取材:2020年6月
杉山 由希子(すぎやま・ゆきこ)
2016年視覚伝達デザイン学科卒業。
幼い頃から、学祭を訪れるなど親しみがあった武蔵美に進学、広告やパッケージデザインを幅広く学ぶ。
入社2年目から「カルピス」のパッケージディレクションに携わり、現在はコーヒー飲料、果汁飲料、健康飲料を担当。
パッケージは、お客様と最初に
コミュニケーションするもの
日本初の乳酸菌飲料であり、世代を超えて愛されている超ロングセラー。「カルピス」ときくだけで、甘ずっぱい爽やかな味が舌によみがえる人も多いだろう。杉山さんがアサヒ飲料株式会社を志望したきっかけもやはり、大好きな「カルピス」をつくっている会社だったからだ。
しかし、いざ入社してみると、よく知っているつもりだった「カルピス」には、実に多彩なラインナップがあった。そのまま飲めるストレートタイプ、希釈タイプ、ギフト用のセット。そのほかにも健康成分やフレーバーなどが異なる商品が多数市場に投入されている。杉山さんの仕事は、そのパッケージデザインをディレクションすることだ。
「皆様ご存じの通り、『カルピス』といえば白地にブルーの水玉。でも実は商品特性や季節ごとに、さまざまなアレンジを加えています。たとえば冬はホリデーシーズンを華やかにする色を選択。夏は色や表現などで清涼感を高める。こういう消費者が気づかないくらいのさりげない調整もあれば、トップシーズンに向けて特別なパッケージを投入し、話題づくりを仕掛けたり」。
中身がどんなによくても、商品はまず、無数の商品が並ぶ売り場で、目にとまり、手に取ってもらわなくてはいけない。「だからパッケージは、お客様と最初にコミュニケーションするものなんです」と、杉山さんは言う。
季節や消費者の需要に応じて姿を変えながら、パッケージは語りかけているのだ。消費者に、“わたしを選んで”と。
1本のボトルから始まる物語を
手に取ってくれた人の心に
同社の場合、パッケージのディレクションは基本的に、1ブランドを1人が担当する。杉山さんは、前担当の指導を受け、入社2年目から「カルピス」を担当してきた。
「なにしろバリエーションが多いので、慣れないうちは大変でした。でもやっぱり、みんなに愛されている商品を自分の感性も活かしてディレクションできるやりがいは大きいです」。
営業やマーケターの声をきき、どんなパッケージならより売れるかを考え、デザイナーに伝える。できあがった商品を市場に投入し、その反応を見ながら、また新しいアイデアをパッケージに盛り込む。市場とメーカーの間をつなぐディレクターの責任は重大だ。
「『カルピス』を3年担当して実感したのは、市場に響くデザインは、単におしゃれだとか、可愛いというだけではないということ。武蔵美時代、よく『作品がその形・表現である理由を考えなさい。バックボーンが伝わる表現をしなさい』と言われましたが、パッケージデザインにも通じるものがあります。
これを飲んだら、どんな気持ちになるのか。どんな思い出が生まれそうか。手に取ってくれた人の想像力を刺激する商品が、ヒットするんじゃないでしょうか」。
ライバル商品がひしめく売り場、アピールできるスペースはわずかボトル1本分。そこから発信される“声なきストーリー”で、消費者の心を射抜く……そんなシビアな仕事をおおいに楽しんで、杉山さんは今年自らの希望で、コーヒー飲料の担当に移った。
圧倒的なシェアを占める競合があり、同社の伸びしろともいえるこのカテゴリで、杉山さんはどんな新しいストーリーを紡ぎだすのだろうか。
上司が語るムサビの人間力
より難しいカテゴリで
存分に力を発揮して
菅根 秀一
マーケティング本部 宣伝部 副部長
採用試験の際に印象的だったのが、多くの学生が課題に対し、作品数を絞って完成度をあげる選択をしたなか、杉山さんは作品数を増やしてさまざまなアイデア・考え方をを見せつけてきたことです。多種多様な商品を世に問うメーカーとして、求めていたのはそこ。入社後は期待通りに、カルピス担当として柔軟かつユニークな提案力を示してくれました。次の担当となるコーヒー飲料は難しいカテゴリですが、だからこそ挑み甲斐があるはず。思う存分、攻めてほしいですね。
企業リンク
> アサヒ飲料株式会社