定の期間やキャリアをギャラリーに預ける。その代わりに、ギャラリーは制作場所、展示機会、プロジェクトなどを提供する。それは等価だと思っています。契約としてなにを交換し、なにを期待し合うのかを明文化し、共有し、必要に応じて更新していくことによって、ビジネスパートナーとしての信頼が生まれると思います。

アーティストの例だと、GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEは大きなプロジェクトをやるために、日々生活しているということもあります。たとえば大きな河川敷のセットをつくるとなれば、人手が必要になる。誰かに砂利を運んでもらわなければならない。そういうときに手伝ってくれる人がいるかどうかは、日頃の関係性が重要なんです。

そのために大切なのは、スキルシェアとか、普通にいいやつであるとかではないでしょうか。なんとなく連帯するだけではあまり意味がない。具体的に受発注がある、手伝ってもらったから手伝う、手伝ってあげたいから手伝う。すごいスキルがなくてもいい。砂利を運ぶことだって、参加する理由になる。自分がそのプロジェクトに関わりたいか、関わりたくないか。それだけの話でもあります。

(酒井)加藤さんが一緒に働きたい人とは、どのような人ですか。

(加藤)明確な理想像はあまりないんですよ。結局、「お題が出たときに最初に頭に浮かぶ人」なのだと思います。それは、技術があるからかもしれないし、話しやすいからかもしれないし、その人ならやってくれそうだと思えるからかもしれない。理由はいろいろあります。でも、仕事は結局、その瞬間に思い浮かぶ人へ連絡することから始まる。連絡をもらえる側の人になれるかどうかは大事だと思います。

私自身が声をかけられる理由も、たとえば「人を集められそう」という期待値が大きいと思います。「加藤に聞けば着地しそう」というより、「誰かいい人を知っていそう」だと思われている。ぼんやり「おもしろいことをやろう」と言われるより、明確な依頼があって、そのなかでどう関わるかを考える仕事のほうが長く続いていると思いますね。

質問5 ギャラリーという場所を持つ意味とは?

(酒井)CON_の活動を聞いていると、ギャラリーという「場所」を持っていることが大きい一方で、場所だけに閉じていない印象もあります。加藤さんにとって、ギャラリーという場所を持つ意味はなんでしょうか。

(加藤)最初は、場所があったからギャラリーを始めました。でも、やってみると場所は絶対ではないとわかってきました。場所から広がることはもちろんあります。人が集まるし、展示をつくることもできるし、ギャラリーという看板があるから会える人もいる。ただ、場所そのものよりも、そこにいるアーティストが生きていくこと、やりたいことを楽しく社会と往還させながら、彼らの創造力をどう広げていくかに興味があります。

Taiki Yokote, Floating Rubble (when the cat’s away, the mice will play), Frieze Seoul 2025
Courtesy of Artist and CON_

自分たちにとって替えが効かないものはなにかと考えると、アーティストとその創造性が一番大事だなと考えています。場所は変わるかもしれないし、展示の形式も変わるかもしれない。けれど、その人にしかできないこと、その人の作品や創造力は替えられない。だからこそ、場所を持つ意味は、アーティストのための機会や関係をつくることにあるのだと思います。そのため、最近では、「ギャラリー」よりも「アーティストマネジメント」が主語になっています。

アートフェアに出ることも、場所の意味を相対化する経験でした。フェアに出ることで、世界中のギャラリーやコレクター、キュレーターに会える。上海、ソウル、ロンドン、マイアミなど、それぞれ商習慣も空気もまったく違います。売れる場所が必ずしも自分たちに合うわけではないし、売れなかった場所で重要な出会いがあることもある。売れても単純に遠くてしんどかった場所もありますし。そうやって世界を一周するように動いたことで、自分たちがどこでなにをしたいのか、解像度が上がっていきました。

ただ、最初はそれがわかっていなかったんです。ギャラリーというドメインでやっていくと思っていたけれど、別の場所の展示もおもしろいしフェアにも出られる。では、一番大事なのはなになのかと反芻した結果の考えです。

質問6 これから社会に出る美大生が、早くから始めたほうがいいことは?

(酒井)これから社会に出る美大生が、知っておいたほうがいいこと、早くから始めたほうがいいことはありますか?

