<卒業生データ>
吉澤大起
2016年 建築学科卒業

TOPPAN株式会社
エクスペリエンスデザイン本部
ブランドマーケティング部3T


――吉澤さんがムサビを進学先に選んだ理由を教えてください。

吉澤大起さん(以下、吉澤):端的にいうと、“できること”と“やりたいこと”が合致しているのがムサビだったんです。もともと、私は絵を描くのが得意でした。また、母が建築関連の仕事をしていたこともあり、建築という分野に興味を持っていたんです。そこで、自分の得意な絵を生かせて、なおかつ興味のある建築も学べる大学としてムサビを志望しました。

高校にはムサビを受ける友人がおらず、ひとりで美術予備校に通っていました。高校では見ないようなクリエイティブな人たちが集まっていて、「こんなにすごい人たちがいっぱいいるムサビって、刺激的で楽しそうだし、負けたくない!」と思ったことも後押しになりました。

――ムサビでの印象的な思い出はなんですか。

吉澤:授業で提出した課題作品について、みんなの前で講評を受ける「講評会」は特に印象に残っています。作品を通して自分の内面をあらわにし、そのうえで講評を受けるという経験はなかなか味わえるものではありません。その経験を何度も重ねたおかげで、自分の意見を発信することに抵抗がなくなったと思います。

――ムサビを卒業して、TOPPANに入社を決めた理由を聞かせてください。

吉澤:ひと言でいうと、事業領域が広いからです。私はムサビに入学したあと、建築設計にこだわらず、デザインとアートを横断して制作活動を行っていました。就活時には入社後にやりたいことが明確に決まっていなかったので、「もしかしたら入社後に興味の幅が広がったり、変化したりするかもしれない。それなら、多様な事業を展開している会社がいい」と考え、幅広い事業領域を持つTOPPANに入社を決めました。

――現在の業務内容を教えてください。

吉澤:2023年度からは主にクライアントのブランディングを行う部署で、事業コンセプト開発やコピーライティングに携わっています。それまでは空間体験設計を行う部署で、企業ミュージアムや展示会など、企業とユーザーのコミュニケーションを促進する空間のディレクションをしていました。いずれもコンセプトメイキング力が問われる仕事です。

――ムサビでの学びが現在の仕事にどのような影響を与えていますか。

吉澤:3年生から、建築学科で唯一アートを研究するする土屋公雄先生のゼミに在籍していました。土屋ゼミで学んだことのひとつが「コンセプトづくりを大事にする」ということ。「表面的なビジュアルだけでなく、コンセプトを深掘りしなければ、最終的にいい表現にはたどり着かない」と先生から繰り返し指導いただいたのを覚えています。

卒業制作のインスタレーション作品《識る》。校舎の吹き抜け空間に、糸を用いて境界があいまいな空間を立ち上げた。鑑賞者に対し多角的な視点を持たせることで、新たな解釈を得ることを促す作品。2015年度卒業制作 優秀賞 受賞

吉澤:この考えはいま、たとえば事業コンセプトのコピー開発で役立っています。最初から言葉を考えるのではなく、まず事業の土台や目指す方向性、社会的な役割といった、その企業の持つ価値に深く向き合ったうえで、最終的に言葉に落とし込む。そのプロセスを踏むことで、より本質をとらえたコンセプトメイキングができているのではないかと感じます。直近でも、このプロセスに沿って制作したコピーがとある企業の事業コンセプトに採用され、とても嬉しく思いました。

――芸術祭での体験も、いまの仕事に活かされたりしているのでしょうか。

吉澤:芸術祭では、チーム運営の重要さや楽しさを知りました。私はもともと個人プレーが得意だと思っていました。芸術祭で飲食店を出店すると決まった際も、最初は出店申請やお店の設計などの作業をひとりで進めていたんです。しかし、ひとりでできることにはやはり限界があります。少しずつ友人や後輩と協力してもらいながら準備を進めていった結果、最終的には自分の想像を超えるクオリティの高いお店を完成させることができました。チームで役割を分担してゴールに向かうことのすばらしさを実感しましたね。

