就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。
<センパイデータ>
名前:森 海斗
学科:油絵学科 油絵専攻/2021年入学
内定先:株式会社光文社/総合職
――油絵学科から出版社というのは珍しい選択だと思うのですが、どうして出版の道に進んだのでしょうか?
森 海斗さん(以下、森):出版は中学生のころから漠然と興味のある職業でした。とはいえ、大学に入学してからは就職のことはなにも考えずに3年生まで過ごしていました。就活や新卒という言葉が耳に入ってくるようになったとき、ふと「そういえば、出版社っていう選択肢もあるな」と思ったんです。せっかく新卒というカードを持っているんだから、編集職を第一志望に、本に関わる仕事全般を視野に入れて就職活動を始めることにしました。
出版社以外にも、編集プロダクションや書店、コンテンツIP(知的財産権)を管理する会社なども検討しましたが、「編集者になりたい」という気持ちが一番強くて、その次に「本に関わる仕事がしたい」と思って出版業界を志しいました。
――就職以外の道も考えたりしたのでしょうか?
森:作家活動も少し考えましたが、大学を卒業して作家としてスタートを切るということは、収入がゼロか、それに近い状態から始まることを意味します。アルバイトをしながら生活していかなければなりません。それなら、新卒で入社して働いたほうがいい会社に入れるだろうし、いい待遇も受けられる。作品を描けなくなるわけではないので、長期的に見てベターなのではないかと考えて就職を選びました。
――就職活動はいつごろから始めましたか?
森:3年生の6月頃からキャリアセンターに通い始めました。その後、10〜11月ごろから大手企業のエントリーシートを書き始めましたね。油絵学科は就職する人が非常に少なくて、親しい友人には就職活動をしている人がひとりもいなかったんです。そんななかで運よく遅れずに始められたなと思っています。
――就活で特に大変だったことはなんですか?
森:一番は、仲間がいないことでした。たとえばある出版社の企業説明会では、100人くらいの学生が集まっていて、「◯◯もここ受けてたんだね」「やっぱり受けるよね」といった声が聞こえてくる。でも自分はひとりで静かに座っている。その孤独感が特に辛かったですね。文学部なんかだと出版社志望の人も多くて、エントリーシートを見せ合ったり、面接の模擬練習をし合ったりするそうなのですが、そういう環境がなかったのは心細かったです。
――情報収集はどのようにしていましたか?
森:一番頼りにしたのはキャリアセンターでした。面接練習はもちろん、本当に出版社でいいのか、ほかに受けるべき企業はないのかといった進路相談から、この会社って実際どうなのだろうといった細かいことまで、幅広く相談に乗っていただきました。
あと、これは本当にラッキーだったのですが、知り合いのツテで光文社で働いている方と出会うことができ、メールで2回ほどお話を伺いました。企業説明会では得られない、会社独自の視点や求めているものを知ることができ、とても参考になりましたね。
――就活で早めに取り組んでおけばよかったと思うことはありますか?
森:ふたつあります。ひとつ目は圧倒的にSPIですね。なにしろ3年と半年はずっと絵を描き続ける生活だったので、特に数学が弱くなっていました。美大生は国語は比較的できると思うのですが、SPIの数的処理は要注意です。特に出版社の場合、まわりが東大、京大、早慶などいわゆる高学歴な人たちなので、SPIで足切りされないようにすることが重要です。面接まで行けば、美大生っておもしろいことだらけだと思うので、いろいろ話せるかなと思います。
ふたつ目は、メールボックスを確認する習慣をつけることです。いろいろな企業にエントリーすると大量のメールが来ますし、大学からも学内イベントのメールが来ます。そのなかに、不要な情報と、すぐ確認しておかないとまずい情報が混ざっているんです。「明日確認すればいいや」を繰り返していると、エントリー期限を過ぎてしまったりすることもあるんですよね。実際に、一番行きたかった会社のエントリーシート提出期限を過ぎてしまったことがあって……。結果的に別の出版社で働けることになったのでいまは笑い話ですが、こういった小さなリスクやミスを潰していけば、それだけ成功率も上がると思います。
――ポートフォリオは作成しましたか?
森:ポートフォリオは、就職活動のために制作したというよりは、学校の授業のなかでつくる機会があったんです。そのポートフォリオをそのまま面接に持っていき、「よかったら見てください」という形で使用しました。
――面接ではどのような工夫をされましたか?
森:「面接官の方と楽しくおしゃべりをして帰ってくる」というモットーで臨みました。出版社の面接官の多くは編集者なので、普段から作家の先生方と話をされている。ものづくりをしている人間に対する接し方が上手なんですよね。美大生としての個性を割と押し出しても大丈夫だと感じました。
僕は音楽活動もしているんですが、ある出版社の面接で「ラップをやっています」と言ったら「じゃあ、やってよ」と言われ披露したこともありました。ほかにも、面接官の方がポロシャツに短パンで現れて、こちらがスーツで緊張している、なんていう温度差もありましたが、そういった自由な雰囲気も出版社ならではかもしれません。
それから、自分の経験をおもしろく書く・語ることを意識しました。たとえば特技の欄には「料理が得意です」ではなく、「麻婆豆腐をつくるのが得意です」と目を引く文章を書く。そこに食いついてもらえたら、エピソードトークに展開する、といった“おもしろく話す”練習をキャリアセンターでもしていました。本番の面接を想定して話をしたときに、楽しく聞いてくれているかどうかというのは自分の指標になりました。
――インターンには参加されましたか?
森:ウェブコミックを運営している会社に2社ほど参加しました。両方ともグループワーク形式でしたが、出版社の場合、インターンはあまり重要視されていない印象です。もちろん、インターンで顔を覚えてもらって、面接で偶然会えたらそこから会話が生まれますし、長期インターンから正社員になるケースもある。でも、優先順位としては、エントリーシートの作成やSPI対策、本を読む時間を確保するほうが大事かなと思います。
――今後の目標を教えてください。
森:光文社は3年前にウェブ上で「COMIC熱帯」というサービスを始めています。そこで研鑽を積んで、ゆくゆくは新しい雑誌や媒体をつくり出したいなと思っています。
実は僕、SFが好きなんです。いま、SF雑誌がほとんどなく、SFは衰退したといわれていますが、SFというジャンルが再び注目されつつあるように感じてるんです。なのでSFや異世界転生など、非現実をテーマにしたコミックレーベルには勝機があるのではないかと考えています。こんな風に新しい媒体をつくれたりしたら、出版に携わる者として一番楽しいだろうなと思っています。