<卒業生データ>
本村野乃花
2024年 視覚伝達デザイン学科卒

神戸市役所
企画調整局
大学・教育連携推進課
創造都市担当


――本村さんは3年生のときにムサビに編入したと伺いました。

本村野乃花さん(以下、本村):はい。もともと絵を描くことが好きで、小さいころから美術を学びたいと考えていました。そして3年間、滋賀県の美術大学で企画デザインを学んでいたんです。

編入のきっかけとなったのは、障がいのある子どもたちが放課後を過ごす施設で支援員のアルバイトをしたこと。そこでの経験から、デザインの力で地域の子どもたちや地域コミュニティに貢献できるのではと興味を持つようになりました。

その後大学の授業で、過疎化が進んでいる地域を盛り上げるブランディングデザインの授業などを受け始め「地域貢献ができるデザインについてもっと学びたい」と思うようになったんです。そこで知ったのが、ムサビの視覚伝達デザイン学科の齋藤啓子先生でした。齋藤先生のゼミなら、フィールドワークを通してたくさんの地域の方と協力し、話し合いながら一緒にデザインをつくり上げることができる。そう思い、ムサビへの編入を決めました。

――ムサビに編入してから、どのような授業が印象的でしたか。

本村:ムサビに入ってからは、正直授業についていくのが精いっぱいという感じでした(笑)。でも、齋藤先生の授業では、学内に地域の方をお招きしたり、小平市や企業と協力して、障がいを持つ方たちによるアート展を開催したり。これまで学外の方と積極的に関わる経験がなかったので、こういった活動はすべて印象に残っていますね。

本村さんが3年生のときに受講した齋藤啓子先生の授業「空間構成Ⅲ」で、株式会社ブリヂストンと「共生社会」をテーマにして取り組んだ、小平市の障がい者アート作品展示企画「異才たちのアート展2022」。展示空間班として、会場レイアウトや展示作品の設置などを担当した

――編入当時、ムサビの環境や雰囲気はどう感じましたか?

本村:一生懸命な人を応援してなんでも受け入れてくれる校風なんだなと感じました。学内には本当にいろいろな人がいて、みんなが真剣に学んでいる。だから、みんながお互いにリスペクトし合っているなと。そういう人が集まっているんじゃないかなと思います。

――ムサビでの生活やイベントでの思い出はありますか。

本村:4年生のとき、芸術祭に初めて出展したことが思い出深いです。自分でデザインしたバッグやスウェット、シール、ポストカードなどを販売する雑貨屋を出店しました。モノをつくり、お店の内装や動線を考え、実際に販売して、お客さんと関わる。すべてを体験できたのは純粋に楽しかったですね。お店の流れをひと通り学ぶことができたという経験ができたことは大きかったと、いまになって思います。

――就活はどのようにスタートされたのでしょう?

本村:はじめは右も左もわからなかったので、どんな職業があるのかも知りませんでした。そのため、まずはキャリアセンターに相談することから始めました。

自分がやりたいことはふわっとしていて曖昧だったのですが、キャリアセンターの方がうまく拾ってくれて「こういう職業や会社があるよ。こういうのは興味ある?」と、道筋を示してくれました。次に自分がなにをすればいいか明確になったので、すごく助かりましたね。

――現在、本村さんは神戸市役所で働いてらっしゃいます。志望した理由を教えてください。

本村:大学では地域コミュニティなどに関わるデザインを学んでいたので、地域貢献ができる会社などに就職したいと考えていました。そのなかで自治体を選んだのは、利益を追求せずに地域に貢献できるというのがすごくいいと思ったからです。

また、出身が兵庫県であることや、神戸市が企業と連携して新しいことにどんどん取り組んでいて、チャレンジできる風土だと感じたのも大きかったと思います。

あとは、芸術を学んできた人を採用する「デザイン・クリエイティブ枠」があったことも理由のひとつです。自治体のなかでもかなり珍しい取り組みで、先進的だと思いました。これはすごいことなんじゃないかと思って受験を決め、最終的にその「デザイン・クリエイティブ枠」で合格しました。

