学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ全5回の課外講座。第2回目はフリーランスに特化したお金と保険のサービス「FREENANCE(フリーナンス)byGMO」の事業責任者である次松武大さんをゲスト講師にお迎えし、フリーランスに起こりやすいトラブルや、トラブル回避のコツ、またトラブルに遭ってしまったときの対処法などを聞きました。

●ゲスト講師 次松武大さん(GMOクリエイターズネットワーク(株)執行役員/フリーナンス事業責任者)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)

※役職・サービス内容などは講座開催当時(2022年12月28日)のものです


質問1 会社員と比べてフリーランスが有利・不利なことってなんですか?

酒井博基(以下、「酒井」)FREENANCEは、「フリーランス」と「ファイナンス」という言葉を掛け合わせた名称なんですね。フリーランスに起こり得るお金の心配やトラブルをサポートしてくれるということですが、具体的にどういった内容のサービスなんでしょうか。

次松武大さん(以下、「次松」)弊社では、主にフリーランスを支えるお金と保険のサービスを、2018年から提供しています。会社員が仕事でミスをすると会社の責任になりますが、フリーランスはお金の問題も含め、全て自分で解決していかないといけない。そういう、会社員に比べて不利だなという部分を補完するのが、私たちの提供するサービスFREENANCEです。

FREENANCEがサポートするのは、仕事・くらし・与信・そしてお金という領域(次松さん資料より)

具体的には請求書をすぐに現金化できる「即日払い」、損害賠償保険「あんしん補償」、屋号などで開設できる収納代行用口座やバーチャルオフィスなどのサービスがあり、損害賠償保険や収納代行用口座は登録すると無料で使えるようになっています。

保険の補償内容は、実際にフリーランスに起こりがちなトラブルをカバーするべくつくっています。例えば、ドローンで陸上競技を撮影中に、突風でドローンが操縦不能になって選手にケガをさせてしまったという事故や、撮影のために預かった商品を壊してしまった、というトラブルもありました。さらに、不注意で情報漏洩してしまったり、故意ではなくても著作権を侵害してしまうというケースも考えられますし、人間なので病気や怪我による納期遅延なども起こる可能性があります。個人ではとても賠償できないような損害を企業に請求されるということもあり得るのがフリーランスです。

(酒井)どれもフリーランスの方に起こり得る事故ですね。会社員は会社に守られているけれど、フリーランスは自己責任という。逆にフリーランスが有利だというところはありますか?

(次松)もちろん人によりますが、お金の面でいうと、成功すると1回の仕事で入ってくるお金は、会社員の給料とは違うレベルになるんじゃないかなと思います。たとえばFREENANCEは、ロゴやサイトデザインからシステムに至るまで、著名なクリエイターやエンジニアの方々にお仕事を依頼して作りあげています。依頼金額の大小はさまざまですが、それでも会社員の私からすると「うらやましいなあ」と思うことも度々です(笑)。

また、クライアントとの関係性においても、フリーランスならではの利点があると思います。フリーランスとして仕事に関わると、企業の中の“ワンオブゼム”として働くよりも、クライアントと互いに顔の見える環境で手と手を取り合って一緒にサービスを作り上げていくというケースが増えるのではないでしょうか。これは会社員にはない、フリーランスだからこそ感じられる仕事の醍醐味なのかなという気がします。

(酒井)フリーランスは自分が責任を持つことによって得られることと、さらされるリスクがあるということですね。保険や年金の制度、福利厚生なども、会社員とフリーランスの違いとしては大きなポイントかなと思いますが、最近はフリーランスに対してのサポートも変化してきているでしょうか。

(次松)そうですね。私たちのサービスでも「くらしの保険」として、ケガや病気で動けなくなった際に最長1年間の所得を補償する保険「あんしん補償プラス」があったり、他社でもフリーランス向けのサービスが増えてきたりしているので、手厚くなってきたなという印象があります。

質問2 見積書と請求書の違いってなんですか?

(酒井)フリーランスは書類関係も自分で処理しますが、仕事を通してやりとりする書類がいろいろありますよね。中でもまずは基本的な“見積書”と“請求書”の違いから教えてください。

(次松)すごくシンプルにいうと、見積書は価格表のようなものですね。みなさんがクライアントからお仕事を受けるときに、「見積書ください」というのはものすごくよく出てくると思います。それに対して「これはいくらでできます」という価格を示すものです。請求書は、仕事をして納品が終わったあとに、「この仕事に対するお金をください」と出す書類です。請求書を出していなかったのでいつまで経ってもお金が支払われない、というケースもありますので、忘れずに出さないといけません。

見積書については、学生のみなさんは自分のスキルや作品に値段をつけるということに、まだ慣れていないと思います。「ざっくり考えてこれくらいかな」というときには、“概算見積書”というものもあって、最終的に想定していたよりも時間がかかった、修正が多かった、などの場合に交渉する余地が生まれます。

(酒井)見積書は意外と軽視されがちですが、トラブルが起こったときに交渉ができる、という見積書の書き方はとても大事ですよね。美大生のみなさんはクリエイティブな行為に金額をつけることに抵抗があるかもしれませんが、重要なところなので、値付けの一つの考え方をご紹介させてください。

新卒の年収が大体264万円、月収22万円くらいとします。これを基準として、自分がどういう生活をしたいのかを考えます。すごくリッチに暮らしたいのであれば、会社員と同じくらいの年収ではなく、これ以上を目指さないといけませんよね。もしくは、お金よりも好きなことをやっているということや、まずは自分自身の修行期間と捉えて、会社員ほどもらえていなくてもOKと考えるのか。こういう基準を決めないと値付けはできないと思います。

