フリーランスに役立つ予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ全5回の課外講座。第2回の後編では、フリーランスに特化したお金と保険のサービス「FREENANCE(フリーナンス)byGMO」事業責任者の次松武大さんに聞いた、実際にトラブルが起こってしまったときの対処法や契約時のTipsなどをお届けします。
●ゲスト講師 次松武大さん(GMOクリエイターズネットワーク(株)執行役員/フリーナンス事業責任者)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
※役職・サービス内容などは講座開催当時(2022年12月28日)のものです
質問4 トラブルになってしまったら誰に相談すればいいですか?
酒井博基(以下、「酒井」)用心していても起こってしまうのがトラブルということで、トラブルになってしまった場合にどうすればいいのかを教えてください。
次松武大さん(以下、「次松」)本気のトラブルだったらもう弁護士に依頼するしかないかもしれませんが、お金がかかりますし、弁護士がついたとたんに相手もより強固な姿勢を示してくると思います。トラブルは基本的には地道に交渉するしかないのですが、フリーランスのトラブルってだいたい“あるある”なので、身近にフリーランスの方がいれば、まずは経験者に話を聞くのがいいと思います。もしくは、クライアントの立場に近い会社員の知り合いなどもいいですね。クライアントの言っていることが、実は企業では常識ということもあったりするので、身近に「これどう思う?」と聞ける人がいれば、打開策が見つかったり気が楽になったりということがあるかもしれません。
(酒井)クライアントの担当者レベルで話が止まっているケースもあったりするので、クライアント企業の問い合わせのメールアドレスに問い合わせてみるのも一つの手ですよね。
(次松)そうですね。その方向性だと、公正取引委員会や全国中小企業振興機関協会が設置した「下請かけこみ寺」などに相談してもいいと思います。おそらくひどいケースになるような発注をするクライアントは、他のクリエイターに対しても同じようなことをしている可能性があるので、ちゃんと声を上げるという意味で、匿名で報告するなどはありかもしれません。
(酒井)仕事を受ける立場とすると、こんなことで揉めてしまっていいのかなと思うかもしれませんが、やっぱりトラブルを起こす人は繰り返し起こしますし、関係性が改善されることを望むのであれば大事なことだと思います。
質問5 病気やケガで仕事ができなくなったり、仕事もお金もないときはどうすればいいですか?
(酒井)これも当然起こりうることとして、体調の問題で仕事ができなくなるケースを挙げました。仕事もお金もないときはどうすればいいですか?
(次松)病気やケガをして休まなければいけなくなったときにそれなりの貯金がないと、まさにこの状態に陥ってしまいますね。会社員は会社の保険で守られていますが、フリーランスは良くも悪くも自己責任なので、フリーランスになったら、まずは3カ月分の生活費くらいの貯蓄を目標にするといいと思います。できれば1年分くらい貯めたいところですが、まずは3カ月分を目標にしましょう。
また、弊社のサービスでは「あんしん補償プラス」という、病気やケガで仕事ができなくなったときに最長1年間の所得の補償が受けられる保険もありますし、弊社以外にもそういったフリーランスのための保険がありますので、フリーランスをやるからには自衛策として保険に入っておくといいと思います。
(酒井)あらゆることが起こりうるという心構えと保険が大事ですね。
(次松)あとは、みなさんは若いので、親に頼れる環境があるのであれば、まずは親に頼りましょう。恥を忍んででも、まず親に頼れるかどうかを考えるというのが、フリーランスのいちばんのTipsだと思います。
質問6 契約時に著作権など気をつけた方がいいことってありますか?
(酒井)すでに金額や納期のことなど、仕事を受ける際のポイントを教えていただきましたが、契約や著作権については何に気をつければいいでしょうか。
(次松)復習になりますが、契約時に必要なのは、①納品物が何なのか、②金額、③納期、④支払い期日の確認です。この4点は何らかの形で残す癖をつけておいた方がいいですね。口頭のやりとりで聞き忘れてしまったら、「金額っていくらでしたっけ?」みたいなLINEを送ってもいいです。もしそれをスルーされるようであれば、その仕事は受けない方がいいかもしれません。
(酒井)支払い期日の話で、FREENANCEの「即日払い」というサービスで買い取れない請求書があるとお聞きしましたが…。
(次松)はい。支払い期日が書いていない請求書については買い取っていないんです。フリーランスの方で、請求書に支払い期日を書いたことがないっていう人が、実は結構いらっしゃいますが、「即日払い」は請求書を買い取るサービスなので、そのお金が実際にいつ回収できるかという支払い期日がないと買い取ることができません。「即日払い」のためということではなく、いざというときのために支払い期日は書いておいたほうがいいと思います。
取引の締め日から支払日までの期間を設定する“支払いサイクル”や“支払いサイト”という言葉があります。「月末締め翌月末払い」の場合、仮に今日納品したとしたら、6月末締めになり7月31日の支払いになります。「翌々月末払い」という場合だと8月31日に支払われます。この違いは生活に関わってくることもあると思うので、支払い期日や支払いサイクルについては事前に確認しておいたほうがいいですね。
