学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。今回の講師は画家の山田康平さんです。学生時代から画家として精力的に活動し、現在は日本だけでなくアメリカ、韓国など海外での展示や企画も注目されています。来歴や、アーティストとして生きることとどう向き合っているのか、お話を伺いました。

●ゲスト講師 山田康平(画家)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)


画家として活動する傍ら、キュレーションやギャラリーの運営も

酒井博基(以下、「酒井」)まずは、普段山田さんがどういう活動をされているのか、自己紹介も兼ねてお聞きしたいです。

山田康平さん(以下、「山田」)僕はムサビの油絵専攻出身で、2020年に卒業しました。これは卒業制作の作品です。このときは強いテーマを掲げていたわけではなかったのですが、自分の作品の指針を決めたいという思いがあり、4年生ごろから山をテーマに制作していました。

ムサビを卒業したあとは、京都芸術大学の大学院に進学。個展を開いたり、日本国内や海外のグループ展にも出展しているうちに、イメージを決めずにいろいろなものを描きたいと思うようになりました。

このころの作品は、20号や10号以下であまり大きくないですね。コロナ禍もあり自宅で制作することが多く、小さい作品を主に描いていました。その後「CAF賞」というコンペに出して、入選したのがこちらです。風景と自分のなかのイメージをミックスさせながらポートレートっぽく制作しました。

「CAF賞2020」での入選作品のひとつ、《ここに在るということ》

2023年には、六本木にあるタカ・イシイギャラリーで個展「Strikethrough」を開催。オーナーの方が、京都芸術大学での卒業制作作品を見てくださり、展示が決まりました。自分にとってタカ・イシイギャラリーは目標であり憧れの場所だったので、本当にうれしかったですね。

個展「Strikethrough」の展示風景

この展覧会は、作品以外の活動もやってみたいと考えるきっかけにもなりました。というのも、展示空間が広く、絵画単体ではなく空間込みで観るような鑑賞体験になったんですね。なので、空間込みで作品を考えることが必要なんじゃないかと考え、絵を描いているだけでは弱いなと思い始めたんです。

2024年ぐらいからは韓国をはじめとした海外での展示が多くなりました。韓国のArario galleryでは個展「border line」を開催。Arario galleryの設計は日本人建築家の長坂常さんが率いるスキーマ建築計画が手がけていて、有名な近代建築を改装して造ったそうです。神殿を思わせるような独特な空間で、挑戦のしがいがありました。

韓国での個展「border line」の展示風景

また2025年6月、建築家の松井陸さんとの共同運営というかたちで東京・新宿に「AWASE gallery」というスペースをオープンしました。より深く“空間”を考えるためにつくった場所であり、年間の企画は僕が監修。美術を軸にしながら、松井さんの建築的な視点やさまざまな分野の考え方を取り入れたプログラムを展開していきます。

AWASE galleryのこけら落とし展として開催した、山田康平と関口正浩の2人展「余りをみた」の展示風景

質問1 画家としてやっていこうと決意したきっかけはなんですか?

(酒井)画家を生業にしようと決めたきっかけを教えてください。

(山田)正直に言うと、最初のきっかけは単純に就職したくないと思ったことです。そのぐらいの低いモチベーションでしたが、学部生のときから大学院に進学したいとぼんやり思っていました。ただ、自分の場合は、順当にムサビの大学院に進むよりも環境を変えたほうが頑張れると思い、京都芸術大学の大学院に決めました。

(酒井)先ほど見せていただいたスライドも、ここ5年くらいでしょうか、すごい物量ですね。

(山田)削る前は350枚ぐらいになってしまって。本当は展示もこの3、4倍ぐらいやっているので、入れていないものがほとんどです。

(酒井)活動量といいますか、制作のペースがほかの方と比べると圧倒的に早いように感じます。

(山田)そうですね、世界のアーティストのなかでも早いほうだと思っています。海外のアーティストにもよく言われます。

質問2 SNSのフォロワー数だったり、雑誌の表紙を飾ったり、画家にとって知名度を高めることは重要ですか?

