学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は、芸術文化学科を卒業し、ギャラリー「CON_」の運営、アーティストマネジメント、音楽ライブやイベントのクリエイティブプロデュースなどを手がける加藤久智さんです。インスタレーション、都市文化、アートフェア、プロダクションワークを横断しながら、アーティストの創造力を社会へ接続していく活動の背景を伺いました。
●ゲスト講師 加藤久智(CON_ ディレクター)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
ギャラリーから東京ドームまで。表現の居場所をつくるということ
酒井博基(以下、「酒井」)ギャラリー「CON_」の運営をはじめ、アーティストマネジメント、音楽ライブやイベントのクリエイティブプロデュースまでされている加藤さんですが、それぞれの活動について教えてください。
加藤久智(以下、「加藤」)私は2017年にムサビの芸術文化学科を卒業して、新卒でYahoo! JAPANに入り、その後は関連会社への出向などを経験。2022年からCON_を始めました。CON_はいわゆるホワイトキューブではなく、作品を壁に掛けるためには壁や天井に穴を開けなければならないような空間です。

最初から「こういうギャラリーにしよう」と緻密に設計していたというよりは、場所があり、一緒にやりたい人がいて、やっていくうちに少しずつ輪郭が見えてきた感覚です。
私が音楽の仕事にも関わっていたので、ファインアートだけではなく都市文化を横断するギャラリーになっています。
CON_では、国内外のアートフェアにも積極的に出展してきました。しんどいこともありますが、作品を観ていただく機会を増やし、自分たちの美意識や空気感を提示する場所と捉えています。
また、ギャラリー業はアーティストの作品販売を行うだけでなく、アーティストの創造力自体を取り扱っていると考え、プロダクション的に活動することも増えてきました。
質問1 今のお仕事を始めたきっかけを教えてください
(酒井)ギャラリー運営、アーティストマネジメント、クリエイティブプロデュースと、一見すると別々の仕事のようにも見えますが、加藤さんの場合はアーティストマネジメントを軸に、そこからギャラリーやプロダクションが生まれているように感じました。今のお仕事を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。
(加藤)まずは「場所があるからギャラリーをやってみよう」というところから始まりました。というのも、卒業して数年経ったときに、ムサビの同級生と「アーティストをやりたいと言っていた人たちが、だいぶ減ったよね」という話になったんです。おもしろいものをつくっていた人が、卒業後に活動を続けられなくなる。そんな状況を見て、彼らの作品を置ける場所を持ってみたいと思うようになりました。
それで、トライしてみることに。

(酒井)一般的にはほかのギャラリーで修業したり、実務を学んだりしてキャリアを積んでから自分でやってみようと考えると思います。加藤さんはなにごともとりあえず実践してみようという考えなのでしょうか。
(加藤)結果的には実践しているんですが、もう少し手前には必死さがあります。たとえばドーム規模などのクリエイティブの話が来たときも、やったことがあるわけではありませんでした。でも、お金もないし、これをやれたら自分たちにとって大きな意味がある。だったら取りに行くしかない、という感じでした。最初は東京ドームのライブを観に行って、「東京ドームって、こんなに大きいんだ」と思ったところから始まっています。

(酒井)「下北でライブをやるから、フライヤーつくってくれない?」だったらまだしも、「ドーム規模でクリエイティブやってくれない?」というのは、未経験の場合、ちょっと無理かもと思う場面かと感じるのですが。
(加藤)そうですよね。相談してくれたということは私たちを信じてくれると思っているので、正直に提案や伴走をさせていただきました。新鮮な気持ちになることはありますが、無理と感じたことはないです。
質問2 どのような学生時代を過ごしていましたか?
(酒井)多様な活動をされている加藤さんですが、学生時代はどんなふうに過ごされていましたか?
(加藤)学生のときから都市文化みたいな言葉に興味はありました。都市でしかできないことをやりたいなと。なので、批評誌をつくっていた人たちに会いに行ったのをきっかけに、ほかの大学の人たちと雑誌のプロジェクトを行ったり、インターンを始めたりなど、いろいろチャレンジしていました。
学生時代の出会いは大きく、今一緒に仕事をしている人にもそのころつながった人が多いんです。特別なコミュニティに所属していたというより、たまたま出会った人を覚えていて、なにをしているのか気にしていたことが、あとから仕事につながっていった感覚です。

