取材:2013年5月
山畑 勝哉(やまはた・かつや)
2010年、大学院造形研究科 修士課程 美術専攻 油絵コース修了。
NHKアート入社後、『ゲゲゲの女房』、『島の先生』などの人気ドラマの美術制作に携わる。現在、自らの名がチーフ美術担当としてクレジットされる、初のスペシャルドラマ(2013年放映予定)の制作中。
“画面に映るものすべて”に
責任を持つ、プレッシャーと面白さ
ドラマ制作において“美術”という言葉が内包するものは、とてつもなく広く、多彩だ。ヒロインが暮らすおしゃれな部屋、素朴な南の島の暮らし、風吹く荒野に舞う砂塵。画面に映る役者の演技以外のほぼすべてが、“美術”チームが準備し、つくりあげるものだからだ。
「仕事のスタートは、脚本を読み込むこと。どんな時代の、どんなテーマを持った物語なのか? 各キャストの個性が出る服や小物は? …まだ誰も見たことがない作品世界を想い描いて、各シーンで必要な背景やアイテムをまとめ、製作する専門家の皆さんに“こういうものをいくつ、いつまでに”と指示を出し、撮影開始までに完成させる。時間・予算の段取りはもちろん、現場での急なオーダーにも対応できる臨機応変さが求められます」
細かくメモを記した脚本を手に、ニコニコと語る山畑さんは、大学院を卒業後、NHKのドラマ美術を手がけるNHKアートに入社。以来4年、朝の連続ドラマなどのアシスタントとしてみっちりと鍛えられ、次作でいよいよ、自らが責任者となるドラマの撮影を控えた、同社期待の若手美術ディレクターだ。
「僕の役目は、監督・デザイナーといったクリエイターと、職人気質な美術スタッフの間での舵とり。どちらもこだわりのある人たちだからこそ、間を取り持つ僕にジャッジがまかされることは多いです。各方面とのやり取りの中で、より魅力ある画面づくりを目指して、押すところは押し、引くところは引く。プレッシャーはあるけれど、そこが面白さでもあります」
「一緒に面白いもんつくろうよ! 」
人を巻き込むパワーが今につながる
クリエイティブなこだわりは十分理解しながらも、美術ディレクターには大きな制約がある。
「テレビは台本ができてから撮影・放送までの時間が短いことが多い。その中でなにを優先するか、どうすればスタッフに快く全力を発揮してもらえるか、試行錯誤の毎日です。正直、精神的にも肉体的にもタフな仕事ですね」
譲れないこだわりのために懸命に食い下がることもあれば、無茶なオーダーからスタッフを守るために、潔く割り切ることもある。自らの決断が多くの人々を動かすだけに、迷って眠れない日もあるという。
「でも僕は武蔵美在学中からやたら大きな作品をつくりたがるやつで、一人じゃ無理なものでも、友達や後輩を巻き込んでワイワイ完成させてきました。“絶対面白いもんになるから一緒にやろう!”ってね。あの頃の、みんなをまとめてひとつの作品をつくりあげた経験が、今の仕事にも生きている気がします」と山畑さん。
誠実な言葉だけではない。がっしりとした体つきや、おおらかな笑顔からも伝わってくる“このチームで、いい作品をつくるんだ”という山畑さんのポジティブなエネルギー。そこから生まれる魅力的なドラマ世界を、私たちはこれから幾度も、画面の中に見ることになるだろう。
上司が語るムサビの人間力
鍛えるほどに伸びる成長力
塩野 邦男
番組美術センター
副センター長
(放送センター管理・大道具美術部担当)
NHKのドラマでは、番組のエンドロールに名前が出る美術責任者は一人だけ。彼は次の番組で、はじめて自分の名前をクレジットされる予定です。入社以来、朝の連ドラや重厚なスペシャルドラマに起用し、厳しく鍛えあげた若手がいよいよ一本立ちするのですから、こちらも感慨深いですね。NHKらしい王道のドラマ世界を創造できる、骨太なディレクターに成長してくれると信じています。
企業リンク
> 株式会社NHKアート