取材:2012年7月

星野 優(ほしの・ゆう)
2009年、建築学科卒業。
建築士の家に育ち、立体表現に興味を抱いて武蔵野美術大学へ。現在は村井氏のアシスタントを務める傍ら、自らの案件をまかされるまでに成長している。


ノックのように繰り出される課題に
鍛えられた“自分の芯”

とにかく、美大に入りたい。その一念で山形から仙台の予備校へ通い、そして武蔵美の建築学科へ。

星野さんにとって、はじめての一人暮らしでもあった大学生活は、かなりハードな日々だったという。

「なにしろ課題が多かったんです。毎回、テーマも傾向も違いましたし、切磋琢磨する同級生たちがまた個性派ぞろいで…みんなのセンスに圧倒されながらも、私自身負けん気が強い方でしたから、どうすれば自分らしいものがつくれるのか、そのことばかり考えていた4年間でしたね。苦しいことも多かったけれど、これを乗り越えたおかげで“自分の芯”みたいなものができた気がします」と振り返る表情は、とてもリラックスして見える。武蔵美で鍛えられたタフな精神は、社会に出た彼女をしっかりと支えているのだ。

大きな事案では街ひとつ分のランドスケープさえ考える“建築”という分野を学んだ星野さんが、最終的に選んだ進路は“インテリアデザイン”。

大学時代、数多の課題をクリアし、地力を養う中であらためて感じた、より身体や心に近い、空間を構成する“モノや素材”への興味が、彼女をイリアへと導いた。

他者のイメージを具現化する
“モノ”を選び出す難しさとやりがい

個人宅やオフィスから、巨大なリゾートホテルまで、幅広い案件を手掛ける同社では、若手は1年ごとにチームを移動して経験を積むことになっている。

現在、入社4年目の星野さんが所属するのは、ホテルやレストラン等で国際的な実績をもつ、村井尚登氏が率いるチーム。昨年、1年がかりで関わったのは、2012年5月、沖縄にオープンした『ザ・リッツカールトン沖縄』というビッグプロジェクトだった。

「デザインコンセプトをまとめるのは、クライアントと村井さん。私はその意見を聞きながら、彼らが求める空間にふさわしい、色や質感、デザインはどんなものかを想起し、実際に探し出すのが現在の務めです。

たとえば“赤いソファ”というオーダーでも、深い紅か明るい朱色かで空間の印象は大きく変わるし、クロスの質感ひとつで、座る人の快適さも違う。膨大なインテリア部材の中から、これだと思う候補を探し出して提案し、OKが出た時の手応えは大きいですね。もちろん、リテイクもたくさんありますが」と星野さん。

話を聞き、イメージし、現物を探し出すこと。そしてそれらを魅力的にプレゼンすること。五感のすべてをフルに使って、オーダーに応えようとする勘の良さ、果敢さは、上司の村井氏も密かに評価するところだ。

「最近では小規模なオフィス案件などを、主体的にまかせてもらえるようにもなりました。食べること、調理することが大好きなので、いずれはレストラン等を手掛けてみたいという夢がありますが、まずは多彩な案件に関われる、今の役目をまっとうしたい」という真摯な瞳に、懸命に課題に挑んでいった武蔵美時代の彼女の姿が、ふと重なった。

『ザ・リッツカールトン沖縄』のエントランスに用いられる部材を貼り合わせたプレゼンボード。
朱赤をアクセントにした、村井氏のデザイン意図が伝わるようにボードをつくるのも、彼女の役目だ。
星野さんが自ら担当したオフィス案件。
来客を迎えるラウンジということで、くつろいで話し合えるナチュラルな雰囲気づくりにこだわった。

上司が語るムサビの人間力

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成長著しい進行役

村井 尚登
インテリアデザイン部
プリンシパルデザイナー

この仕事には、インテリアデザイナー、工事会社、家具メーカー、CGオペレーターなど、たくさんの人材が関わります。今、彼女にまかせているのは、僕やクライアントの意思を彼らスタッフに伝える進行役。伝達力や臨機応変な対応力が必要なポジションですから、最初は大変だったと思いますが、徐々に的確な指示が出せるようになりました。知識や経験不足をカバーしようと積極的に学ぶ姿勢は、スタッフからも好感を得ています。

企業リンク
> 株式会社イリア