就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。
<センパイデータ>
名前:T.Rさん
学科:空間演出デザイン学科/2022年入学
内定先:トヨタ紡織株式会社/CMFデザイナー職
――まずは、「CMFデザイナー」という職種について教えてください。
T.Rさん:みなさんが一般的に車のデザイナーと聞いたときに想像するのは「プロダクトデザイナー」という職種だと思います。プロダクトデザイナーは車の形などを決めますが、CMFデザイナーはそれを実現するにあたり、Color(色)、Material(素材)、Finish(加工)という3つの視点で、どんな見た目や触り心地にしていくかを考える仕事です。車の個性を決め、ユーザーの生活に合わせたコーディネートをしていくことになります。
――空間演出デザイン学科(以下、空デ)では空間デザインやファッションデザインに進む学生が多いなか、T.Rさんがモビリティ業界に興味を持ったのはなぜでしょうか。
T.Rさん:私は空デのセノグラフィコースを専攻し、主に衣装デザインをしているのですが、3年の秋に就職先を考えたときに、舞台業界やファッション業界だけではなく、ほかの世界も見てみようと考えました。私はトヨタ自動車のある愛知県の出身で、車関連の仕事がとても身近だったんですね。そこで、車のデザインってどういうことをするんだろうと、工芸工業デザイン学科(以下、工デ)の稲田真一先生にお話を伺いに行ったのがきっかけです。稲田先生は長年、トヨタでカーデザイナーをされていて、空デの学びを活かせるCMFデザイナーという仕事があると教えてもらいました。
――ポートフォリオはどのようにまとめていったのでしょうか。
T.Rさん:モビリティデザインに関わる作品はつくったことがなかったので、3年生の秋ごろ、稲田先生に相談に乗っていただきつくり始めました。学校の会社説明会で来ていたモビリティ業界の企業の担当者は「車の作品がなくても大丈夫だよ」とおっしゃっていたのですが、単にファッションなどの作品を載せるだけではアピールが足りないと思い、CMFの視点である色や素材へのこだわりや、デザインの思考、プロセスを記載するようにしました。
――就活ではモビリティ業界の企業のみに絞ったのでしょうか。
T.Rさん:モビリティ業界の就活は、必ずインターンシップに参加しなければならないという特徴があります。就活が解禁される3年生の3月よりも3カ月ぐらい前から、1~2週間程度のインターンシップが始まるんです。なので、とりあえずインターンシップに参加して、万が一モビリティ業界が叶わなかったらファッション業界を受けようと考えていました。
でも、トヨタ紡織株式会社から、インターンシップ参加後に最終選考の案内が届いて4月に内定をいただいたので、結局ファッション業界は1社も受けずに終わりました。モビリティ業界は何社か受けましたが、最終面接に残ったのはトヨタ紡織のみです。
――インターンシップに参加する前に対策はしましたか?
T.Rさん:稲田先生や、工デのモビリティゼミの先輩に相談に乗っていただきました。
また、ポートフォリオの添削をしてもらったり、企業についてよりよく知りたいと思い、企業説明会でもたくさん質問しました。「選考もかかったインターンシップだと思って根を詰めすぎるよりは、社員やほかの学生との関わり方や楽しく取り組む姿勢も見ている」など、いろいろなことを教えてもらいましたね。

――インターンシップではどんなことをされたんですか?
