フリーランスに役立つ予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ全5回の課外講座。第5回の後編では、引き続き税理士の松崎怜さんに、具体的に参考になるサイトや役に立つツール、さらに手続きへのモチベーションの上げ方などをお聞きしました。
●ゲスト講師 松崎怜さん(税理士事務所ASCOPE代表)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
質問4 起業家やフリーランスのための便利な情報サイトやアプリはありますか?
酒井博基(以下、「酒井」)松崎さんが連載されている『おかねチップス』というウェブメディアでは、「フリーランス1年生の処世術」というタイトルで、まさにフリーランスになりたての方に向けて、お金のことなどを非常にわかりやすく教えてくれていますね。これは特にクリエイターが知りたいような情報がたくさん載っていると思います。
『おかねチップス』
フリーランス1年生の処世術
https://okanechips.mei-kyu.com/freelance-frist-year/
松崎怜さん(以下、「松崎」)ありがとうございます。起業する方には、『創業手帳』という起業家向けの無料のビジネス冊子のウェブサイトがあって、私も資料を参考に読んだりしていました。資金調達の方法やオフィス移転時についてなど、実務的に役に立つサイトです。
『創業手帳』
https://sogyotecho.jp/
フリーランスの場合は「フリーランス協会」という、フリーランスのための非営利組織があります。もともとフリーランスのリスクに備えるためにできた協会で、年間1万円で賠償責任保険などの保険に加入できたり、健康診断などの福利厚生のようなものが適応されたり、会計財務や法務の相談先もあったりします。ウェブサイトにはフリーランスに役立つ情報も載っていますし、フリーランスの方にはすごく役に立つと思います。
『フリーランス協会』
https://www.freelance-jp.org/
(酒井)確定申告などではフリーランスの方は会計ソフトを使っている方も多いですが、おすすめのアプリやサービスはありますか?
(松崎)確定申告をするためには、帳簿付といって、所得を計算するために収入と経費を記録して決算書をつくらないといけないので、そのために会計ソフトを使います。「弥生会計」は聞いたことがあると思いますが、今はクラウドの会計ソフトが主流になってきていて、「freee(フリー)」と「Money Forward(マネーフォワード)」が多く使われていると思います。freeeは専門的な知識なしで使えるので、私の事務所でもほとんどのクライアントにfreeeを導入してもらっています。
青色申告の場合は難しい会計の記録をしないといけないのですが、freeeだとすごく直感的に使えて、ソフトの裏側で専門的なデータが動いているので、なんとなく感覚で進めていっても確定申告にはたどり着けるようになっています。
(酒井)ありがとうございます。お金以外のところでは、人脈や取引先を増やすマッチングアプリやスケジュール管理のアプリなど、いろいろ便利なツールがあるので、みなさんぜひ調べていただきたいです。
質問5 融資など、起業家やフリーランスが活用したほうがいい制度やサービスはありますか?
(松崎)フリーランスの場合、どんな資金調達方法があるかというと、まず日本政策金融公庫という政府系の金融機関の融資です。それから、銀行や信用金庫など民間の金融機関の融資、あるいは助成金や補助金、支援金や給付金など、国や地方公共団体、財団などの制度もあります。コロナ禍以降はこうしたものがすごく出てきたので、みなさん感度が高くなって注目されてきました。
それらの中からどうやって資金調達方法を選ぶかというと、例えば、経営計画上まとまった資金が必要で、将来の利益から継続的に返済していける場合は、金融機関の融資やビジネスローン。助成金や補助金などは、その制度に該当するかどうかですね。融資というのは銀行からお金を借りることですが、基本的には日本政策金融公庫が一番借りやすい。創業支援のための融資があるので、事業計画と返済計画がしっかりしていれば、創業時はまずここがいいと思います。
(酒井)創業支援の融資というのは、みなさんにビジネスをがんばってもらって、経済をどんどん回してもらいたいので、創業を応援していきますよということで、国はそれを応援しているということですね。民間の金融機関にも創業支援の融資はありますが、起業するにあたってメインバンクをメガバンクにするのか、地方銀行や信用金庫など地域の金融機関にするのかというのは、結構悩みどころかなと思います。個人的にはメガバンクは大手企業と取引するところとか、窓口ですごく待たされるみたいなイメージがあって、地域金融機関はどちらかというと中小企業に対して手厚いイメージがありますが、取引先の金融機関の選び方にポイントはありますか?