(酒井)いろいろな方法で知名度を高めることは、画家として活動していくうえで重要なことだと思いますか。

(山田)重要だと思います。自分は1万以上……2〜3万人でしょうか、それくらいのフォロワー数が理想です。

(酒井)2〜3万人には常に情報が届き、見てもらっている状況をつくるということでしょうか。

(山田)そうですね。ただ、数を重視することに全然意味はなくて、それよりもしっかりとした内容を発信して、ちゃんと見てくれる人を増やすほうが大切です。たとえば、Instagramのフォロワーが1000人以下でも食べていけている作家を知っていますし、逆に1万人を超えていても食べていけない人も知っています。

(酒井)数だけを求めて発信すると、本質とはズレていくということですね。SNSを運営するうえで、山田さんご自身は内容のほかに重視していることはありますか。

(山田)SNSを動かすことは、作品をつくることとはまったく関係のない行為なので、あまりSNSに期待しすぎないことでしょうか。ただ、自分は割と適当な性格なので、本当はもっとちゃんとやったほうがいいのかもしれません。

質問3 ほとんどの人が美大を出てから制作や作家活動を継続できなくなってしまうのはなぜだと思いますか?

(酒井)多くの美大生が、卒業したあと作家活動を継続していくのが難しくなる現状があると思うのですが、それはなぜだと思いますか。

(山田)「作家活動」というのは個人でのソロ活動のことだと思いますが、僕はそもそもソロでなにかをつくることはすごく特殊な活動だと思っています。たとえば建築家の方たちは、自分の名前が大きく出るとしても会社として仕事を受けていて、数十人、あるいは100人以上の大人数で作品をつくることも少なくありません。そんなふうに、作家活動といってもソロでなにかをつくることにこだわる必要はないのかなと思っています。僕は、絵を描く活動はひとりでやっていますが、それ以外の活動では誰かとチーム組むことが多く、そういうことをもっとやっていきたいなと思いますね。

(酒井)展覧会の企画やキュレーションなど、ソロ活動ではないことも活動のひとつとしてあるということですね。

(山田)そうです。学生時代、自分の内側だけに向き合って作品をつくっていた時間は、本当に貴重な経験でした。校内のアトリエで絵を描いたり、講義を受けたりすることはとても特別で、大学は美術教育を受けられるオルタナティブな場所として意義がある。学生のみなさんは、それを突き詰めたうえで、外に出たときにどう出力するかを考えていけばいいと思います。

(酒井)美大のように自分を突き詰めていける環境が社会でも待っているわけではない。そもそもこの環境がすごく特殊だということですね。

(山田)すごく特殊で尊いと思います。でも社会では同じようにはいかないので、現実との折り合いをつけていく必要がある。それが学生一人ひとりにとっていいものであってほしいなと思うのですが。

一方で、自分の作品や考えを発信するときに、絵の話だけをしても、たぶんおもしろくならないんです。美術はいろいろな社会基盤に寄り添いながら存在しているので、たとえば政治的なこともそうですし、人の営みなど、美術以外の話も必要になってくるのではないでしょうか。そちらのほうが、社会に出たときに身につけるのが難しいと思っています。

(酒井)美術以外の社会基盤に対しての関心ということでしょうか。

(山田)そうですね。僕でいうと、最近は絵の話ではなく建築や空間の話をすることが多くて。それを含めて大きな“美術の話”につながっていくはずなので、そういった点も大切なのかなと思いますね。

(酒井)学生のことはそういったことは考えられていましたか?

(山田)全然考えていませんでした。大学院のゼミの先生には言葉を大切にしなさいとすごく言われて。いまでこそその重要性がわかりますが、当時は言葉がなくても自分は描けると思っていたんです。でも「それは自分の“総量”のなかから吐き出しているだけで、必ずどこかで描けなくなる」と言われ続けてきました。

それは自分でも実感することがあって、僕はすごく枚数を描くので、“総量”みたいなものがなくなった瞬間に描けなくなるのではないかと。絵はスポーツなどとは違って、一度できるようになればずっと続けられるわけではなく、どこかでできなくなったり、やりたくなくなったりすることもあると思うんです。そういうときのために言葉が大切だと思いますし、空間や建築など、絵以外のものへの興味も深めるようにしています。

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<講師プロフィール>
山田康平/画家

1997年、大阪生まれ。2020年に武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻を卒業、2022年に京都芸術大学修士課程美術工芸領域油画専攻を修了。2020年「CAF賞」入選、2024年「BUG Art Award」ファイナリスト。2025年6月、東京・新宿に「AWASE gallery」をオープンし、ディレクターとして展示企画を監修。
https://www.instagram.com/kumakuma0523/
https://awase-gallery.com/