就職活動ってどこから手をつけるのか、どう進めていけばいいのか分からない。ネットに溢れた情報よりも、同じムサビの先輩のリアルな話が役に立つはず。就活を経て進路を切り拓いた先輩に、これまでの道のりや大変だったこと、やっておけばよかったことなどを聞きました。

<センパイデータ>
名前:栗林萌華
学科:油絵学科版画専攻/2021年入学
内定先:ビーコンコミュニケーションズ/デザイナー職


――グラフィックデザイナー職で内定をもらったということですが、ファイン系である油絵学科からデザイン系の仕事を目指した経緯について教えてください。

栗林萌華(以下、栗林):入学当初は就職について意識せず、ただ絵を描くことが好きだったという理由で油絵学科に進学しました。その後、徐々に就職活動を意識し始めたころに、デザインの仕事のほうが自分に向いているのではないかと感じるようになったんです。油絵とグラフィックデザインは、どちらも平面で表現するという点で共通しており、大きくかけ離れているわけではありません。そのため、しだいにグラフィックデザインについても学んでみたいという気持ちが芽生えてきました。

――就職以外の道を考えたことはありますか?

栗林:大学院への進学と就職、どちらの道に進むべきかとても迷いました。悩みながらも、同時進行で就職活動していたんです。最終的には「新卒での就職活動は人生で一度しか経験できないし、やってみても損はないはず」と思うようになり、就職に舵を切りました。

――就職活動で一番大変だったことを教えてください。

栗林:ポートフォリオに載せるための作品づくりに苦労しました。油絵学科だったので、アート作品はあっても、デザイン作品がまったくなくて。学科の友人や先輩には就活をする人が少なかったので、どう進めたらよいのかわからず、独学でデザインの勉強をして作品をつくることから始めました。

――ポートフォリオ制作はどのような方法で進めていったのでしょうか?

栗林:まずはデザイン系の学科の先輩や友だちにつくり方を聞いたり、キャリアセンターの方に手取り足取り教えてもらったりしました。そして、アドバイスいただいた修正を反映したら、またすぐにチェックしてもらう。それを何度も繰り返しました。

3年生の夏にはインターンシップに積極的に参加し、社員の方に制作物を見ていただき、ブラッシュアップするようにしていました。

――志望する業種に合わせてポートフォリオのテーマを決めたと思うのですが、栗林さんはどんなテーマを設定したのでしょうか?

栗林:パッケージデザインに興味があったので、それを強く打ち出した作品を3つほど制作しました。意識したのは、単なるグラフィックデザインの作品を載せるのではなく、「この商品を本当に売るとしたら、どのように見せるのか」「どのような広告展開をするのか」など、宣伝のことまでトータルで考え、その軌跡が見えるような作品づくりです。

3作品と聞くと、ポートフォリオの作品数としては少なく感じるかもしれませんが、1作品あたりに割いたページ数が多かったため、もの足りない印象はなかったと思います。さらに、自分の実績として、最後に油絵作品も多数掲載したポートフォリオに仕上げました。

――まわりに就職活動をする人があまりいないなか、独学で進めるのは難しかったはずです。どのように情報収集しましたか?

栗林:積極的に外に出るようにしていました。たとえばデザイン系の就活イベントや、インターンシップに参加したり。そうすることで、自分が目指している職種で実際に働いている人からリアルな話を聞くことができました。

また、制作物を直接見てもらえる場では、アドバイスをもらうこともできました。インターネットを見ながらひとりで黙々と作業をしていても、なかなか進まないんですよね。外に出て、人と会うことで得られる学びは、とても多いと思います。

――インターンはどのような企業に行かれたんですか?

栗林:2社に参加しました。1社目は、お土産や食品がメインのブランディング会社です。グループワークで、お土産ブランドをゼロから作る、といった課題に取り組みました。もう1社は印刷会社で、こちらはデザインをするというよりもイベントの企画立案などをグループワークで行いました。

――早めに取り組んでおけばよかったと思うことはありますか?

