学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は、ムサビの同級生4人で起業し10周年を迎えたクリエイティブチーム「heso(ヘソ)」でクリエイティブディレクターを務める須藤千賀さんです。同級生との起業の良さや苦労、そしてなかなか聞けないお金の話についてもお聞きしました。

●ゲスト講師 須藤千賀さん(heso/クリエイティブディレクター)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)


自分たちの表現を発信し続ける「クリエイティブチーム」

酒井博基(以下、「酒井」)まずは須藤さんがムサビを卒業後、どういった経緯で同級生と起業することになったのか、そしてクリエイティブチームhesoでどのようなお仕事をしているのかを教えてください。

須藤千賀さん(以下、「須藤」)hesoは、2007年に空間演出デザイン学科ファッションデザインコースを卒業した同級生4人で立ち上げた会社です。メンバーは私と浅井晶木、澤田美野里、尾野由佳。ただ、在学中からチームを組んでいたわけでもなければ、「将来は起業するぞ」と決めていたわけでもありません。実は私は就職したかったのですが、就活が全然うまくいかなかったんです。就職するなら自分が入りたい会社に……と思っていたので、エントリーシートを書いたりする一般的な応募方法ではなく「この会社に入れてください!」という、とても一方通行の片思いのような就活をしてしまい、結局、自分でなにかやっていかないといけない状況をつくりだしてしまった。それでも運よくムサビの助手の仕事に就くことができ、助手をしながらその先の生き方を考える時間を持つことができました。これは本当にラッキーだったと思っています。その期間にいまのhesoのメンバーに声をかけて活動を始めたというのが、最初のスタートでした。

hesoは自分たちのことを、デザイン会社ではなく「クリエイティブチーム」と表現しています。実際にはデザインの仕事をしていますが、いわゆるデザイン会社と違うのは、クライアントから頼まれた仕事だけでなく、自主制作の作品を発表する機会をつくっているところです。たとえば、最近はシルクスクリーンの大きなタペストリーの作品を発表しました。自分たちがやりたいことを、自分たちの表現で発信しています。

クライアントからの仕事は、コロナ禍前はファッション系のイベントやポップアップイベントの販促などを多く手がけていました。グラフィックデザインももちろんしますが、展示やミュージアムショップのコンセプトや空間づくりなどの仕事もしています。コロナ禍を経て、最近増えているのはパッケージの仕事。デザインだけでなく、素材を考えたり手作業で印刷をしたりもしています。

また、「SOAK(ソーク)」というオリジナルのプロダクトブランドを立ち上げ、バッグなどをつくっています。自分たちがいいと思うものをつくり、それを見てくれた人から新たな仕事の依頼があればうれしいですし、頼まれた通りにつくるだけではなく、自分たちのつくるものややりたいことを発信しながら、仕事のチャンスにつなげたいと思っています。

質問1 同級生と起業してよかったことと大変だったことは?

(酒井)ムサビでは卒業して友だちと起業するケースは割とあるのではないかと思いますが、国税局の調査では、起業して10年生き残れる確率は6.3%というくらいシビアな世界です。そんななかで2023年に10周年を迎えたhesoですが、同級生と起業して良かったことと大変だったことはなんでしょうか?

(須藤)まず良かったことは、とにかく毎日楽しいということです。気心が知れていて仲がいいので、よく仕事しながらおなかを抱えて笑っていますし、ランチの時間も話が尽きないですね。就職して職場で笑っていないという人の話も聞くので、hesoでよかったなあと思います。

大変だったことは、会社が軌道に乗るまでの資金面です。フリーランスの場合を考えても、最初はひとりが生きていくだけのお金を稼ぐのも大変ですよね。それがhesoは最初から4人だったのでなおさらでした。お金に関してはみんなすごく我慢強かったので、その時期を乗り越えられたという感じです。

ただ、これは身の周りでもわりと聞きますが、ひとりで起業した場合、仕事が増えて手が回らなくなってきたときに、クリエイティブ面でも人間的にも信頼できるメンバーを探して仲間に加えるのはすごく大変だと思います。hesoは途中でスタッフをひとり増やしましたが、最初から同じビジョンでお互いのクリエイティブを信頼し合える4人で土台をしっかりつくってきたので、人材面での苦労はあまりなかったと思います。

(酒井)立ち上げ当初から今も仲のいい4人ということですが、揉めたりすることはありませんか?

(須藤)お互いの態度や働き方についてなど、クリエイティブに関してはそれぞれの主張でぶつかることもありますが、人間関係での揉めごとはありません。

(酒井)そこがまさにデザイン会社ではなくクリエイティブチームだ、ということの現れなのかなと感じました。会社に属しているという意識でいると、会社を運営することが目的化してしまったり、会社の仕組みや制度に対する不満がトラブルの原因になることもある気がします。hesoは依頼された仕事だけでなく自分たちのやりたいことをやるために結成しているチームであり、いいものをつくり世に送り出すための手段として会社という形態をとっているというわけですね。

質問2 起業から3、5、7、10年のそれぞれの節目で苦労したことは?