(酒井)それを聞くことは全然失礼なことではないんですよね。大抵の企業の場合、経理部門がお金のことをやっているので、支払いサイクルなど、経理が作業しやすいようにルールがつくられているはずです。それを確認して請求書に支払い期限を書くということですね。逆に、書いておかないと、まだお金が振り込まれていないけれどどのタイミングで聞けばいいのか分からなかったり、結構トラブルになりやすいポイントかもしれませんね。
(次松)未払いのトラブルは、フリーランスの方はほぼみなさん経験しているのではないでしょうか。本当に悪意のない支払い漏れなどが起こり得るんです。下請法(下請代金支払遅延等防止法)という法律もあって、基本的には企業の支払いは納品から60日以内というルールになっています。それによると、6月1日に納品して翌々月末払いだと60日を超えてしまうので違反となりますが、これについては、実際は結構カジュアルに守っていない企業がいるというのも事実です。ただ、当然の権利としてはあるので知っておくといいと思います。
さらにいうと、見積書・請求書のほかに“検収書”というものもあります。納品したものを、企業側が品質チェックしてOKしたという書類です。つまり、納品日から実際にその仕事が完了となるまでにタイムラグがあるわけですが、下請法の基準になるのは原則として納品日になります。
(酒井)著作権についてはどうでしょうか。
(次松)著作権については、大きく分けて“著作財産権”と“著作者人格権”がありますが、例えば企業が「制作物の著作権をください」というときには、基本的に著作財産権を指しています。納品したものに対して、お金を払ってもらって権利ごと引き渡すという形式が、著作財産権の譲渡ということになります。逆に、著作財産権を残したまま広告やコンテンツに使う場合は、ライセンスという形式をとります。ライセンス形式だと使用を続ける限り継続的にお金が発生するので、著作物に対してはライセンス形式にできた方が、フリーランスにとってはいいんじゃないかなと思います。
もう一方の著作者人格権というのは、作品をつくったときに必ず作者に発生する権利で、他人に譲渡することはできません。著作者人格権にどういう権利があるかというと、つくったものを作品として公表するかどうかを決める権利や、著作物の内容を勝手に改変されない権利などがあります。例えば、クライアントが広告の都合に合わせて制作物をトリミングしたいということになったときに、作者は著作者人格権を行使してこれを拒否することができます。ただ、クライアントとしてはお金を払っているので、使用についてはもちろん自由度が高い方がいいですよね。その落とし所として、契約書に使用についての条件が書いてあることがあります。リサイズは自由にやらせてくださいとか、イラストの上にかぶらないように文字を乗せるのは自由にやらせてくださいなど、企業側のやりたいことが提示され、その場合には著作者人格権を行使しない、ということを確認した上で契約書を交わすことになります。もし制限をつけずに著作者人格権の放棄を求めてくるような契約書であれば、そこに条件をつける交渉をするといいと思います。
質問7 フリーランスからまた会社員に戻ることはできますか?
(酒井)アメリカでは日本よりもずっとフリーランスの割合が高かったり、日本でも年々フリーランス人口は増加傾向にあるといわれますが、一度フリーランスになるともう会社員には戻れないのかという質問です。
(次松)私自身も20代にフリーランスとして過ごしてきて、今は会社員をやっています。結論からいうと戻ることはできるんですけど、フリーランスを本気でやることが大事ですよね。フリーランス時代の実績や経験を、会社員になるときに伝えることができればいつでも戻れると思いますが、その間にアピールできることがないと、社会人としてのブランクに見えてしまう。今は私も会社で人を採用する機会がありますが、履歴書にブランクがあるとちょっと警戒してしまうのは事実です。ただ、フリーランスをやっていてこういう実績があるということが分かれば大丈夫なので、逆にいえば、最後は会社員をやればいいか、というつもりで本当に一生懸命、伸び伸びとフリーランスをやればいいんじゃないかなと思います。
(酒井)実際、フリーランスから会社員になるというケースも増えてきているのではないでしょうか。企業側もいい人材が独立して人材不足になることもあるので、中途採用というケースもよく聞きます。
(次松)そうですね。フリーランスだとプロジェクト単位で仕事に関わることが多くなりますが、やっているうちにもう少し腰を据えて一つのサービスに取り組んでいきたくなる人もいます。そのためには、会社に属したほうがより深く継続的に携われるというように、フリーランスで仕事をしてきたことによって、ポジティブに会社員という立場を見ることができて、会社員に戻るという人も増えている印象です。
(酒井)今日は非常にいろんなTipsに触れていただき、僕自身もいい機会になりました。次松さん、本日はどうもありがとうございました。
<講師プロフィール>
次松武大
GMOクリエイターズネットワーク(株)執行役員/フリーナンス事業責任者
早稲田大学第一文学部・仏文専修卒業。同大学院国際情報通信研究科修了(小野梓記念賞受賞)。在学中より、ベルリン国際映画祭をはじめとする海外の国際映画祭やアートフェスティバルなどに多数参加。2006年、フランスより帰国後に伍福星ネットワーク(現・GMOクリエイターズネットワーク)に入社。以来、経営者・ウェブコンテンツ編集者として多くの書籍化作品やTVドラマ作品などを企画・制作。2018年、長年にわたり寄せられてきたフリーランス・クリエイターの声を元に、フリーランス特化型のお金と保険のサービス「FREENANCE(フリーナンス)byGMO」を立ち上げ、同事業の責任者に就任し現在に至る。
FREENANCE https://freenance.net/