T.Rさん:会社によって違うのですが、トヨタ紡織は内装だけの取り扱いなので、内装のカラーとマテリアルのデザインの提案をしました。ほかの企業では、未来を想定した車の内外装を含めてのカラーデザインをしたりしました。
――やはり車の知識は必須だったのでしょうか。車に特化した知見や技術が必要な場面はありましたか。
T.Rさん:車の知識があるに越したことはありませんが、インターンシップ中に「車の絵を描きなさい」ということはありませんでした。デザイナーとしての感性が重要視されているのかなと感じましたね。
車のデザインは、ファッショントレンドやカラートレンドをすごく意識する仕事だと思っています。インターンシップに参加していた学生のなかには、プロダクトやテキスタイルを学んでいる人もいました。
――トヨタ紡織へ入社を決めた理由を教えてください。
T.Rさん:インターンシップでトヨタ紡織の社員の方とお話しするなかで、積極的にコミュニケーションを取っていただける感じや、ただの学生ではなく、いちデザイナーとして関わってくださっている感じがすごくうれしかったんですね。さらに、最終発表会でのプレゼンで、デザイン部長にいままで私がデザインするときに意識していたことを評価していただけたこともうれしかったです。この会社だったら、楽しくいい仕事ができそうと感じたのが大きな決め手でした。
また、トヨタ紡織は自動車だけでなく、新幹線や航空機のシートも扱っており、幅広い移動空間のデザインに関われることも決め手のひとつでした。
――就活対策で大変だったことを教えてください。
T.Rさん:やはりインターンシップが一番大変でした。実はモビリティ業界のインターンシップは低学年から参加できるので、1、2年生のうちから参加している方も多いんです。そうするとインターンシップという場にも、車のデザインにも慣れていけるんですよね。それらの経験を経て、3年の冬のインターンシップで集大成として力を出し切るというのが一般的なようなのですが、私の場合はまったく参加したことがなかったですし、これまでほぼ服しかつくってこなかったので、車のデザインに取り組むのも初めてでした。初めて参加したインターンシップはかなり焦ってしまってボロボロになった記憶があります。
ただ、ほかの参加者のプレゼンを聞いたり、2週間一緒にホテルに泊まって合宿みたいに過ごすので、友だちができたのはいい思い出です。

――先ほど、わからないことは稲田先生やモビリティゼミの先輩に相談されていたと言っていましたが、そのほかにどのような情報収集をしていましたか。
T.Rさん:ネットの情報は見極めるのが大変だと感じたので、できるだけ最近インターンシップに行ったり受かったりした先輩から話を聞くようにしていました。キャリアセンターも頼っていましたね。一般的な就活サイトよりも、「ムサビ進路」が細かく、しかもデザインに特化した情報がまとまっていたり、先輩の体験談がたくさん読めたので助かりました。
――就活で早めに取り組んでおけばよかったなと思うことはありましたか?
T.Rさん:先ほど言ったように、インターンシップにもっと早く参加しておけばよかったと思っています。あとは、空デだとデザインソフトのIllustratorやPhotoshopをあまり使わずに過ごせてしまうんです。そのため、ポートフォリオの制作やインターンシップでほぼ初めて使うことになってしまいました。まず操作に慣れるところから始まったので、本当に苦戦しましたね。いま、ポートフォリオを見返しても、画面構成がもっと工夫できたんじゃないか、作品をもっとよく見せられたんじゃないかと思ってしまいます。入社してからも使うと思うので、早めに慣れておけばよかったです。
――今後の目標ややってみたいことを教えてください。
T.Rさん:いつか自分が関わったデザインの車が街を走っている姿を見たいです。メーカーでデザインすることの魅力は、自分が携わった商品が実際に使われているのを見られることだと思うので。
また、トヨタ紡織は海外事業に力を入れているので、海外トレーニーのような形で、1年間、イタリアやアメリカに派遣される制度があるんです。TOEICの点数が派遣条件のひとつなので、英語の勉強も頑張っていつか海外でも仕事をしてみたいなと思っています。
――最後に、後輩へのアドバイスをお願いします。
T.Rさん:大学で服をつくっていたからといって、ファッションの仕事に就かないといけないとか、それしか道がないと考えないでほしいです。私も3年の秋まではそう考えていましたが、企業の方からしたら、成果物としての作品よりも、どんなプロセスを踏んでやってきたかということが大切なんだと思います。だから、授業の内容に縛られすぎず、自分が興味を持った業界に「当たって砕けろ」の精神でやってみてもいいと思います。
もちろん、車業界の企業説明会に行くと、中には「車の作品が欲しいな」と言う担当の方もいますが、そうではない会社も多かったです。特にデザイナーの方々はいろいろな個性がある人が欲しいと思ってくださっています。
いま、モビリティ業界では自動運転やAIのような技術が出てきて、今後の発展に向けた過渡期のような部分もあります。そのなかで車好きな人だけが集まると、これまでの車の枠から飛躍していけない。むしろ、他分野の人や個性のある人が飛び込み、意外なことをしてほしいという企業側の希望もあるような気がします。私のように他分野を専攻している人も、美大生であることを活かして自由に感性を伸ばしていくのがいいと思います。