(須藤)今回の機会にあらためてこの10年を振り返り、それぞれの節目で変化があったことに気づきました。起業の経緯をもう少しくわしくお話しすると、実は最初は起業しようと思っていたわけではなかったんです。助手の時代から少しずつhesoとして仕事をいただくようになったのですが、ありがたいことに大きな企業からの依頼が続いたんです。そのときに、フリーランスで仕事を受けると、その報酬から源泉徴収税を引かれるということを知りました。さらに大きな企業だとフリーランスに直接発注するのではなく、あいだに制作会社などが入ることもあり、源泉徴収税のほかに手数料が引かれることもあります。そうすると、100万円の仕事をしたのに80万円くらいしか入ってこないこともある。これがけっこう衝撃でした。その経験をしたあと、別の依頼をくださった企業が「法人化しませんか?」といってくれたんです。法人化したら源泉徴収税が引かれることはないし、直接取引ができるので手数料も発生しません。そこで、わりと勢いで法人化してしまったようなところがあります。

法人化したものの、最初は安定した仕事がないので、とにかく不安ですし苦戦していました。3年目くらいまでは、知り合いのツテで仕事を紹介してもらったり、金額が低くても引き受けたりしていました。苦しかったし、とにかくできることはなんでもやろうという時期でしたね。そんななかでも、やはり頼まれた仕事だけではなく、自分たちのつくりたいものもつくるというのが私たちのいいところだったと思います。ブランドを立ち上げてバッグをつくったり、自分たちの紹介になる紙媒体をつくったり、がむしゃらに動いていた気がします。

5年目くらいになって少しずつ継続の仕事が増えて安定してきたので、これからのことを考えて営業活動に力を入れることにして、展示会に出展したんです。そのときは本当に具体的にわかりやすく、女性の視点でグラフィックをつくるということをキャッチコピーで伝えました。本当は女性だからといってデザインの指向が同じということではありませんが、世の中は女性をひと括りのイメージで捉えている。特にクリエイティブに関しては、女性だからコスメ、女性だからウェディングという考え方で、すごくたくさん仕事がくるようになりました。それらは本来は自分たちらしくない仕事ですが、お金は安定してきた、という5年目でした。「これでいいのかな」という思いはありつつ、会社を継続させるために、内容を選ばずに仕事を受けていた時期です。

引き受けた仕事に関しては責任を持ってやりつつ、ファッション系などのhesoらしいと思える仕事も続けながら、7年目くらいになったところでコロナ禍になりました。ここでまた大きく状況が変わりましたね。それまでメインのクライアントだった商業施設が苦戦を強いられたので、私たちにももちろん影響がありました。ただ、そのタイミングでこれまで続けてきた仕事を見直し、hesoらしい仕事ができているかどうかを考えることができました。5年目の展示会からすごく忙しくなってしまっていたので、自分たちはこれからの時間をどう使いたいのか、なにを創造したいのかを整理して、ウェブサイトもつくり直し、あらためて積極的に「クリエイティブチーム」と名乗ろうということになりました。

(酒井)コロナ禍で世の中のいろんなことの意味づけがガラッと変わりましたし、産業の構造も変わりました。自分たちのやりたいことを整理しながら、4人でどんなことを話し合いましたか?

(須藤)私たちはいつも話しすぎているくらい話しているので、あらためてこのトピックについて話し合ったということではないんです。不安やこれからしたいことなども日常的に話しています。それでも、ウェブサイトをつくり直すにあたり、初めてきちんとこれまでのhesoに向き合った部分はあったかもしれません。いままでhesoの自己紹介は、過去の仕事でしか伝えてこなかったので、新しいウェブサイトでは自分たちのビジョンを伝えながらやってきたことを見せたいねということをすごく話し合いました。

(酒井)それぞれの節目で本当に進化をしてきたんだなという印象ですが、会社というのは安定してきたと思ったらまた変化があったりと、絶え間ない変化の積み重ねですね。

(須藤)本当にそうだと思います。大学生のころの1年というのがものすごく人を変えるように、hesoもずっと変化のなかにいて、「10年生」という感じです(笑)。毎年状況がすごく変わりますし、自分たちも変わっていく。これはおそらく就職をして企業に勤めていたら味わえない変化だと思います。


同級生4人で会社を立ち上げさまざまな変化を乗り越えてきた須藤さん。後半ではメンバーそれぞれの個性の生かし方や役割分担、そしてお金の話などもお聞きします。

> 後編を読む


<講師プロフィール>
須藤千賀(heso)/クリエイティブディレクター

2010年に活動をはじめた4人のクリエイティブチーム「heso(ヘソ)」でクリエイティブディレクターを務める。体の中心におへそがあるように、自分たちのクリエイションの中心にあるアイデア、価値観、創造力を大切にしている。変化することを楽しみながら、“へそ”から生まれるものづくりの幅を広げている。
http://heso-cha.com/