学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。画家として展示や企画も手がける山田康平さんに、美大の卒業生が直面する「活動できなくなる問題」や、切っては切れないお金の話、そして未来のことを聞きました。
●ゲスト講師 山田康平(画家)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
質問4 作家として「作品を売る」方法だったり、「売ることへとつながる発表活動」について、どれくらい意識して向きあったほうがいいですか?
(酒井)作品を売る方法、または売ることへつながるアクションについて、どれくらい意識するべきでしょうか。
(山田)京都芸術大学の大学院はコレクターやキュレーター、ギャラリストなど外部の人を積極的に招いていたので、作品を売ることにつながる出会いはすごく多かったです。無理をして売ることはしませんでしたが、お会いした人には一生懸命作品のプレゼンテーションをして。コレクターの方に会ったときは、自分の作品を買ってほしいとダイレクトにお伝えすることもありました。
(酒井)大学院のときに接点ができたんですね。
(山田)そうですね。「タカ・イシイギャラリー」のオーナーの方とも大学院のときに出会いましたし。京都は観光客が多いように、いろいろな人が来る場所でした。現代美術を取り入れようとしている街でもあって、伝統的なものと新しいものが同時に存在する不思議な場所だったと思います。

(酒井)作品について、学内で教授に向けて話すときと、外部の人に話すときの伝え方はやはり違うのでしょうか。
(山田)大学院の教授は、先生と学生の立場ではなく、学生と同じ目線で話してくれていました。一方で、一歩外に出るときちんとアーティストとして扱ってくれていたと思います。「仕事を受けたときはきちんと請求書を出さないとダメだよ」と言われたり。そんなふうに、大学の教育からはちょっとはみ出した、経済的な話もニュートラルにしてくれました。
(酒井)大学と社会の間のような環境を京都で過ごせたんですね。
(山田)結果的には大学院から入ってよかったですね。学部生のころだと、お金の話は作品のクオリティと関係ないのでノイズになってくると思います。学部生から入っていたらニュートラルさには多少欠けていたような気がしますね。
(酒井)それはあるかもしれません。僕も美大で教えていたので、アカデミック機関とはどうあるべきかとか、まったく武器を持たないまま学生を社会に出していいものなんだろうかというのはよく教員同士で話していましたね。
(山田)作品よりもどう売るかの話が先行することが多すぎるのかもしれません。作品の話よりも商売の話が先に出るのはよくないと思うんですが、結局はそのバランス感覚が必要ですよね。社会に出たらお金がなければ生きていけないし、ある程度の金額は稼ぐ必要がある。僕の場合、いまやりたいことにはすごくお金がかかるので、もっと考えていかなければいけないと思いつつ、ストレスにもなっているのが現状です。
質問5 これから作家活動を始める学生が、知っておいたほうがいい現在のアートマーケットの状況や動向について教えてください
(酒井)作家活動をしたいと思っている学生に向けて、現在のアートマーケットの状況や動向について教えてください。肌で感じていらっしゃる感覚的なものでもいいと思います。
(山田)アートマーケットというよりも、美術館やギャラリーでどんなアーティストが展示しているのか、同年代や少し上の年齢の作家がどういう場所で展示しているのかは絶対に知っておいたほうがいいですね。その際、SNSで見て終わりではなく、実際に足を運んだり、鑑賞したうえで誰かと意見交換をすることがすごく大事だと思います。「アートマーケットの状況の把握」という点では、そのなかで出てくるマーケットやお金の話をおぼえておくくらいでいいかなと。
(酒井)やはり外に出ていくことが大切なんですね。
(山田)いまは、学部や学科が違ったりしても、外で活動している学生とSNSでつながっていることも多いと思います。気になった相手と話をしにいくタイミングはあるはずなので、知られることはなるべく知っておくことが大切だと思います。