あくまで一つのTipsですが、この月収22万円を基準として、週休2日制で月に22日稼働して1日1万円。1日8時間労働だとすると、時給は1,250円になります。ただ、フリーランスの場合はこの金額をそのまま設定してはダメなんです。移動の時間や営業の時間、スキルを磨くために学ぶ時間、人と交流する時間など、あらゆる時間がそこに含まれるので、実質の稼働時間はトータルでかかった時間の半分くらいで見込まないといけない。そうすると、年収264万円を目指すなら、時給は倍の2,500円くらいに設定して、だいたい10時間かかる仕事であれば、25,000円という値付けをすることになります。これよりも低く見積もってしまうと、平均的なサラリーマンの年収レベルの生活はできない、というのを一つの目安として持っておくと計算しやすいかと思います。

また、これで見積書をつくる際に、「ロゴ制作 一式 25,000円」と書いてしまうと、例えば10時間と想定して1案提出したのに、結局10案出すことになって100時間かかってしまったときに、誤差が生じます。こういうケースもあるので、クリエイターは、成果物に対して金額をつけるのは実はダメだと思っています。では何につけるかというと、稼働時間です。働いた時間に対して値をつけるというのが、クリエイターにとっても大事な考え方かと。先ほどのケースでは、見積もりを「ロゴ制作 10時間 25,000円」にしておくと、10案つくるのであれば10時間では収まらないので、と交渉することができます。交渉の余地をつくっておくというのが、見積もりをつくる上でとても重要なことですよね。

(次松)そうですね。基準にするのは時間でもいいですし、提案数1点いくら、というやり方でもいいと思います。見積もりの基準のつくり方は人それぞれですが、なぜその価格になっているかを見積書で伝えることがポイントですね。さらに、「あなたのためにこういうことができますよ」、ということを見積書に入れるといいと思います。私は社員たちには、見積書は「お客さまにラブレターを書くつもりで」と伝えています。というのも、“相見積もり”というものもあって、クライアントである企業は複数の業者に見積もりをとって、それを比較した上で発注先を決めることがあります。その場合、見積書で伝えられることを全て伝えていると、他の業者より金額が高くても選んでもらえる可能性が高くなります。金額しか書いていないと数字を比較するしかないので、どうしても安いものが通ってしまいますよね。なので、見積書をないがしろにせずしっかり取り組むことはとても重要です。

(酒井)クライアントからいわれた金額でやります、というクリエイターさんも多いですが、その場合でも、まずは言い値に対しての見積書を出すという習慣をつけておくと、お金に対する考え方が変わってくると思います。

質問3 どんなときにお金のトラブルになりがちですか?

(酒井)先ほどもお話しいただいたように、フリーランスのトラブルを補償する損害賠償保険を提供するFREENANCEには多くのトラブルの事例が集まってくると思いますが、“フリーランスあるある”のようなケースはありますか?

(次松)よくあるのは「納期」ですね。あらかじめ決められていた締め切りに間に合わないということもあれば、クライアントからやり直しが出て、修正を繰り返している間にどんどん納期がずれていってしまうということも多いです。もう一つは「品質」です。クライアントが望む品質にならない場合に、これではお金が払えないということで、やっぱりトラブルになりやすいですね。当然、クリエイターが自分の実力をきちんと相手に伝えるのも大事なことですが、クライアントが何を望んでいるか、どういうものをつくってほしいのか、という部分のコミュニケーションはめちゃくちゃ慎重に丁寧にやったほうがいいですね。

(酒井)他によく聞くケースで、クリエイターにとってのクライアントがお金を出す人ではないこともありますよね。大手企業が広告代理店や制作会社などに委託して、そこからクリエイターに発注がくるというような。

(次松)ありますね。クリエイターがやりとりしているのが下請の業者で、とっくに納品した案件が実は大元のクライアントとの間でうまくいかずに流れていたとか。この場合はもちろん間にいる業者に非があるわけですが、それでも先ほどの見積書や書面を交わすことでトラブルを避けることができるので、用心するに越したことはないかなと思います。まずは口頭でもいいので、①納品物が何なのか、②金額、③納期、④支払い期日、という4点は必ず押さえておきます。その上で、メールやLINEで内容を再確認してOKをもらっておくといいでしょう。契約書まで取り交わさなくても、万が一法的なトラブルになったときに、証明できるものがあるととても役に立ちますので。

フリーランスにとって重要な、自分の仕事への値付けの仕方や起こりうるトラブルについて学んだ前編でした。後編では、トラブルや困ったことが起こってしまったときにどうしたらいいのか、契約時に気をつけることは?などをお届けします。


<講師プロフィール>
次松武大
GMOクリエイターズネットワーク(株)執行役員/フリーナンス事業責任者

早稲田大学第一文学部・仏文専修卒業。同大学院国際情報通信研究科修了(小野梓記念賞受賞)。在学中より、ベルリン国際映画祭をはじめとする海外の国際映画祭やアートフェスティバルなどに多数参加。2006年、フランスより帰国後に伍福星ネットワーク(現・GMOクリエイターズネットワーク)に入社。以来、経営者・ウェブコンテンツ編集者として多くの書籍化作品やTVドラマ作品などを企画・制作。2018年、長年にわたり寄せられてきたフリーランス・クリエイターの声を元に、フリーランス特化型のお金と保険のサービス「FREENANCE(フリーナンス)byGMO」を立ち上げ、同事業の責任者に就任し現在に至る。
FREENANCE  https://freenance.net/