<卒業生データ>
野口晃太朗
2023年 彫刻学科卒

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部


――現在の業務内容について教えてください。

野口晃太朗さん(以下、野口):いわゆる「営業企画」の業務を担当しています。“営業”と聞くと、物や商材、サービスをお客さまに売る人というイメージがあるかもしれませんが、私たちの会社では少し違うんですよね。

お客さまから現状の課題をヒアリングし、それに対して大日本印刷としてできることを考え、提案。そして社内のさまざまな部署と連携し、実現に向けて動いていく。そんなふうにお客さまと社内のハブとなる仕事をしています。

――進学先にムサビを選んだのはどういった理由があったのでしょうか。

野口:同級生たちが少しずつ進路について話すようになってきた高校2年生のころ、私も周りがめざすような総合大学をいろいろと調べたのですが、どこも決定打に欠けていて決められなかったんです。そのとき、はじめて自分の人生の“棚卸し”をして。幼いころから図画工作や美術が好きだったことを思い出し、美大という選択肢が浮かび上がってきました。

――彫刻学科を選んだのはなぜですか?

野口:過去を振り返ってみると、同じものづくりの領域でも、粘土や木など、素材を触りながら自分の手でつくりあげていく作業が好きだと気づいたからです。実際にムサビに入学してからは、異素材を組み合わせていく実験的な作品を多くつくりました。

彫刻学科では、はじめに石や木、金属など、さまざまな素材に触れます。そうしてひと通りの素材を扱ったうえで、自分で素材を選んでいくんです。私は毎回、まったく使ったことのない新しい素材をひとつは取り入れて、異なる素材同士を組み合わせることで、どんな現象が起こるのかを楽しんでいました。最終的には透明樹脂とハンダが気に入って、よく使っていましたね。

――作品づくり以外に力を入れていたことがあれば、教えてください。

野口:ふたつあります。ひとつは教職課程の科目を履修していたので、教員になるための勉強や、中学校への教育実習などに力を入れていました。

もうひとつは「旅するムサビプロジェクト」。これは学生が全国各地の小中学校を訪れ、授業を実施する取り組みです。学生が制作した作品を持参し、それを子どもたちと対話しながら鑑賞する「対話型鑑賞」や、黒板に絵を描いて子どもたちをおどろかせる「黒板ジャック」など、さまざまなワークショップを実施しました。このプロジェクトがかなり楽しく、在学中に5回ほど参加しました。

野口さんが学生時代に制作した彫刻作品《vi・o・lin》(2022年)。本来とは異なる素材で楽器のかたちを成形し、固定観念の正体や、そこからはみ出した考え方の余白について問いかける作品

――彫刻学科というと、就職せずに作家になる方も多いと思います。野口さんの場合、就職することは早くから決めていたのでしょうか?

野口:早くから、迷いなく決めていました。たしかに彫刻学科でいうと企業に就職する人の割合は少なかったと思いますね。

――就活をするにあたって、キャリアセンターはどのように活用していらっしゃいましたか?

野口:キャリアセンターに足を運んだときには、エントリーシートのフォーマットをもらったり、卒業生が制作したポートフォリオを見たりしていました。

なかでも役に立ったと感じたのは、キャリアセンターが発信している就活イベントやセミナーなどの情報です。興味を持ったものには積極的に参加していました。美大生に合いそうな情報をキュレーションして発信してくださっていたので、効率的に情報収集ができてよかったです。

――大日本印刷に入社した決め手はなんだったのでしょう?

野口:はじめて大日本印刷の存在を知ったのは、大学3年生の秋ごろです。ムサビと大日本印刷とがコラボしたワークショップが開催され、インターンシップの一環としてグループワークに参加しました。

そのときに出会った社員のみなさんの雰囲気がとてもよくて、面接に進んだあともそれは変わりませんでした。だから「こんな仕事がしたい!」というよりは、「この人たちと仕事がしたい」と思ったことが決め手だったんです。

――入社後、印象に残っているプロジェクトや業務があれば、教えてください。

野口:現在の部署に配属されて間もないころ、あるお客さまのカレンダー制作の案件を担当したことがありました。新人の私でも問題なくできるだろうと任せていただいたのですが、そんなときに限って印刷機器に原因不明のトラブルが起こってしまい、何度印刷しても私たちが狙った通りの色が出ないという事象が発生したんです。

そのときは大阪の印刷所にお客さまと出向いて確認作業をしていたのですが、1泊2日の予定が2泊になったり、東京にいる上長と急きょオンライン会議を行って遠隔で指示を受けたりと、予想外の出来事の連続で……とても印象深い案件となりました。最終的には無事に納品できたのですが、あのときのヒリヒリした気持ちは忘れません。

担当業務の状況を資料にまとめて管理。客先や現場に出向いて行う業務だけでなく、デスクワークも大切な仕事

――それは大変な仕事でしたね。働くなかで、ムサビでの経験が仕事に活かされていると感じる瞬間があれば教えてください。

野口:在学中にたくさんの作品を見てきたので、クリエイティブなものやデザインに対する目が鍛えられていることでしょうか。たとえば印刷物の色味を確認する色校正という業務で、「この色は少し赤味が強い」「全体的にくすんでいる」などの微差がわかる、といったことです。

それから、お客さまが抱えている課題に対して提案をする場合、新しいアイデアを出さなければいけない場面もよくあります。アイデアを出すための考え方や思考法は、作品づくりの始まりに通ずるところがあり、自分の力を発揮できていると思いますね。

――「美大卒」というだけで、お客さまからの信頼も上がりそうですね。ほかに、ムサビ出身でよかったと思うことはありますか?

野口:「彫刻の人だよね」と、すぐに顔を覚えてもらえることでしょうか。社内外問わず、人とコミュニケーションをとることが多いので、自分の個性としてこれからも活かしていきたいです。

――学生時代にやっておけばよかったと思うことがあれば教えてください。

野口:そうですね、もっと作品をつくっておけばよかったです。いまでも制作は続けているのですが、社会人になると時間はつくろうと思わないと確保できません。学生のころ、授業のない時間もいたずらに過ごしてしまったことが多かったなと後悔しています。

――今後やってみたいこと、チャレンジしてみたいことなどはありますか。

野口:「彫刻の人」と覚えてもらっているのはいいけれど、まだ自分らしさや強みを存分に出した仕事はできていません。今後は自分らしいやり方を見つけて、それを活かした仕事ができるようになりたいです。

プライベートでは、小さくとも自分の作品展を開きたいですね。ムサビで培ったものづくりの楽しさは忘れないようにしたいです。

――最後に、ムサビに進学することを迷っている高校生に向けて、メッセージがあればお願いします。

野口:もう誰彼かまわず、みんな美大に行けばいいのに!と思っています。そのくらい、4年間が本当に楽しかったんです。もし迷っているのであれば、なぜ決断しきれないのかの原因を探っていくことが大切。突き詰めて考えれば、きっと見えてくることがあると思います。

ムサビには本当にいろんな人がいます。そこがおもしろいところであり、自分にはないものを尊重し合う文化もあります。ムサビならではの環境と、魅力的な人たち、濃密な時間。私にとって、かけがえのない4年間でした。

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