質問6 画家として食べていくって、どんな覚悟が必要ですか?
(酒井)画家として食べていくうえでは、どういう覚悟が必要ですか。つくれなくなることもあって、いろいろなことを背負っていくとは思うのですが。
(山田)あんまり一喜一憂しないことが大事かなと思っています。よくいわれる話ですが、画家や作家活動にはゴールがありません。自分で設定したとしても、現代美術自体が数十年後に残っているかわからないような、不確定なジャンルだと思うんですよ。制作には覚悟やクオリティに関係なく波があるので、それを受け止めながら、一喜一憂せずにいることが大切かなと思います。傷ついたりすることは誰にでもありますし、100%うまくいくこともありません。やりたいことはやる、やりたくないことや許せないことはやらないという軸をしっかりと持つことが大事かなと思います。
(酒井)山田さんは、スランプの時期でも作品をつくり続けてきたのもすごいなと思いました。
(山田)自分のなかで無理やりにでも頑張らなきゃいけない時期みたいなものがあって。根性論になってしまうんですが、悪い波も結局乗り越えていくしかないのかなと思うんです。たとえば展覧会への出展依頼が開催1カ月前に来ることもあって、そういうときはやるしかないと腹をくくりますね。でも、これは僕にかぎった話です。気が向かないときはやらなくてもいいし、人それぞれ自分のなかの大切なマインドに従うのがいいと思います。
質問7 10年後、20年後のことを考えることはありますか?
(酒井)先ほど現代美術というジャンルが数十年後にはなくなっているかもしれないとおっしゃっていましたが、10年後や20年後について考えることはありますか。
(山田)10年後も20年後も、絵を描いているとは思います。絵のいいところは、自分の内側だけで完結することも、外側へ拡張して考えることもできる点。いい“器”だと思っているので、そういう意味で絵はずっと続けていくと思います。ただ、絵画だけで収まらず、建築や彫刻、写真、ファッション、音楽など、他ジャンルの人たちが持っている言葉やプロダクト、作品の扱い方なども抱えられる器を、自分のなかに広げ続けていくことを大切にしていきたいです。
(酒井)海外での活動も、自分の器の拡張につながっている感覚はありますか?

(山田)そうですね。具体的にいうと、運営しているAWASE galleryで韓国などアジアのアーティストをもっと発表していきたいと考えています。少し大きな話ですが、日本という場所自体がいろいろな文化を抱え込みながら大きな器として成り立っていると思っていて、その器を広げていくことが一番大事だと思うんです。ムサビにも海外からの留学生が増えていると思うんですが、それはすごくいいことで、受け入れていくべきだと思っています。海外の優れたアーティストや、日本人とは異なる思考を持っている作家はたくさんいるのに、受け入れられる大学やギャラリーが不足しているのではないでしょうか。その器を広げないと、クリエイティブな新しいものは生まれないと思います。
このあいだ釜山に行ったんですが、福岡からだと東京に行くより早く着くんです。なのになぜ、こんなに遠く感じるんだろうとすごく思って。美術的なことでも、中国や韓国、ほかのアジアの国から伝わってきたものが日本の美術として評価されることもあります。国単位で考えることももちろん意義がありますが、アジア全体でひとつの器として考えることが大切なんじゃないかと思っています。それがひいては、世界平和への回答にもつながっていくのではないでしょうか。
(酒井)器の話はすごく一貫されていますよね。ご自身もギャラリーという器を持たれていますし。
(山田)自分は絵もギャラリーも、もっといえば教育や建築も器だと思っていて。それを広げるために頑張っていきたいですね。
<講師プロフィール>
山田康平/画家
1997年、大阪生まれ。2020年に武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻を卒業、2022年に京都芸術大学修士課程美術工芸領域油画専攻を修了。2020年「CAF賞」入選、2024年「BUG Art Award」ファイナリスト。2025年6月、東京・新宿に「AWASE gallery」をオープンし、ディレクターとして展示企画を監修。
https://www.instagram.com/kumakuma0523/
https://awase-gallery.com/