取材:2019年5月

大石 萌瑛(おおいし・もえ)
2014年視覚伝達デザイン学科卒業。
武蔵美在学中は専攻外にも、空間演出デザイン学科の選択授業などをとり、幅広い学びを得る。2014年フジアール入社。人気番組のセットや屋外イベントの舞台デザインなどを多数手がけている。


幼い自分を虜にした数々の物語
あの日のときめきは今もこの胸に

「とにかく“世界観”を考えるのが好きなんですよね」と、大石さんは語りはじめた。

幼い頃から、独自の世界観を持ったファンタジーやSFが大好きだった彼女の趣味は、Web制作。自分で考えた世界を表現したい一心で、小学生のときにはサイトを開設してイラストや文章を書いていたというから、筋金入りだ。

武蔵美を卒業後、入社した株式会社フジアールは、テレビやネットをはじめとする映像美術や、コンサート・イベントなどの舞台美術を多数手がける制作会社。彼女はここで『和風総本家』や『リアルカイジGP』など、多くの人気番組のデザインを担当している。

「いい美術デザインや背景には、見た人を一瞬で引きこむような……演技やナレーションで表現されずとも『ああ、こういう世界観なんだ』と伝わる力があると思うんです」。

視聴者が気持ちよくコンテンツに没入できる、そんな仕事がしたい。見る側からつくり出す側になった今でも、夢中だったあの頃の気持ちは、彼女の胸に息づいている。

レーザーとミラーを駆使し、万華鏡のような演出効果を生み出したライブステージ。
難易度の高いチャレンジと高額賞金で話題になった視聴者参加型バラエティも大石さんの担当。特番ならではの豪華なカジノ風セットが、一攫千金をめざす参加者の心を煽る。

現実との折り合いは必要だけど
想像力の翼はのびやかに

「もともと思いついたら即やってみるタイプなんです。1年生のときにとった空間演出デザイン学科の選択授業で影絵を学んで、映像美術に興味を持ったのをきっかけに、2年生の夏にはテレビ局のインターンシップに参加しました。そこで制作の裏側を覗かせてもらって、あ、私こういう仕事をしたい! って。ぱっとドアが開いたような感動がありました」。

確かにグラフィック系の仕事に進むことが多い視覚伝達デザイン学科には、珍しい進路かもしれない、だが大石さんは幼い頃からずっと“世界観”の構築が好きだったのだ。適性は充分だったのだろう。

とはいえ仕事となると、納期や予算といった点も考えなくてはいけない。一般に、レギュラー番組より特別番組の方が自由度は高いものだが、どんな案件でも、最初からそこに縛られていたら、イメージはふくらまない、と大石さん。

「最初は想像力の翼を広げるだけ広げて、そこから折り合いをつけていくんです。資料に目を通して、連想するキーワードやアイデアをノートにどんどん書き出していく。このアナログな作業が一番楽しいですね」。

アートのように華やかな舞台美術。登場人物の気持ちを物語るドラマのセット。非日常的な体験を味わうイベントステージ。次々とやってくるコンテンツの幅広さが、彼女の感性に磨きをかける。

彼女の次なる目標は、武蔵美の卒業制作でも取り入れたという、インスタレーションや照明効果を活かした作品づくりだ。

「学生時代、いろんな学科の授業を受けられたことが、自分の引き出しを増やしてくれました。まだ披露していない知識やアイデアはいっぱいあるし、仕事の中で知った最先端の技術もある。自分の中に吸収したものを、どんどんデザインに盛り込んでいけたら」。

挑戦のチャンスはいくらでも、数限りなくやってくる。刺激に満ちた現場が、これからも彼女を待ち受けている。

人気ユニットがプロデュースした、期間限定カフェバー。
夏フェスらしい世界観を表現すべく、外構から内装までしっかりつくりこんだ。

上司が語るムサビの人間力

“彼女にしかできない仕事”を
見せてほしい

坪田 幸之
デザイン部 デザイン課
課長

この業界は正直、しんどいことも多い。だけど抜群に面白いんです。なんといっても、同じ案件はふたつとないんですから。大石さんは入社6年目。そろそろひとり立ちというキャリアですが、その作風にはまだ上司の影響が大きい。ここからもっともっと“個”を出して、クライアントや営業から「彼女でなくては」と指名されるような、唯一無二のデザイナーになってほしいし、なれる人材だと思っています。

企業リンク
> 株式会社フジアール