取材:2020年8月

中村 翔(なかむら・しょう)
2017年デザイン情報学科卒業。
武蔵美ではCG・プログラミングの基礎を学ぶとともにサークルを設立し、チームでのゲーム制作を経験する。株式会社スクウェア・エニックス入社後は人気オンラインゲームのテクニカルアーティストを担当。コンピュータエンタテインメントにおける技術開発や業界研究にも関心を向ける。


技術と美術。ゲーム制作の両輪を
つないで、スムーズに回すために

テクニカルな領域を担うプログラマーやエンジニアと、アートの領域を担うアーティストやデザイナーをつなぐ役割だから“テクニカルアーティスト(以下TA)”。2000年代に入ってからゲーム業界で生まれた、まだ新しい職種といえるだろう。

株式会社スクウェア・エニックスに勤務する中村さんがTAという言葉を知ったのは、武蔵美在学時のことだ。

「私はもともと理系の進学校出身で、武蔵美にも数学受験で入学しました。授業では主にCGやプログラミングを学びましたが、作品のクオリティの追求よりも、むしろ制作のプロセスや、必要な知識や技術について考えることに楽しさを感じていましたね」。

いわば理系のロジカルさを基礎として、プログラマーやアーティストの学びを経験してきた人なのだ。そんな中村さんの適性を見抜いて、ゼミの教授が勧めてくれたのが“TA”という仕事だった。

「調べてみると、制作・進行管理・技術開発などいろいろな側面を持った仕事で、これは面白そうだなと。美大からゲーム業界に進むのに、こういう道があるのかと思いました」。

現在入社4年目、中村さんが担当するのは同社の看板コンテンツのひとつであるオンラインゲーム『ファイナルファンタジーⅩⅣ:漆黒のヴィランズ』。精細なグラフィックと壮大なシナリオ、ストレスのないゲームシステムで高い評価を得るこの作品で、キャラクター部門の技術と美術の橋渡しをするのが、中村さんの役目だ。

中村さんが担当する『ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ』。魅力的なキャラクター達の躍動を、陰から支える。
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現場で生まれる問題の“本質”を探り
解決するTAという仕事

「制作チームの中で、TAとはどんな存在なのか…ひとことではとても説明しにくいのですが、あえていうなら“困ったときの相談窓口”でしょうか。コンテンツに関わるあらゆる業務・立場の人は、なにかしら問題にぶつかったらTAに言えばいい。私たちは、なぜ問題が発生したのか、その原因を探って、解決する手段を考えます」。

その解決手段が、ソフトウェアの開発やチェックシステムの再構築といった技術的なサポートになることもあるし、スタッフ配置やコミュニケーション不全などの調整になることもある。どんな手段が最善策となるのかは、問題の本質に辿りつかなければわからないのだ。

「オンラインゲームはいつ、どのタイミングで新しいイベントを投下するかというスケジューリングがとても厳密です。どこかで起きた問題によって、全体の工程が滞るという事態があってはならないし、それを防ぐのがTAの存在意義。理想はトラブルが発生する前に気づくことなので、しょっちゅう社内を動き回っています」と中村さん。

問題を待ち受けるのではなく、未然に防ぐためにチームを見回るその手には、常にボードとペンが握られている。仲間にヒアリングしたこと、気になったことが細やかに記されたこの手書きのメモによって、デジタルコンテンツの最先端であるゲーム制作の現場はスムーズに流れ、やがて全世界へと発信される大きな潮流となるのだ。

職種としてはまだ新しく、業務範囲さえ明確ではないTA。あいまいだからこそ、どんな未知の問題にも関心を寄せ、冷静に対処できる観測者のまなざしをもって、中村さんは今日もフロアを回遊する。

聞き取り調査の内容や問題の本質究明の思考プロセスは、いつも持ち歩いているボードに記される。そこから、解決のための具体的な施策を開発・構築していくのが、中村さんの流儀だ。

上司が語るムサビの人間力

問題の根本に至る「考え抜く力」

岡久 達哉
第三開発事業本部
リードテクニカルアーティスト

頭のいい子が入ってきたな、というのが中村さんの第一印象。問題解決力が問われるTAにとっては、なぜこんなことが起きているのかを見抜き、どんな手段で解決するのが最善手かと考え抜ける聡明さが重要です。  武蔵美時代、なにをつくりたいのか、そのためにどんな技術で、どう表現するのかを真剣に学んできた彼の力は、今の仕事でも大いに役立っていると感じます。

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