質問3 なぜ卒業後に制作や作家活動を継続できなくなるのでしょうか?
(酒井)先ほどもお話がありましたが、美大では素晴らしい作品を創作できる人はたくさんいるのに、卒業すると制作や作家活動を継続できなくなってしまう人が多いのはなぜだと思いますか?
(加藤)難しい問いですよね。美大生の多くには、卒業制作がマックスみたいな状況がある。そんななかでも制作を続けることのひとつには、「いい」と評価してくれるのは他人だということを意識し続けるのが大切なのかなと思っています。自分の作品を買ってくれるのも他人だし、売ってくれるのも自分ではない人です。そう考えると、どうやって相手を動かすのか、自分がやりたいことと他人の評価や期待にどう折り合いをつけていくのか、整理できるようになる気がします。これは就職でも同じだと思います。
一方で、「見つけてもらう」ことを待ちすぎないほうがいいとも思います。他人に期待しすぎてはいけない。でも、他人でしか解決しないこともある。その両義性について考え続けることですかね。
たくさんの人に会えばいい、という単純な話ではなく、最悪、自分のことを本気で好きだと思ってくれるひとりに出会えればいいのかもしれない。けれど、そのひとりに出会う確率を上げるためには、やはり動く必要があります。
(酒井)加藤さんの場合、ギャラリーを続けていくためにどういうことを考えていますか。
(加藤)続けるかどうかは、結局、その人にとってどれくらい大事なのかという話でもあります。やめてもいいし、また始めてもいい。ただ、続けたいのであれば、続けるためにどうしたらいいのかを考える必要があります。
私の仕事は、アーティストと話し、要点をまとめ、どう進めるかの選択肢を一緒につくっていくことです。答えがどこかにある前提で議論し、それを一緒に見つけたり、引き出したりする。そのなかから生まれるやりたいことや創造力を、別の領域へ広げていくんです。アーティストの創造力に合わせて、自分が持っているドメインを広げていくのが仕事です。
大きなプロジェクトも、地続きにあることの積み重ねです。たとえばGILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEというアーティストが「獸」というプロジェクトを行っています。2025年のある日に「都市に風景の裂け目をつくりたい」と言い出しました。その後、河川敷を召喚するというコンセプトの展覧会になるのですが、もちろん河川敷を形成する要素の川や土手などをつくるノウハウなんてありません。ところが、たまたま見たNHKの番組でセットの川をつくっていた。それを手がけているのがムサビの先輩だと知ってすぐに連絡し、最終的に河川敷をつくりあげたんです。赤字になることもありますが、お金は続けるために必要な血液のようなものだと思っています。お金だけが目的ではない。いっぱいお金があったら規模が大きくできるなという感覚です。やりたいことや創造力が続くこと、そのためにお金が必要なのだと思います。

JYU and GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE,JYU (Chapter 3 / EDGE), Kitanomaru Park Tokyo, 2025
Courtesy of JYU and CON_
失敗についても、単に赤字か黒字かだけでは測れないとも思っています。だけど、数字だけを見ていたら、アートフェアに出る理由も、大きな展示をやる理由もなくなってしまう。自分たちにとってなにが失敗で、なにが前進なのか。その定義を持たないと、クリエイティブな事業は成立しにくいと思います。失敗しないことよりも、失敗の解像度を上げることが大事なのかもしれません。
失敗してもいいと思いながら実践を続けてきた加藤さん。後編では、アーティストやクリエイターが形成しておきたい人間関係、ギャラリーという場所を持つ意味、失敗の本質、そしてこれから社会に出る美大生へのアドバイスについてお聞きします。
<講師プロフィール>
加藤久智/CON_ ディレクター
2022年、日本橋・馬喰町にて「CON_」を創設。アーティストとの対話やリサーチから生まれるプログラムを企画することで、同時代性から生まれる新しい文脈の構築を継続的に行っている。また、国内外で都市文化や音楽に関するリサーチプロジェクトを展開。その他「YOASOBI」をはじめ音楽アーティストのクリエイティブプロデュースなどアートやクリエイティブに関わる事業を複数行っている。
