就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。

<センパイデータ>
名前:鈴木 信太朗
学科:空間演出デザイン学科/2019年入学
内定先:株式会社乃村工藝社/プランニング職


——鈴木さんの就活は比較的遅めのスタートだったそうですが、いつ頃から取り掛かったのでしょうか。

鈴木信太朗さん(以下、鈴木):僕は4年生になる直前まで進学を考えていたこともあり、あまり就活の準備はしていませんでした。ただ、3年生の冬に周りが就活対策しているのを見て、自分も一度やってみようと思い情報を集め始めました。

——それまではイメージしていなかった就活を始めていかがでしたか?

鈴木:始めてみたら、意外と楽しくなってきたんです。1次面接・2次面接・3次面接…と進んでいくと、何度も企業の同じ方にお会いすることになります。そのときに相手が自分のどういう部分を見ているのか、自分としてはどういうところを強く見せたいかを考え、自己プロデュースのようなことをしていきました。特にデザインやクリエイティブ系の会社ではそういう部分を見ている方が多いのではと思いましたが、あまり気負いすぎず自分の見せ方を考えること自体に面白さを感じながら進めることができました。

——とてもポジティブに取り組めた就活だったのですね。

鈴木:悩むことや不安になることももちろんありましたが、面接では企業の方に直にリアクションをいただけることが励みになっていました。ウケが悪いときもあれば、意図した部分を見てくれているという手応えを感じるときもあり、そのリアクションを受けてまた自分の見せ方を考えました。作品もそうですが、作品をつくっている自分を見せることを心がけていました。

——自己プロデュースの考え方は人によって違うと思いますが、鈴木さんはどのように方向づけていったのでしょうか?

鈴木:自分の見せ方については、作品の雰囲気に合わせて考えていきました。僕は古いものや伝統的な技法を参考にして空間をつくることが多かったのですが、それは自分自身がルーツに興味がありバックボーンを掘り下げていきたかったという思いがあります。そうしたことをより表現できるよう、服装や持ち物にも祖父から譲り受けた服やビンテージなどを取り入れていきました。

——就活を通じてセルフブランディングに取り組んでいったのですね。自分らしさをより磨いていくことでの気づきなどはありましたか?

鈴木:自分のつくっているものや考え方を自己分析して再認識することで、自分自身に対する理解にもなり、面接の質問に対する回答にも一貫性が出たように思います。

——就活を通して、もう少し早く進めておけばよかったということはありますか?

鈴木:僕にとっては、気負わずに短期間で集中してできたのがよかったと思っています。情報収集やインターンなど、もっと早く取り組んでいればこんなに不安にならなかったかもしれませんが、もし早くから動き始めていたら、周りのことが気になって余計に精神的に参っていたように思います。

——悩んだときは誰にどういう相談をしていましたか?

鈴木:疲れてしまったときには友人たちとご飯を食べにいったり、家族に電話したりしていました。具体的な相談ではなく、どちらかというと全然違う話をして気持ちを落ち着けたいという感じでしたね。いよいよしんどくなってきたときにはゼミの仲間に話をしたりしていましたが、それぞれに自分の就活の問題があり先が見えない時期だったので、そこまで具体的に就活の話をするというわけではなかったです。

面接の対応など技術的な部分では、キャリアセンターに相談していました。設問集をいただいて対策をしてもらったり、先輩のポートフォリオを見せてもらったりと、キャリアセンターのみなさんにはとてもお世話になりました。

——ポートフォリオはどのようにまとめていきましたか?

鈴木:ポートフォリオについては、3年生の夏につくっていたラフバージョンがありました。就活に関わらず必要だからということで、ゼミの先生が課題として出してくれていたんです。就活をすると決めてそれを編集し直し、ちょうどエントリーが始まる前くらいには出来上がっていたと思います。

——遅めのスタートだったこともあり、インターンシップには全く参加しなかったのでしょうか?

鈴木:企業のインターンシップには参加していませんが、アトリエ系(※)の設計事務所やインテリアスタイリングの事務所などに、アルバイトの延長のようなかたちでインターンとして通わせていただきました。

※)個人の作家性を強く反映した設計を行う設計事務所に対する通称

——インターンシップは、その会社の環境や文化がリアルに見られるところが利点かと思います。アトリエ系事務所とは規模の違う企業の現場が見られなかったことに対して不安はありませんでしたか?

鈴木:不安はありましたが、アトリエと企業では仕組みが違うので、違いがあるとしたらそれはポジティブな違いなのではないかと考えました。アトリエの規模で生じる大変さについては企業では解消されていて、逆に、アトリエではできるようなデザインの細部についての話は大きな企業では難しい印象があります。その上で、最初は大きな企業を受けてみるのがいいのではないかと考えて就活を進めていきました。

——内定先への入社を決めた理由を教えてください。

鈴木:大きな会社で仕事の幅がものすごく広いため、「空間」という領域の中でも何に興味があるのかを、面接の際にしっかり見てくださった印象を受けました。そのため、向き不向きや本人の意向も含めて会社側がしっかり見極めて、マッチするところに起用していくのだろうというイメージができたことが決め手でした。受ける案件の専門性が決まっている会社や部署もあると思いますが、僕自身はまだ何ができるのか分からないですし、可能性はできるだけたくさんとっておきたいと思っています。まさにそういう部分を見ていただいたと感じました。

——鈴木さんの今後の目標や就職してからやってみたいことは何でしょうか?

鈴木:僕は大学で4年間、演劇空間をつくっていましたが、自分一人ではつくれない空間を色んな人と一緒につくりあげていくということは、これからも続けていきたいです。それは仕事でも個人的な創作活動でもいいと思っていますが、いつかは自分のやりたいことを仕事としてできるようになったら嬉しいです。

——美大という環境にいてよかったと思うことはありますか?

鈴木:周りに個性的な人が多かったことでしょうか。自分とは全く考え方の違う人が本当に多いし、いい意味でみんなが一般化されていないと思います。会話や作品を通してその個性に触れられることが面白く、刺激もたくさん受けました。作品をつくるということについては、自分が満足いくまでつくることができるのは美大だけなので、美大にいてできることは全てやって卒業したほうがいいと思っています。