芸術祭でのそのような経験は、仕事をするうえでも活きています。たとえば以前私が担当した、よみうりランド(東京都稲城市)のワークショップ施設「リポビタンラボ」の制作においては、空間デザイナーや、映像ディレクター、プログラマーなどさまざまなクリエイターをアサインし、お客様に満足してもらえる施設をつくりあげることができました。

大正製薬とよみうりランドとのコラボレーションによる「リポビタンラボ」は、錠剤をつくる機械「打錠機」で、お薬に見立てたラムネ菓子をつくるワークショップが体験できる施設。吉澤さんは「人々を元気にする未来の研究所」をコンセプトに掲げ、空間設計、体験コンテンツ、キャラクター開発などの総合的なディレクションを行った

――仕事をするなかで、ムサビ出身でよかったと感じることはありますか。

吉澤:汎用的なアウトプットのプロセスを学べたことです。作品をつくりあげるプロセスと仕事で成果物を生み出すまでのプロセスは、大枠は同じ。いまの業務の進め方にも応用できています。

――仕事をするうえで心がけていることはありますか。

吉澤:これは作品づくりにも共通することですが、「自分がつくったものや携わった仕事が、エンドユーザー、ひいては社会にどのようないい影響を与えられるか」という視点を忘れないようにすることです。

仕事をしていると、「目の前のお客様に納得してもらいたい」だとか「上司や先輩に突っ込まれないようにしよう」など、目線が近くにいきがちです。しかし、すぐそばにいる方々の反応だけをうかがっていてはあまりいい仕事はできないように思います。だからこそ視野を広く持ち、社会に与える影響を気にかけて仕事に取り組んでいます。

――就活において、大学の就職支援をどのように活用しましたか?

吉澤:キャリアセンターでよく模擬面接をしてもらっていました。志望企業別に面接対策を行い、回答の精度を上げることができたと思っています。キャリアセンター職員の方には、何度も対応いただきとても感謝しています。

――ムサビ時代に「これをやっておけばよかった」と思うことはありますか。

吉澤:建築学科の学生としては、もっと生で海外の建築物をたくさん見ればよかったと思っています。私は卒業旅行で初めて海外に行き、それまで写真で見ていた建築物の実物を見たのですが、迫力が全然違ったんですよね。

それから「もう少し学生時代に趣味に没頭してもよかったのかも……」とも感じています。私の趣味のひとつはスノーボードなのですが、時間のあった学生時代にもっと滑っていれば、もっと上手くなっていたのではと思うことがありますね。

――今後の目標や、やってみたいことを教えてください。

吉澤:ムサビの友人と一緒に、おもしろい仕事ができるといいなと思っています。これまで、一緒に仕事をする社外のクリエイターがムサビ出身だったというケースによく遭遇してきました。私の同級生たちもいい感じに脂が乗っている年齢なので、一緒にできる仕事はたくさんありそうだな、と思います。もしそれが叶ったら、芸術祭みたいでワクワクしますね。

――最後に、ムサビへの受験を検討されている人にメッセージをお願いします。

吉澤:ムサビには、自分が持っていない才能や能力を持つ仲間にたくさん出会うことができます。私は、そんな仲間たちからたくさんの刺激を受けながら、楽しい大学生活を送ることができました。

ムサビに入学できたら、自分がやりたいこと、得意なことだけでなく、“自分にしかできないことはなにか”についても考えることをおすすめします。私が周りを見て刺激を受けたように、逆に自分の持つ能力で誰かを刺激できるかもしれません。それに気づくことも才能や能力のひとつだと思います。ムサビには、いろんなことに興味を持ったり、いろんな人と触れあう機会がたくさんあるので、楽しみながら自分らしさを見つけてほしいなと思います。