就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。

<センパイデータ>
名前:松岡唯我
学科:芸術文化学科/2020年入学
内定先:株式会社ADKホールディングス/オープンコース(総合職)


——松岡さんが就活対策で大変だったことや苦労したことを教えてください。

松岡唯我さん(以下、松岡):自己理解することがすごく大変だったと同時に、必要な時間だったと感じています。僕は3年生の2月くらいまでゼミに集中していて、夏の早期選考やインターンの情報をまったく見ていなかったんです。秋になっても気になる企業について少し調べたり、説明会に行ってみたりという程度でした。その後、本格的に就活を始めて、いよいよ本選考が近くなったときに、エントリーシートを書くための自己理解が足りていないということに気づいたんです。

——エントリーシートはどのようにつくりあげていったのでしょうか。

松岡:すでに早期選考を通っていた友人に話を聞きながら進めていきました。シンプルに「どうやって書いた?」というところから、彼の就活体験談をたくさん共有してもらいました。そのころから、同じく就活中の芸術文化学科や空間演出デザイン学科の友だちと集まってエントリーシートを見せ合い、お互いにフィードバックするということを繰り返していました。友だちなので、やっぱりお互いのいいところや得意なことをよくわかっているんです。早期選考で決まった友人もずっとサポートしてくれて、将来のビジョンに対する就活の軸を捉え直したり、それぞれの考え方を洗い出したりしたような時期でした。大変でしたがすごくいい時間だったと思います。

——キャリアセンターのサポートを学生同士で自主的にやっているような印象です。

松岡:そうかもしれません。僕は就活を始めたころに2回くらいキャリアセンターに相談に行ったのですが、その後はなかなか足が向かなくなってしまいました。それでも就活の情報は必要だし……と考えていたなか、友人は自分のことをわかってくれているし、すでに就活を経験していたので話が早かったんです。僕も相手のことをよく知っているので、言われたこともすごく受け取りやすかったと思います。

——3年生の2月くらいまではゼミに集中していたとのことでしたが、早めに取り組んでおけばよかったと思うことはありますか?

松岡:就活についての後悔はあまりないですね。インターンは結局一度も行きませんでしたが、行っておけばよかったと思う場面は、僕はありませんでした。エントリーについては、出すだけ出してみればよかった、ということはあったかもしれません。

——就活で迷ったときは、家族や友だちなどに相談していましたか?

松岡:そうですね。家族や友だちだけでなく、いろんな人に相談していました。飲みに行った店で出会った人がたまたま誰もが名前を知っているような企業の人事の方だったので、話を聞いてもらったこともあります。就活の終盤で2つの方向性で悩んでいたときには、偶然出会えたクリエイティブディレクターの方に相談させていただきました。そうやっていろんな人に話しかけ、社会の大人の声を聞いて自分なりに考えを巡らせていました。

——いろんな人の意見を聞きすぎて、逆に迷ってしまうということはありませんでしたか?

松岡:僕の場合は、自分で考えて一応答えを持っているけれども、それに対して確証がほしいというタイプの相談で、聞けば聞くほど同じことを言われたので、余計に迷うということはありませんでした。

——ポートフォリオはどのようにまとめていきましたか?

松岡:芸術文化学科の課題はイベントや企画が中心になるので、モノとしての作品がないことが多いんです。ポートフォリオをつくるときにした作業は、写真を集めて、当時書いたテキストを書き直して入れるくらい。ただ僕は、ポートフォリオについては、つくり込むことよりも使い方を重視していました。これは早期選考に通った友人のアドバイスを参考にしたのですが、会社説明会には必ずポートフォリオをプリントアウトして持参し、担当の人に見せながら相談したうえで、現物をそのまま渡して帰るということをしていました。その行為が内定に直接結びつくというわけではないのですが、それを繰り返すうちに、ポートフォリオを人に見せることにためらいがなくなってくるんです。

また面接のときには、プレゼンのスライドのような位置づけで、ポートフォリオを見せながら自分の言葉で説明し、それに対して質問をもらうという使い方をしていました。ポートフォリオの考え方を、自分の作品を見せるものというよりも、自分が話すためのツールとして捉え直したので、すごくつくりやすくなったし、使いやすくなったと感じました。

——いろんな大人と意識的に話をしていた経験は、面接にも活きたのでしょうか?

松岡:面接には「面接官の方と楽しくおしゃべりをして帰ってくる」というモットーを持って臨んでいました。もちろん面接のための準備はしっかりしていきます。ただ、緊張しすぎると疲弊してしまうし、企業の面接官を務めるような方とお話ができる機会はなかなかないので、それをおもしろいと思わないともったいない気がしたんです。また、そうやってコミュニケーションをとっていると社内の雰囲気もなんとなく伝わってきますが、「面接」という緊張感のなかではそれも見えにくくなってしまう。なにより、せっかく挑戦するなら楽しくやったほうがいいと思っていたので、面接も楽しむ努力をしていました。

——内定先に入社を決めた理由を教えてください。最初から広告系の業界を志望していたのでしょうか。

松岡:内定先のADKは広告代理店ですが、最初はゼミの内容にも近いディスプレイ業界を調べていました。一方で、僕は父がグラフィックデザイナーで、父の仕事を見たり、家にあった『広告年鑑』のような本を読んだりするのが高校生のころから好きでした。街中のいろんな広告物が入れ替わっていくのを追うのもすごくおもしろかった。だから「広告が好き」という想いは就活をスタートしたときからすでにあり、代理店などの広告業界にもエントリーしました。

結局、ディスプレイ業界の企業ではご縁がなかったのですが、広告業界では最終面接までいったのが、ADKと、別の大手代理店グループのイベント分野の会社と、マーケティングやPR分野の会社の3社でした。そのなかでまずADKから内定をいただいたんです。その時点で自分のなかではADKに決めていましたが、ほかの2社の最終面接がまだ残っていました。僕は制作も好きなので、とりあえず全部やり切ってから考えようと思っていましたが、父に相談して言われたのは、「代理店から子会社に行くことはできるだろうけど、逆はやはり難しい」ということと、「分野を絞っていない代理店の方が、仕事としてもキャリアとしてもおもしろいのでは」ということでした。それは自分でも思っていたことだったので納得して、ほかの2社については最終面接を辞退させていただきました。

——美大に行ってよかったなと思うことはありましたか?

松岡:美大に入るまでは、自分の感覚や価値観を共有できる人が周りにあまりいなかったので、「偏った世界に来た」と吹っ切れたことがよかったです。人から「変わってるね」と言われていたようなことが、ここではそれぞれの考え方は違うけれど、当たり前に受け止められる。自分にとっては居心地がよかったです。就活をするうえでも、僕は一般採用で一般大学の就活生と一緒にエントリーしていましたが、美大生であるということがプライドとなっていたと思います。

——今後の目標や、やってみたいことを教えてください。

松岡:バイクが大好きなので、自分がほしいバイクを買えるくらいの仕事をしていきたいです。街乗りが好きで、足として日常のなかで使っていますが、サーキットまでレースを観に行ったり、キャンプ道具を積んでキャンプに行ったりもしています。