就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。

<センパイデータ>
名前:O.Mさん
学科:基礎デザイン学科/2022年入学
内定先:株式会社博展/デザイナー職


――基礎デザイン学科から空間デザインの会社に就職するというのは、珍しい選択だと思います。なぜその業界を目指したのでしょうか?

O.Mさん:そもそも、みんなでひとつのものをつくることが好きなんです。大きなきっかけは、オープンキャンパスで学科の発表のリーダーを務めたことなのですが、それ以外にも1年生のころから「わらアートまつり」(新潟市民との協働で稲わらを材料にした立体作品を制作、展示するプロジェクト)や芸術祭など、学内外でいろいろなイベントに参加してきました。

また、アルバイト先の学童保育で子どもたちと季節のワークショップを行ったりもしていたので、みんなと楽しむ場づくりのようなことを今後もしていきたいなという思いから、空間ディスプレイに興味を持ちました。

――卒業後に作家の道を進む人も多いなか、就職という選択は最初から決めていたんですか?

O.Mさん:はい、ムサビに入学する前から決めていました。大学を選ぶときも、ここで勉強すればこういう業種に進めるかもというところを見据えて決めたので、就職はかなり前から意識していました。

――就活の情報収集はどのようにしていましたか?

O.Mさん:主にキャリアセンターです。空間系に詳しいスタッフの方がいて、何度も通い詰めて就活について質問したり、おすすめの本を紹介していただいたりして情報を集めました。

――就活の対策のなかで一番大変だったことはなんですか?

O.Mさん:エントリーシートを提出するまでが大変でした。当初からたくさんの会社に提出するよりも、本当に自分が興味のある会社に絞って勝負したいという思いがあったんです。なので、まずはいろいろな会社について調べ、そこから自分に合う企業に絞っていくという方法をとったのですが、ずいぶん時間がかかってしまって……。3年生の春から秋にかけて、キャリアセンターで探したり、友人に相談したり、展覧会に出かけて空間デザインを手がけている会社を調べ、1社ずつWEBサイトを見たりしていましたね。あとは学校主催の会社説明会にもたくさん参加して、企業の担当者さんに直接話を聞きました。志望先を絞ること自体が勇気のいることでもあったので、大変だったなと思います。

――企業を絞っていくなかで、大切にしていた条件や軸のようなものはありましたか?

O.Mさん:会社の雰囲気です。会社説明会に来てくださった方々と会話していると、会社ごとにカラーがあるなと感じたんです。

なかでも入社先に選んだ博展は親身な雰囲気が素敵だなと思いました。それから、いろいろなことに挑戦できそうな気がしたんです。デザイナー個々の得意なところを活かしたプロジェクトが多く、たとえば光の演出を得意としている方が、それを活かせるプロジェクトを立ち上げていたりとか。社内で相互理解を深めながら得意なところを伸ばして、時にはジャンルを超えた挑戦もおもしろがってくれる風土があると、インターンシップをするなかでも感じていました。

――面接については、練習もたくさんしたのでしょうか。

O.Mさん:しましたね。言いたいことや伝えたいことは山ほどあるんですが、そのなかでどこをピックアップするか、客観的に相手にわかりやすい伝え方ができているかなど、何度も練り直しました。キャリアセンターの方と1対1で練習したこともありましたし、友人と質問をし合ったりもしました。

――就活を進めるなかで、もっと早めに取り組んでおけばよかったなと思ったことはありますか?

O.Mさん:就活を意識しすぎずに、興味のあることにもっと挑戦すればよかったなと思います。そのなかで生まれる「これはちょっと違うな」「これはやっぱり好きだな」といった感情が、自然に自己分析にもつながってくると思うんですよね。

たとえば、私は離島に興味があるのですが、短期の島留学やアートプロジェクトのお手伝いなどいろいろ機会はあったにもかかわらず、どうしてもハードルが高く感じてしまい、結局参加できなかったんです。でもいま思えばそういうところにも気にせず参加して、人と知り合ったり、話したりしておけばよかったと思います。

――就活で迷った際は、誰に相談していましたか?

O.Mさん:一番は同じ学科の友人です。やはり、入学してからずっと自分の作品を間近に見てきた人でもありますし、以前からお互いに「こういう会社に行って、こんな仕事がしたい」と深く話し合ってきた経緯もあったので、よく相談していました。

――今回、ポートフォリオは提出しましたか?

O.Mさん:はい、出しました。自主制作の作品も入れつつ、ほとんどは授業の課題で制作した作品で構成しました。授業に本気で取り組むことも大切にしていたし、信頼できる先生が講評してくださった作品でもあるので、自信を持って提出できましたね。空間デザインを中心とした作品は1、2点で、それよりも成果物のひとつに空間デザインのビジュアルが含まれていたりするほうが多かったかもしれません。

――ポートフォリオには課外活動も入れていましたか?

O.Mさん:はい、オープンキャンパスや、復興支援の一環としてデザインに関わっていた課外活動についても掲載しました。学科の専門領域のスキルに加えて「私はこういうこともできます」とアピールするには、授業の課題だけでは不十分だったように思います。

先輩のポートフォリオももちろん参考になりますが、幅広く画集や雑誌、書籍全般を見るのもおすすめです。“ザ・ポートフォリオ”という感じにしなくても、自分はこういう書籍が好き、こういう雰囲気が好きというのを意識すると、その人らしさが表現できるのではと思います。フォントや紙の素材にもこだわりながら、ひとつの作品をつくる気持ちで取り組むと楽しいですよ。

――幅広いに対応できる力を身につけて就活に臨む方が多い印象ですが、O.Mさんの場合ははじめから特定の企業を意識して就活を行っていますよね。

O.Mさん:いままでやってきたことを集めたら、運良く博展につながった感じですね。ただ、企業選びの時点で、その企業の傾向に合わせるというより、ある程度自分に近しい考えを持っていたり、自分の好きなものを全面に押し出していたりする会社かどうかということを大事にしていました。

――就職を通して、美大生でよかったなと感じたことはありますか?

O.Mさん:就活に直接つながるっているかはわからないですが、最高の仲間に出会えたことです。マニアックなデザインの話ができるというのはもちろんですが、美大生の特性なのか、繊細で物事を深く考える人が多いように感じます。素敵な感性を持っている人にたくさん出会いました。そのおかげで自分の視野も広がったし、制作で悩むことがあっても明るく乗り越えることができました。

――今後の目標や、やってみたいことはありますか?

O.Mさん:海外旅行をたくさんしたいです。自分の世界に閉じこもらずに、いろんな考え方の人や文化と出会ったり、その街でしか見られない景色や文化を見てみたいなと思っています。

仕事面では、空間デザインはもちろん、学童のアルバイトや震災の復興活動に参加した経験から、豊かな人と人のつながりが生まれるようなイベントづくりができたらいいなと思います。