取材:2018年6月

木村 恵美理(きむら・えみり)
2009年、芸術文化学科卒業。
アパレル会社、デザイン事務所などでの社会人経験を経て、2012年に渡英。
ロンドン芸術大学London College of Fashion校のメディアコースを修了後、Central Saint Martins校にて修士を取得、ナラトロジー(物語論)を学ぶ。2015年に帰国し、サービスデザインファームである株式会社ACTANTに入社。
リサーチのための多彩なワークショップの企画からグラフィックを中心としたデザインワークまで横断的に活躍中。


クライアントのオーダーに
異なる視点と新たな価値をプラス

「ちょうどカタチになって、次の展開が見えてきた案件が、これですね」と、木村さんが見せてくれたのは大きなまちの模型。街区や道はMDFボードをレーザーカッティングしたもので表現され、自由にブロックなどをレイアウトできるようになっている。

「もともとは、住宅開発エリアの中にできた地域活動の拠点に、まちの模型をつくりたいというご依頼でした。ここで単にリアルな模型をつくるのは簡単ですが、せっかく多くの人が訪れる場に置くのだから、見た人が“自分たちが住むまち”を考えるためのツールになれば、もっといいよねと。住民の方はもちろん、開発事業者、行政と、さまざまな立場の皆さんと話し合いやワークショップを重ねた結果、このカタチになったんです」。

“模型”というモノ、さらにはその製作過程の中に、“住人自らがまちづくりを考えるきっかけ”という価値を加えたい。そんな想いが、眺めながら意見を交わし、アイデアをふくらませられる無地のキャンバスのような、シンプルで美しい街区模型のカタチになった。

現在進行している“ママたちのココちいいをカタチにしてみたらプロジェクト”でも、この模型を活用したワークショップなどが開かれている。ひとつの案件が、その先の新たなチャレンジへとつながっているのだ。

できあがったまちの模型は、次のプロジェクトでも活用されている。
目下進んでいるのは、ママたちが暮らしの隙間時間を有効利用して、家でも職場でもない、自分に戻れる“サードプレイス”を創造しようという取り組み。
まちの模型に置かれた、色とりどりだが同じカタチのブロック。
住人は置く、積む、裏返すとさまざまな使い方で、自由にイメージをふくらませる。

モノか、コトか、場か
それさえ未知のスタートが楽しい

木村さんが勤める株式会社ACTANTは「サービスデザインの実践」を掲げて設立された、まだ6年目の若い会社。しかしその仕事には、各界から大きな注目が集まっている。

「サービスデザインというのは、まだ日本では馴染みのない言葉かもしれませんね。ざっくりといえば、背景になにがあるかをリサーチし、デザインという切り口で課題解決のお手伝いをする仕事。難題ならおまかせください! というのではなく、クライアントやその先にいる実際のユーザーに寄り添いながら、ともに検討し、可能性やよりよい方向性を導き出す…という感じでしょうか」。

実際、多くの案件は「なにか新しいことがしたい、でも……」という曖昧な状態で同社に持ち込まれるそう。商品やサービスなのか、イベントなのか、場所なのか、それとも。なにも見えないところから始まる仕事が、木村さんはとても面白いという。

「同じものを見て、同じテーマで語りあっていても、意見は千差万別。そういった人たちが上手く伝えられない想いや、表現できない物事を具現化するのも私の仕事。これにはプロジェクトの根っこにあるニーズやシーズを意識すること、ストーリーを感じるものづくりをすることといった武蔵美時代の学びも大いに役立っていると思います」。

大学卒業後いくつかの業界で働き、さらには自らの興味を満たすべく留学も経験して、高度な知識とスキルを兼ね備えたデザイナーへと成長した木村さん。その姿は、まだ見ぬ新しいなにか、より良いなにかを求めて漕ぎ出す人々を、支え、導く水先案内人のようだった。

多様な意見を引き出すために、ワークシートやカードといったツールも駆使する。集まった声を分類、分析して、より良い方向へと導くのも木村さんの仕事だ。

上司が語るムサビの人間力

思考する脳と描く手が連動している
稀有の人

南部 隆一
代表取締役・アートディレクター

課題に対するリサーチやコンセプト構築、ビジネス面の検討をベースに、デザインで具体化していくのがサービスデザインという仕事。長い時間がかかり、多くの人が関わるプロジェクトを完遂するためには、膨大な情報をインプットし、伝わるようにアウトプットすることが肝心です。ロジカルな思考とデザイン力の両方を持つ木村さんはとても得がたい人材だったと、出会いに感謝しています。

企業リンク
> 株式会社 ACTANT