(加藤)同級生と仲良くすることでしょうか。私は今、同級生や先輩と仕事をすることが多いです。YOASOBIの仕事も、ムサビ時代の同級生や先輩とのつながりで進めていることもあります。

友達が多いことが大事というより、誰がなにをしているのかを覚えていることが大事だったのだと思います。そういえば、野球の授業で一緒だった同級生のことをふと思い出して電話したこともありますね。

その人が今どこでなにをしているのか、どんなことができるのかを覚えておく。そういう習慣が、仕事の入口になります。これは代理店や大きな制作会社にはない強みかもしれません。誰もたどり着かないような人に、たまたま同級生だったから連絡できる。人脈とかを気にして生きてきたことはないけれど、シンプルに周りの人とちゃんと関わっておくこと、卒業してからも気にしておくことは大事だと思います。

もうひとつは、自分にとってのリスクや失敗を考えておくことです。クリエイティブな仕事では、数字だけで判断すると行き詰まることがたくさんあります。私たちは単純にアーティストに作品を納品してもらって、それを販売するということではないわけです。

となると、一般的な失敗という定義を変えて、自分たちが前に進んだかどうかを基準にしないと、なんの正当化もできないことがたくさんあります。数字だけ見ていたら、フェアにたくさん出る理由もない。アーティストの単価が低いから、出展料とも合わない、じゃあ別に今、出なくてもよくない?ということになります。でも、そうなると私たちは本当はなにがしたいんだろうって。だから、一つひとつ出てくる数字や起きていること、失敗の定義を自分のなかで持たないと、なにも成立しなくなります。

実は、そういうことには最近気がついたんです。私、去年はすごく頑張って働いたのでなんとかなると思っていたら、数字を読み違えていて。よくよく読み込んだら大赤字で経営を見直さなきゃいけなくて、整理したときに全部気づいたというわけです(笑)。

質問7 10年後、20年後のことを考えることはありますか?

(酒井)最後の質問です。10年後、20年後のことを考えることはありますか? どれくらい先の未来を見ているのでしょうか。

(加藤)遠い未来を考え続けることだけが大事だと思っています。なにかをやるたびに解像度が上がります。こういうふうにやってみたら、こういう結果が出た。自分たちはこういう未来を考えていたけれど、こうなったほうがいいかもしれない。そういう更新が頻繁にあるんです。それがすごく楽しい。

たとえば、GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEの「獸」というプロジェクトはもともと7年間連続の予定で、2021年に始まり、2028年ごろに終わる予定でした。でも、やっていくうちに計画が変わっていったりもしています。そういうふうに、どれだけ遠くへ飛ばせるか。手元の解像度を上げて、その道筋を更新していくことでしか、ビジョンとしての創造力って上がらないと私は信じていて、その作業が大事なのだと思います。だから、10年後については、ずっと考えていますね。

(酒井)新しく始めてみたい事業や、次に取り組んでみたい事業などはありますか?

(加藤)新しい事業を始めたいというよりは、今あるものの解像度を上げていきたいですよね。できることが増えたらいいなというぼんやりしたもので、やりたいことはアーティストが連れて行ってくれる場所に落ちていくと思っています。

Yukino Yamanaka, Installation View, Eclipse, PARCO MUSEUM TOKYO
Courtesy of Artist and CON_

ただ、アートというドメインの深いところに近づいていきたい気持ちはあって。アートの制度のなかや大きな興行のような場で、アーティストの創造力をどう展開できるか、ということに興味があります。

(酒井)それは都市という文脈のなかに落とし込んでいきたいということですか?

(加藤)いや、都市というテーマに関心があるのは、東京に住んでいるからというだけなんですよね。たとえば東京に住んでいるのに地方の話をしてるのって、嘘っぽいなという感覚があります。今、自分が置かれている場所、人間関係、周りにいるアーティストから、どう文脈を紡いでいくか。「美大でモノをつくってないやつってなに?」みたいな意見もあると思うんですけど、それがたとえば事業とかでもいいと思っています。これが私の表現という言い方をすると、ちょっと異論がある方もいるかもしれませんけど、これまで見せてきたプロジェクトには、自分がやったという自覚があります。機会をつくり、人をつなぎ、作品が社会に出ていくための場をつくる。それもひとつの表現なのだと思っています。


<講師プロフィール>
加藤久智/CON_ ディレクター

2022年、日本橋・馬喰町にて「CON_」を創設。アーティストとの対話やリサーチから生まれるプログラムを企画することで、同時代性から生まれる新しい文脈の構築を継続的に行っている。また、国内外で都市文化や音楽に関するリサーチプロジェクトを展開。その他「YOASOBI」をはじめ音楽アーティストのクリエイティブプロデュースなどアートやクリエイティブに関わる事業を複数行っている。