ムサビから大学院へ進学した卒業生に、進学を考えたきっかけや情報収集の方法、進学後の暮らしについてなど、幅広く伺いました。ムサビでの学びは、大学院での研究にどのようにつながっているのでしょうか? 進学を考えている人はぜひ参考にしてみてください。

<卒業生データ>
吉村優里
2024年 建築学科卒
進学先:
東京科学大学 大学院 修士課程
環境・社会理工学院 建築学系 建築学コース


――現在東京科学大学(旧・東京工業大学)の大学院で取り組んでいる研究テーマについて教えてください。

吉村優里さん(以下、吉村):建築家の「言説」に関する研究を行っています。言説とは、雑誌などの出版物を通して発表された建築家の言葉のこと。いまは「新建築」という建築業界の専門誌をもとに、書いてある言葉を収集・分析し、論文としてまとめる準備をしています。

大学3年生のころから、ある建築物に対して、建築家がどんな想いを込めて造るに至ったのかなど、背景を知ることにおもしろみを感じるようになりました。それから建築家が書いた書籍や、作品に対して言及されたものを貪るように読むうちに、より追究したい気持ちが強くなっていきました。

――大学院に進学しようと思ったのは、いつごろだったのですか?

吉村:大学3年生ごろですね。ムサビは研究よりも、設計やデザインをするなどモノづくりを学ぶことに重点を置いていますが、私のように研究を続けたいと考えた場合には、専門性の高い他大学への進学を検討するのは自然なことなのかなと思います。

ムサビでの卒業制作《木密の寓話》では、東京都墨田区を舞台に「物語る建築」を提案した。武蔵野美術大学優秀賞(学校賞)と学科賞の金賞を受賞。

――大学院進学のための情報収集は、どのようにされたのでしょうか。

吉村:まずはネットで、気になる研究室のホームページを見るなどしてできるかぎりの情報を集めました。それから3つの研究室に候補を絞り、実際に教えてくださる先生や、所属している先輩とお話をさせていただくために、それぞれの大学に足を運びました。

お話をさせていただくなかで、研究室で学べることや先生のお人柄、先生と学生との関係性など、研究室の雰囲気を感じとるようにしていましたね。

――候補がいくつかあったなか、いまの研究室を選んだ決め手はなんでしたか?

吉村:決め手はふたつあります。まずはやりたい研究ができそうだということ。先生は建築家の言説について研究する第一人者なんです。

もうひとつは、先生や研究室との相性です。見学させていただいたほかの研究室では、先生がお忙しくてなかなか学校にいらっしゃらず、会えてもZoom越し、なんて話を聞くこともありました。それではわざわざ通う意味があまり見出せないなと。

いま師事している先生は、普段から学校にいることが多く、にこやかで親しみやすいお人柄でした。せっかくなら関わりやすい先生のもとで学びたいと思い、最終的には人との相性で選びました。

――入試対策のために、どんなことをしましたか。

吉村:まずは過去問探しです。3年分の過去問は公開されているのですが、調べてみると数年おきに同じ問題が出題されることが多いとわかったので、さらに前の過去問を取り寄せることに苦心しました。ほかにポートフォリオづくり、それから英語の勉強も。学科試験とは別にTOEICの高いスコアを持っていることが条件だったので、英語の勉強は大学院に進学することを決めた時点ですぐに始めました。

なにより大変だったのは、即日設計の練習でした。即日設計とは試験当日に4、5時間以内に即興で設計を完成させる試験のことです。全体の7割を占める配点なので、即日設計がいかにうまくできるかが院試のポイントだったかと思います。

――入試対策はいつごろからはじめ、どんな流れで進めましたか?

吉村:時間がかかるポートフォリオの制作を3年生の1〜2月には始めて、3月ごろから英語の勉強をスタートしていました。

4年生になってからは、授業や設計の課題はもちろん、卒業制作もあったので、1日のなかで時間をうまくやりくりしながら準備をしました。

――入試対策でいちばん苦労したことはなんですか。

吉村:ムサビから東京科学大学の大学院に進学する人は少ないので、ツテを見つけるのに苦労しました。

研究室訪問で出会った先輩や、知り合いの知り合いまでたどって連絡をとり、過去問をいただいたり、Zoomをつないでもらって院試対策を一緒にやってくれる人を探したり……。とにかく自分で動いて情報を取りにいかないといけませんでした。

まわりの友だちは卒業制作や課題に時間を割いているなか、私だけひとり机にかじりついて勉強しているときは、なんだか悲しくなったこともありましたね(笑)。

――孤独な環境があったのですね。ちなみに、いまいらっしゃる環境では、美大出身の方も多いのでしょうか。

吉村:いえ、ほとんどいません。多くが学部生からの内部進学なので、美大出身者はかなり珍しいですね。

――そんななか、美大出身でよかったと思うことはありますか?

吉村:過去にムサビで受けた授業の話をするだけで面白がってもらえるので、いまになって特殊な環境で勉強させてもらえていたんだな実感しています。

それから芸祭に出店するなど、自分でつくったものを“売る”機会が用意されているのはほかではあまりない経験ですよね。アウトプットする機会に恵まれているのは美大の特徴だと、離れてみてあらためて思いました。

――他大学に進学して、率直な感想はいかがですか?

吉村:ムサビとはあまりにも対極の環境なので、視野がぐんと広がりました。たとえばムサビは自由な校風ですが、いまはすごくまじめな感じ。ムサビは設計やデザインがメインだったけれど、いまは論文がすべての中心です。模型が得意なムサビと、図面が得意な科学大という感じでしょうか。

ひとりで机に向かい、無心になって考えごとをしている時間が長いので、正直、疲れたときは、ふとムサビに戻りたくなることもあるんです(笑)。いまは先生の設計やプレゼンの手伝いをするなど、とにかくハードで刺激的な日々。大変かどうかを考える暇もなく、毎日を精一杯生きています。

左:よく利用している東京科学大学の製図室 右:研究室のワークショップで訪れた上海

――最後に、今後の目標を聞かせてください。

吉村:海外志向の強い大学なので、今後、留学に行けたらいいなと考えています。先生方からも「2年で卒業するなんてもったいない! 帰ってこなくていいから、海外に行っていっぱい学んで来い!」と本気で言われるくらい。

そのためにも英語の勉強をもっと頑張らないといけないですね。内部進学のメンバーは、かなり英語が堪能なんです。ディスカッションも英語でしなければいけないので、遅れをとらないようにしないといけません。

また奨学金や休学制度、世界中に提携校があるなど、海外に行く際の支援サービスが充実しているのも、この大学のいいところです。

さらには就職も控えています。まだどんな方向へ行くのか、まったく決まっていませんが、留学などで視野をさらに広げ、知らなかった世界に触れることで、その先にはどんなことが待っているのか……いまからとても楽しみです!