取材:2020年8月
中野 憲希(なかの・かずき)
2016年工芸工業デザイン学科卒業。
CADやレンダリングツールの習得がカリキュラムに導入された初年度の学生としてより実践的な学びを身につけ、ブラザー工業に入社。「日常の中にある違和感に気づけるか」を常に考えながら真摯にデザインと向き合っている。
細部へのこだわりこそが
使い心地を左右する
かつて流れていたCMの影響か、ブラザー=ミシンという印象はいまだ根強い。しかし、現在のブラザー工業株式会社は、ミシンだけではなく、プリンターや複合機、通信カラオケや工作機械などを手掛け、海外売上比率が8割を超えるグローバル企業になっている。
4年前、プロダクトデザイナーとして入社した中野さんにとって、同社の魅力はまさにその多角性だった。
「ブラザーを知ったのはインターン募集を見て。個人向けのホビーマシンから巨大工場で稼働している産業機器まで、その幅広さが面白いと感じました」。
かくして同社を選んだ中野さんだが、入社早々に携わったのはやはり、お家芸のミシンやカッティングマシンといった家庭用製品だった。
もちろんはじめはカッティングマシンの刃を装着するパーツやスクイージーなど、小さなパーツから。本体に付属するアクセサリが、中野さんのデビュー作となった。
「武蔵美で学んだソフトでの作業だったのも幸いして、構造を考え、デザインすることにはすぐ慣れました。でも、ブラザーとはこういうものづくりをする会社か、と実感したのはその先です。
どんな細かいパーツでも、たくさんの人にモックや実機で試して意見をもらい、操作性や視認性をブラッシュアップしていく。この細部へのこだわりこそが使いやすさに直結するんだと、身をもって学びました」。
目的と環境から生まれる
必然のフォルム
ブラザーのものづくりDNAを受け継いで、実直にキャリアを積んできた中野さんが、今メインで担当しているのは、ブラザーが今後注力していく産業用領域の一端を担う産業用プリンターのデザインだ。
工業製品やパッケージに、消費期限や製造ロットなどを射出プリントする印刷機は、メインとなる機能は同じでも、製造ラインのいつ、どこで使われるかによって、外観の構造や材質を変えなくてはならない。
「たとえば機構部を保護するのが目的でも、設置される環境によって、重視するポイントは違います。防ぐのは水か埃か。継ぎ目やねじがあってもいいのか、一体形成で滑らかに仕上げるべきか。製造コストは折り合うか、メンテナンスしにくくはならないか。
こういった課題を一つひとつ検証しながら、最適な形状や工法を探っていくのも、プロダクトデザイナーの仕事です」。
試行錯誤の末に仕上がる製品は、シンプルな中に求められる要素を凝縮した、まさに機能美としかいえないフォルムになるのだ。
実は中野さんがプロダクトデザインを志すきっかけになったのは、かつて出会ったプロダクトデザイナーの「このリモコンが使いやすいと思ったら、それも美の力だよ」という言葉だった。
社会を支える産業の中に“より美しく、有益なカタチ”を送り出す。そのために、中野さんは日々感性を研ぎ澄ませている。
工法のアイデア展開
上司が語るムサビの人間力
よく見る。よく聞く。
静かな吸収力を持つ人
鈴木 二朗
開発センター 総合デザイン部 プロダクトデザイングループ
チーム・マネジャー
武蔵美でもまれてきたせいでしょうか。中野さんは、未経験の課題にも不安そうな顔を表に出さず、前向きに挑戦できる人。若者にはなかなか難しいことですが、彼はそれが身についています。
同時に、周囲の声に耳を傾け、よく観察し、静かに吸収する人でもある。この資質を活かし、BtoB、BtoCをまたぐ広い事業フィールドを持つブラザー全体を見渡せる人材になってくれたらと願っています。
企業リンク
> ブラザー工業株式会社