栗林:普段からあらゆることに疑問を持ち、それに対して自分なりの考えを持つクセをつけておくことですね。日ごろからそうしていないと、面接で質問されたときにすぐに答えられなかったり、言葉に詰まったりしてしまうことが多かったんです。「なぜ、このようなデザインにしたのだろう?」「あの人はなぜ、そのような発言をしたのだろう?」など、深く考えるクセが身についていたら、面接の通過率も上がったかもしれません。

そうやって鍛えられた思考力は、社会人になってからも無駄にはならないはずです。もっと早く、自分を磨くスキルのひとつとして身につけておけばよかったですね。

――就活するうえで、業種は絞っていましたか?

栗林:業種はまったく絞らず、15社ほど受けました。広告系、化粧品関係、パッケージ会社など、本当にさまざまです。最初は気になる会社や知っている会社を受けて、それから先輩に勧められた会社なども受けました。

――就職先にピュブリシスグループ傘下のビーコンコミュニケーションズを選んだ決め手を教えてください。

栗林:多くの会社と面接をしたなかで、社風や社員の方の雰囲気が自分に合うと感じ、面接でもきちんと「会話ができた」という実感があったことです。

面接って、準備をすればするほど、想定外の質問が来たときに頭が真っ白になってしまうことがあるんですよね。ビーコンの面接のときは、あえて準備をしすぎずに臨んだんです。だからこそ、本来の自分に近い状態で発言することができたんだと思います。

――面接対策として事前に台本をがっちり固めすぎると、自分の言葉で話せていない気がする、という声も多く聞かれますよね。

栗林:そうですね。考えすぎると、表情も硬くなってしまいがちです。「準備をしすぎない」ことは勇気がいることでもあるのですが、企業ごとの想定回答を考えることに時間を割くよりも、普段から物事を深く考える習慣を身につけたり、自己分析に時間をかけたりするほうが有意義だと思います。そうすれば、想定外の質問をされたときでも、落ち着いて自分の言葉で答えることができるのではないかと思いました。

――ほかにも入社の決め手になった点はありますか。

栗林:ポートフォリオに掲載したデザイン作品だけでなく、油絵のアート作品にも興味を持ってくださったことが印象的でした。

多くの会社からは「デザインとアートは別物だ」と釘を刺されることが多かったんです。問題解決のためのデザインが大切と頭ではわかっていても、私はちょっと変わったデザインにも挑戦したいし、これまで培ってきた個性も出したい。そのせめぎ合いに苦しんでいたんです。

そこで、思い切ってビーコンの面接でそのことを相談してみました。すると「栗林さんのように悩むデザイナーは多いよ。だから引き出しを増やしつつ、自分がいいと思う案を出しながら、同時に王道の案も出せるようになっていったらいいんじゃないかな」と丁寧に回答いただきました。このような考えを持つ会社で働けたら、自分の個性を抑え込むことなく、自分らしく働けそうだと感じました。

――これからの目標はありますか。

栗林:まずは、英語のスキルアップです。ビーコンは外資系の企業で、社長は外国人ですし、職種によっては英語ができる方が多いんです。クリエイティブ職は新卒採用時の英語は必須ではありませんが、仕事内容の本質的な意味を理解しながら仕事ができるようになりたいので、積極的に勉強していきたいと思っています。

また、就職後も、油絵の制作は続けていきたいです。賞に応募しながら、仕事をする。それが自分なりに出したこれからの生きる道です。

――最後に、これから就活を始める後輩へメッセージをお願いします。

栗林:就職か進学か、悩んで立ち止まっているくらいだったら、まずは就活をやってみてもいいんじゃない?って思います。結果論ですが、私自身、就職活動を通して多くの人生経験を積むことができました。

美大生のなかには、「会社で働くのは向いていない」と思う人が多いかもしれません。私もそうでした。でも、やったことのないことを想像だけで選択肢からはずしてしまうのはもったいない。まずは行動し、経験しながら考えていくと、きっと見えてくるものがあると思います。