取材:2015年6月
津田 美咲(つだ・みさき)
2010年、工芸工業デザイン学科卒業。
関西に生まれ育ち、就職で再び関西の企業へ。デザインするだけでなく、自ら工場で試作機を動かすようなものづくりへのアグレッシブな姿勢が、ヒット作連発の原動力となっている。
自由すぎるくらい、自由に
創作意欲のままに謳歌した大学生活
武蔵美でテキスタイルを学び、カーペットや壁紙をはじめとする内装材メーカー、東リ株式会社のデザイナーに。津田さんの歩みに迷いはない。
「でも大学でどんなことをやっていたかというと、テキスタイル一筋ともいえないんです。武蔵美は専攻分野だけでなく、絵画や彫刻など幅広い授業を受けられたし、私自身インテリアやガラスなどにも興味があって、卒業制作も立体作品でした。手染めした小さな布をつないで象を作ったのですが、平面作品が多いテキスタイル専攻の展示の中では珍しがられました」と、津田さんは笑う。
なんでも自由に、自分がいいと思うものを作りなさい─。そんな恩師の理解にも背を押され、思いきり創作意欲を羽ばたかせた津田さん。東リを志したのは、「いろいろ経験した上で、やっぱりテキスタイルが好き。そして、人の生活に一番身近で、影響の大きいテキスタイルは内装材なのでは」と考えたからだ。
デザインを、いかに製品化するか
試行錯誤も楽しみつつ、夢は世界へ
かくして入社した津田さんは、床材のチームに配属され、タイルカーペットやラグなどのデザイン全般を担当することになった。初年度に手がけたタイルカーペットで、グッドデザイン賞を受賞するなど、一見、順風満帆なスタートを切った津田さんだが、その陰ではプレッシャーに涙を流したこともあるという。
「カーペットのデザインは平面的なようで、実は糸で織りあげる立体物。色柄もさることながら、目の立て方やカッティング次第で、印象も踏み心地もまったく違うものになるんです。しかも、製品として売れるか、製造コストや手間が折り合うか、といった営業的な判断も重要。正直、メーカーのデザイナーというのがこんなに幅広い業務を持った仕事だとは知らなくて」。そう語る津田さんが、全力で打ち込んだ作品がある。
目立たない意匠にも徹底的にこだわり抜き、日本の美意識を表す“底至り(そこいたり)”と名づけられたタイルカーペットは、同社が約10年前から発表している最高級ライン。大きな期待と共に託されたその4作目で、津田さんは再び、グッドデザイン賞を受賞した。
「シックなカーペットですが、実は糸の太さやツヤ、カットに工夫を凝らしてあって、見る角度やタイルの組み方によって印象が変わる。さりげないけれど繊細なこだわりが詰まった、日本らしい、東リらしいものができたと思います」。サンプルを撫でる指先が、とても愛しげだ。この他にも、新たな商業施設にできた話題の書店の内装に作品が採用されるなど、津田さんの仕事への評価・注目度は上々といえるだろう。
難しい、でも、そこがおもしろい。そんな心境に至った津田さんは、最近さらに大きなステージを意識し始めたという。「世界最大の内装材市場を擁するのは、実はアメリカなんです。そこで通用する日本の製品、日本のデザインを、東リがつくれたらなって」。
その言葉の背景には当然、自分のデザインで、という晴朗な野心が息づいているのだろう。
上司が語るムサビの人間力
現場の仲間に愛される人柄
澤田 茂
商品企画部 プロダクトデザイングループ
グループリーダー 参事
ここ数年、当社は“もっとデザインで勝負できる会社”へ進化しようと願って採用を行ってきました。入社早々グッドデザイン賞受賞作を生み出してくれた彼女は、この期待に大いに応えてくれた人材といえるでしょう。
センスに加えて、現場にとけこむ力に長けたデザイナーで、製造ラインの担当者と密に話しこんでいる姿が、実にいきいきと楽しそう。現場の仲間たちに愛されている様子がうかがえます。
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> 東リ株式会社