取材:2012年5月
米澤 章憲(よねざわ・あきのり)
2003年、視覚伝達デザイン学科卒業。
『朝日新聞デジタル』の前身である『アサヒコム』でのウェブデザイン等を経て、2006年から報道局デザイン部に。
高精度のインフォグラフィックから味わいのある手描きイラストまで、幅広い作風をもつ。
3.11を契機に再認識した
インフォグラフィックの重要性
2011年3月11日。この日の記憶は、日本人にとって生涯忘れられないものになっただろう。一体なにが起きているのか? なぜ起きたのか? 不安な暮らしが続く中、真実を求めて、人々は情報を追い続けた。
東京・築地の朝日新聞社報道局で、デザインを担当する米澤さんは、報道側の人間として、この非常事態と向き合うことになった。
巨大津波に襲われた沿岸部の被害規模。原発事故はいつ、どのように起きたか。文章だけでは説明しきれない情報を、よりわかりやすく伝えるために、3人のデザイナーとともに制作した大型グラフィック『福島第一原発事故』は、ニュースデザインに関する国際的機関が選ぶベストニュースデザイン大会で『インフォメーショングラフィックス部門・優秀賞』を受賞した。
「入社して以来、政治・社会・経済・文化など、さまざまな記事のグラフィックを担当してきましたが、やはり震災の前後では心構えが変わりました。“伝えたい”という記者の熱意や“知りたい”という読者の願いに、自分のグラフィックは応えられているのか…そう考えながら、表現を模索しています」という表情は穏やかだが、その下には気鋭のクリエイターらしい覚悟が垣間見える。
「読む×見る=伝わる記事」
時間的制約の中でも提案力を大切に
「大学時代に身につけたことで、今一番役立っているのは、〆切に強いことかも。通学に往復5時間かかって、制作時間が限られていたので、作業の段取りを決めるのが早いですね」
毎日発行される新聞では、いつ、どんなニュースが飛び込んできて、どんなグラフィックが必要になるかの予測はつかない。記者からのレクチャーを受け、盛り込むべきデータを精査し、わかりやすい表現やデザインを考え、実際に仕上げるまでにわずか数時間、というタイトな仕事も珍しくないのだ。
「言われたとおりに描くだけならラクですが、僕は記者の書いた文を、最初に読む人間でもある。この記事が伝えたいのはなにか。ふさわしいグラフィックはどんなものかを考えて、時には記者に逆提案することもありますね。武蔵美時代に“データを分析し、完成させるまでのプロセスを大切に”と学んだ経験が、こういうところに生きているのかもしれません」
報道に関わる責任の重さ。刻々と迫る〆切。プレッシャーの多い毎日が、米澤さんを“伝えるための表現者”へと、しなやかに進化させていく。
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