――現在の業務内容について教えていただけますか。

本村:創造都市担当としてシビックプライド・メッセージ「BE KOBE」の発信業務に取り組んでいます。市民に、神戸に住んでいることに誇りを持ってもらいたい、「神戸の魅力は人である」という思いを込めた「BE KOBE」というメッセージを発信し、広めていくことが主な業務です。

阪神・淡路大震災から20年をきっかけに生まれたシビックプライド・メッセージ「BE KOBE」。新しいことに挑もうとする人や気持ちを愛する神戸を誇りに思うメッセージとして広めている

また、神戸市は「ユネスコ創造都市ネットワーク」という、クリエイティブな都市が認定されるネットワークにデザイン分野で加盟しています。“デザイン都市・神戸”の発信や同じネットワークに加盟している北海道旭川市、愛知県名古屋市との連携・交流なども担当しています。

一般的に、神戸市にデザインのイメージはあまりないかもしれません。1995年の阪神淡路大震災から神戸市が復興するために、デザインの力が必要と考え、デザイン都市に加盟申請したという経緯があります。そのため、「アートな街」というよりも、街の整備や市民・暮らしに寄り添った形でのデザインを推進するという取り組みを行っています。

――印象に残っている業務はありますか。

本村:今年1月「BE KOBEについて改めて考えよう」という会が民間団体さん主体で行われ、私も市の担当として説明のために登壇しました。後半には、参加者同士がグループになって意見交換をしたのですが、私も市民に混じって参加させていただいたんです。

市役所職員になってから、市民の方とじっくりお話しすることは初めてで。普段は表立って活動していないけれど、地域のことを考えている、熱い想いを持った人がたくさんいることを知りました。今後、施策を考えるときに、そういった人たちも巻き込んでいけるのではと、ヒントになったと思います。

――仕事をするなかで心がけていることはなんでしょう?

本村:そうですね、その業務は「なんのために」「誰のために」やっているのか、目的を見失わずにいたいということは一貫して意識しています。そこがわからなくなってしまうと、やり方もずれていってしまうと思うんです。このように考えるようになったのは、ムサビで学んだ「ターゲットを明確にする」「誰に伝えたいのかを考えて制作する」ということにつながっていると思います。

――いま、ムサビ出身でよかったと感じることはありますか。

本村:私が「ムサビ出身なんです」と自己紹介するだけで、お相手から「美術が好きなんだね」「どんなことをしているの?」と興味を持っていただけて、そこから話が広がっていくことがあります。ムサビ出身ということから自然と会話がはずむのはありがたいですね。

それから、神戸市のデザイン・クリエイティブ枠はムサビ出身の人が多いんです。ムサビがこれまでに築いてきた安定感や信頼性が採用につながっているのかなと思うとともに、ムサビの先輩が多いことは単純にうれしいですね。

――学生時代にもっとやっておけばよかったということはなんでしょう。

本村:デザインもそうですが、英語などの一般教養も勉強すればよかったな、と思います。一般教養を勉強することでアイデアのベースや引き出しができるので、いろいろなものに興味を持って取り組めばよかったかなと。

あと、学生時代はデザインに関係のないアルバイトをしていましたが、思い切ってデザイン会社でアルバイトしてみてもよかったなといまさらながら思うこともありますね。自分の将来につながるアルバイトをしていれば、すごく役に立ったんじゃないかなと思います。

――最後に、ムサビの受験を迷っている高校生に向けてメッセージをお願いします。

本村:ムサビは一生懸命頑張ってくれる人を応援してくれますし、真面目で優しい人が自然と集まってくる場所。もし、つまずいてしまったとしても、いろいろな大人がサポートしてくれます。学生も優しい人が多く、さまざまな人とつながれるので、頑張り続けることができる環境だと思いました。学生生活を充実させたいと思っているなら、すごくおすすめですよ。