取材:2015年7月
佐野 祐子(さの・ゆうこ)
2006年、基礎デザイン学科卒業。
制作プロダクションを経て2011年、電通クリエーティブX入社。ディレクターたちの頼もしい右腕として多くの著名クライアントの広告デザイン全般を担当している。
高校時代に衝撃を受けた
“広告の力”に導かれるかのように
佐野さんには、ひとつの忘れられない景色がある。それはまだ彼女が高校2年生だった時のこと。友達と遊びに出かけた渋谷の駅が、ある商品の広告に丸ごとジャックされていたのだ。
「見慣れた駅が、まるで違う世界になってしまったようで、うわあ、広告ってこんなパワーがあるんだ! 私もこんな仕事をしてみたい! って感動したんです」。
幼い頃から絵を描くのは好きだったけれどアーティスト志向はなく、美術系の進路は考えてもいなかったという佐野さん。しかしこの経験をきっかけにデザイナーになりたいという想いがふくらみ、武蔵美の基礎デザイン学科に進むことになる。
「デザインとはなにか、論理的思考を叩きこまれた」という大学の4年間でも、憧れの仕事への想いは変わることなく、卒業後はこだわりのある作品で定評を得ている個人事務所に入社。グラフィックからパッケージまで、多彩な仕事を経験した。
「最初の事務所は厳しいながらも居心地が良くて、とてもおもしろい仕事をたくさんさせてもらいました。でも、ふと思ったんです。自分なりに実績を積んできたつもりだけれど、はたして私の実力は、身ひとつになったらどう評価されるのかな、と」。
さらなるステップアップの手応えを求めて、佐野さんは転職を決意する。社会人になって5年目のことだった。
丁寧に、決して労を惜しむことなく
出逢った仕事が、自分の幅を広げる
現在、佐野さんが勤めているのは電通クリエーティブX(クロス)。国内外の一流企業をクライアントに持ち、数多くの広告賞を受賞している、気鋭のクリエイティブカンパニーだ。
ここでの佐野さんの制作実績にも、TOYOTA、資生堂、コカ・コーラといった錚々たる案件が並ぶ。自らの力を試したいと飛び出したチャレンジ精神は、しっかりと評価に結びついている。
「だけど実は私、最初はバイト契約だったんです。だから心の中ではひそかに“絶対いい仕事をして、正社員になってくれって向こうからいわせてみせるぞ!”と燃えてました」と、屈託なく笑う佐野さん。
「仕事のやり方は結構泥くさいんですよ」という言葉のとおり、コンセプトを考えるディレクターのオーダーを自分なりの味付けで、労を惜しまず丁寧に形にしていくのが彼女のスタイルだ。
「本格ドリップかと思ったら缶コーヒー」で話題になった、期間限定のカフェのコースターや看板などの可愛い小物、美しく繊細な化粧品のポスターといった、女性らしさが光る仕事もあれば、モーターファンの心を鷲掴みにするハードな自動車の広告もある。
「選り好みはしませんし、得手不得手もつくりたくない。だってプロですから。縁あって巡り合った仕事に、全力で応える。その経験が、なにより自分のクリエイティブの幅を広げてくれると思っています」と語る瞳は、デザインの世界に一瞬で魅了された、少女の頃のままの輝きだ。
そんな佐野さんが、とりわけ大きな達成感を得たという案件がある。高音質なヘッドホンで知られる音響メーカーのキャンペーンで、自身の手がけたポスターが渋谷駅をジャックしたのだ。
「願い続ければ、夢は本当に叶うんだなって」。グラフィックデザイナーとして歩み出して10年目。渋谷を彩った景色を、佐野さんは決して忘れないだろう。
上司が語るムサビの人間力
託しがいある職人気質
井置 麻呂也
第1ゼネラルプロデュースdiv.
プロデューサー
いい意味で職人肌なデザイナーで、託された案件に対してとても真摯に向き合ってくれます。納期がある中で、クオリティの高いデザインワークをきっちり仕上げてくれるので、ディレクターからの信頼も厚いですね。
今のところまだ、自分の名前を出して仕事をするつもりはないようですが、評価的・キャリア的にはそろそろ指名案件があっていい頃。チャンスが来たら、持ち前のハートの強さで果敢に挑んでほしいです。
企業リンク
> 株式会社 電通クリエーティブX