取材:2018年5月

関口 雄二(せきぐち・ゆうじ)
2016年、工芸工業デザイン学科卒業。
大工だった祖父の影響で、幼い頃からものづくりに親しむ。
在学中の合同会社説明会で子どもの「可能性を広げるあそび」をテーマとする株式会社ジャクエツを知り入社。『ちょいす』、『ノーチェ』シリーズの室内遊具など業界が注目するヒット作を次々と生み出している。


「ありそうで、実はなかった」
潜在顧客の心をとらえた初仕事

福井県敦賀市の中心部。10,000坪を超える敷地に本社と生産工場を擁し、全国70ヶ所に営業店を展開する株式会社ジャクエツのコア事業は“遊具製造”、そして“子どもたちの遊び環境”のプロデュース。関口さんはここで、遊具の開発および設計を担当するデザイナーだ。

「児童遊具の開発には、顧客の希望に沿った特注品と既成品という2方向があります。私が最初に担当した案件は、ちょうどその中間にあたるものでした」と、自ら案内してくれたのは、階段やすべり台、網渡りなどを組み合わせた遊具の製造現場。

色とデザインを“選べる”+“ちょうどよいスモールサイズ”から『ちょいす』と名づけられたこの商品は、展示会で発表されるとすぐに大きな反響を巻き起こした。

「要はハーフオーダーですから、発想としてはそれほど目新しいわけではありません。でも、既製品の色やサイズでは既存の環境に合わない。けれど特注する手間やコストはかけられない。そういう潜在的な顧客層を発掘できたんだと思います」。

入社半年で売上1億円を超えるヒット作を生み出した関口さんに、会社がかける期待は大きい。

関口さんの初案件にして、ヒットとなった『ちょいす』。
愛らしいデザインプレートと塗装パターンを各3種類から自由に組み合わせられる。
スロープの角度や網目の大きさなど、安全性にもこだわった。

ぬくもり溢れる遊具デザインから
まなざしはその先の“環境”へ

そんな関口さんが手がける最新作が、0〜2歳児を対象とした低年齢児保育施設向けの『ノーチェ』シリーズの室内遊具だ。木の風合いをいかした優しい色使いと丸みをおびたデザインは、インテリアとしての美しさと遊具としての楽しさ、そして安全性を兼ね備えている。

「実は日本の遊具の安全規準は、3歳児が基準なんです。でも実際には0歳児保育も当たり前の時代。当社ではJQ※という独自の安全規準を設けて、教育・デザインの専門家や現場の求めに応えるものづくりを行っています」。

デザイナーである関口さんがいつもかっちりとしたスーツ姿なのは、営業とともに顧客の元を訪ね、リアルな声に触れる機会が多いからだ。

「木工を学んでいた武蔵美時代は、自分自身が快適さを追求するユーザーであり、デザインや機能にこだわる設計者であり、しかも作業の難しさや部品どりに悩む職人でもありました。そのことが、開発と製造が直結している当社ではとても役に立っています。顧客の視点だけでなく、工場での作業性も考えてデザインできるようになりましたから」。国産にこだわった上質で安全な製品は、シンプルで精度の高い構造・工程を意識したデザインから生みだされている。

「遊具のデザインをしていると、自然に、これはどんな空間に置かれるのだろうと考えるようになります。保育施設やその園庭、公共の公園や商業施設といった環境整備にも関わって、より子どもの可能性を広げるお手伝いができたらいいですね」。

多角的にものごとを見るまなざしは、実績を重ねて、さらに大きなフィールドに向けられている。

※JQ=ジャクエツクオリティ。同社が独自に定めた、国よりも幅広い安全規準。

ナチュラルな木の内装の施設向けに開発された『ノーチェ』シリーズ。
木の手触りが優しいインテリアと遊具で、子どもたちが育ち、遊ぶ空間をトータルコーディネートできる。

上司が語るムサビの人間力

現場と顧客を知って
開発チームの中枢に

杉田 隆
取締役営業部長

かつて当社の開発部は「図面を描く部署」でした。しかし近年では関口さんのように、顧客や営業のニーズをヒアリングし、新たな発想を加えた提案ができる人財が活躍しています。顧客・営業・製造。異なる立場の者がチームで取り組む商品開発。その中枢を担える人財に……という期待をこめて、最近ではどんどん全国の顧客や施工現場をまわってもらっています。

企業リンク
> 株式会社 ジャクエツ