(松崎)一つの考え方として、取引先に対する見栄として、メガバンクを選ぶことはあるかもしれません。ただ融資については、大きい銀行は実績と信用がないとお金を出してくれないので、基本的に日本政策金融公庫以外で創業時や創業して2〜3年くらいでお金を借りるのであれば、地方銀行や信用金庫がいいと思います。
(酒井)親身に相談に乗ってくれたり、役に立ちそうな制度を教えてくれたり、密にコミュニケーションできる関係性が望ましいですね。
質問6 税金や確定申告など、誰にどのように相談すればいいですか?
(酒井)先ほどのフリーランス協会にも相談窓口があるというお話でしたが、例えば確定申告で、自分の場合はどこからどこまでが事業所得なのかとか、何が控除になるのかという、具体的で個人的な相談というのはどうしたらいいでしょうか。
(松崎)そうですね。フリーランス協会のような民間団体の相談窓口でも一般的なことは相談できますが、もう少し深く相談しようとするとお金はかかってくると思います。確定申告に関しては、まず税務署に行くという選択肢があります。特に確定申告の期間中は予約制で相談を受けていたりして、一般的な制度に対することは教えてもらえます。ただ、これは自分の場合は経費になるのかというような、判断に幅があるものは答えてくれません。国税庁の電話相談センターも同じように、一般的な質問に対しては回答してくれます。あとは、青色申告会ですね。各地域に税理士や税務署とは別で民間の青色申告会という納税協力団体があって、会員になるとしっかりとマンツーマンで青色申告のサポートをしてくれます。
質問7 手続き系の作業っていまいちモチベーションが上がらないのですが、ちゃんとやった方がいいですか?
(酒井)最後に、これは失礼な質問かもしれませんが……。どうしても、書類をつくったり制度を調べることに対してなかなか腰が上がらないという人もいると思います。そのモチベーションをどうやって上げたらいいのか、そもそもちゃんとやらなきゃいけないのか。もしちゃんとやらなかったり、書類の数字が間違っていたりしたら、ペナルティのようなものがあるのでしょうか?
(松崎)モチベーションの上げ方には2つの方向性があります。まずは、ちゃんとやらないとどうなるかという話で、やはり罰則があるんです。申告していないことが指摘されると、過去3年、5年分など遡って計算されて、その分の税金に対して罰金や延滞料もかかってきたりします。さらに、もしそれが悪質だった場合は刑事罰もあったりするので、とにかくやらないといけないと思ってやる。何年か分の税金や罰金などをまとめて払うとなると、結構大変な金額になると思うので、やっぱりもちろんコンスタントにやった方がいいですよね。例え申告の期限に間に合わなかったとしても、遅れてでもやるという姿勢が大事だと思います。
もう一つ、モチベーションを上げる考え方としては、「ちゃんとできた方がカッコよくない?」という方向に自分の思考を持っていくことです。クリエイターの方は手続き系の作業に対しては姿勢が割と二分されていて、最初から専門家に全面的に任せるタイプと、経営的な視点を持ちたいとか、手続き系の作業も楽しくて自分でやりたいというタイプ。どちらを目指すか、あるいは、どちらが自分に合っているかという視点もありますね。
(酒井)ありがとうございます。ちゃんとできているというのは信用にもなるし、個人的には、数字から自分の現状が読み取れるということもあると思います。数字を毛嫌いせずに、ごまかさずに書類をつくることで、今の自分のコンディションが見えてきて、ビジョンに対して成長している、または停滞していることを測れるというのもモチベーションになるかもしれませんね。
(松崎)そうですね。5年後や10年後、30年後に自分がどういう風に作家活動していたいか、私生活でどういう状況になっていたいかなどを想像して考えると、今とのギャップが見えてくる。そうすると、今まだこれくらい足りないとか、3年後にはこうなっていたいという意識を持つことができます。確定申告はその間に毎年やってくる通過点なので、目標に向けてきちんと記録をしていくという考え方もできますし、それができることが理想ではないでしょうか。
(酒井)本日はありがとうございました。気になるキーワードや仕組みがたくさん出てきた最終回でした。先ほど紹介してくださった『おかねチップス』の松崎さんの連載も非常に面白く、手続きのこともさらにやってみようかなという気持ちになるので、順を追って読んでいただければと思います。
<講師プロフィール>
松崎怜
税理士事務所ASCOPE代表
税理士、創業コンサルタント、財務コンサルタント。税理士事務所ASCOPE代表、株式会社GO CFO、株式会社&FINANCE代表、Doppio合同会社 共同代表。1983年、神奈川県生まれ。一児の父。「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように、経営のガイドを行っている。自身の「クリエイター」「フリーランス」「独立開業 / 創業」といった経験と実践をもとに、小商いの持続可能性を自分ごと化して探求している。
ASCOPE https://www.ascope-tax.net