
<卒業生データ>
清水良広
2019年 映像学科卒
ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター
インキュベーションデザイン部門
スタジオ2
チーム2
デザイナー
――まずは、ムサビへの進学を決めた理由を教えてください。
清水良広さん(以下、清水):もともと、テレビでアニマルプラネットやディスカバリーチャンネル、NHKプレミアムといったチャンネルを見るのが好きでした。そのときから漠然とですが、映像に関わればこれらの世界に関わることができるのではないかと興味を抱いたことがきっかけです。
高校生になってから、文化祭の映像演出を企画して会場を盛り上げたり、中学生向けに学校紹介の映像をつくったりしました。学校紹介の映像をつくったときは例年よりも大幅に受験希望者が増えたと聞き、ツールとして映像を使うことで世界を広げることができると実感。より関心を持つようになりました。
ただ、当時は美大を受験しようとはまったく考えていませんでした。総合大学の映像学部への進学を考えていたのですが、調べてみると実制作よりもマネジメントに強い印象で、自分が希望している方向ではなかった。次に考えたのが専門学校です。カメラの専門学校に行けばフォトグラファーやシネマトグラファー、照明の専門学校に行けば照明技師とひとつのことに特化するプロフェッショナルをめざすことができます。でも自分としては、なにかの分野に特化するよりも、選択肢を広げることができる進学先を探したいと感じました。そんなときに、美大という選択肢があることを知り、調べるうちにムサビに行きたいと思うようになったんです。僕は岐阜県に住んでいたので、東京にあることも大きな魅力でした。
――大学入学後は学外から映像制作の仕事を請け負い、精力的に活動されていたと聞きました。
清水:そうですね。僕は美術予備校に通ってムサビに入学したわけでないので、ほかの人と違って絵を描くことができませんでした。もちろん、上京したばかりの自分にはコネもない。そのなかで、どうやって自分のポジションを確立しようかと考えたときにたどり着いたのが、仕事で実績をつくるということでした。
その最初の突破口は機材だったんです。具体的には、みんなが持っているカメラではなく、カメラの手ブレを補正するジンバルという機材を最初に買いました。カメラは買わず、本当にそれだけです(笑)。でも、それを持っているだけで、先輩たちから撮影に呼ばれるんですよ。そうして撮影をいくつもこなして、自分の業績として短いプロモーション映像にまとめ、それを使ってスタートアップ企業などに売り込みを始めました。まずは大体、50社くらいにメールを送ったと思います。そのうち5社くらいから返信がきて、実際に2社と仕事をしました。
――積極的に学外の仕事を取りにいくというのは珍しいですよね。
清水:自己表現のために作品をつくるアーティストではなく、命がけで自己表現をするアーティストや起業家たちのサポーターとして、映像制作を通して物事を前進させる。それが自分の得意分野だと考えていました。
――なるほど。学内でも芸術祭でプロジェクションマッピングを制作されましたね。
清水:はい。仕事をしていると外部とムサビ生をつなげるようなこともありました。そうすると、「なにかやりたい」という人が声をかけてくれるようになったんです。そうして集まった人で始めたのが、芸術祭のフィナーレを飾るプロジェクションマッピングでした。最終日の夜に美術館の外壁全面に投影し、芸術祭のいろんなシーンをおさめた映像も流しました。動機は単純に「カッコいいじゃん」という気持ち。芸術祭の思い出がずっと残り続けますし、それを見た高校生がムサビの雰囲気を知って、興味を持ってくれるきっかけにもなるなと。

この活動のおかげで、クマ財団のクリエイター向け給付型奨学金で支援してもらえることとなりました。それから、マイクロソフトのCM制作の依頼をいただくなど、より幅広い活動につながったと思います。
――現在、所属しているソニーでは、どのような業務をしているのでしょうか。
清水:大きくふたつあり、カメラ周りのデザインの先行開発とグループ全体のブランディングです。カメラ周りデザインの先行開発では、時には10年先を見据えた研究開発、時には企画から寄り添って、プロダクトローンチまで携わります。製品やサービスの特徴や強み、消費者の方に見てほしいポイントを指し示すデザインを制作することでサポートしています。
グループ全体のブランディングは、複数あるグループ会社をひとつの「ソニー」という組織として一貫して見えるようにする仕事です。たとえばソニー銀行などのサイトの作成や、株主総会、経営方針説明会、海外イベントでの演出の考案。ほかにも、デザインを専門としていない方々に、デザインの考え方を取り入れることのメリットを伝えたり、トップマネジメントのパワーポイント資料をつくるなどの周辺業務を行ったりしています。肩書きとしては、「コミュニケーションデザイナー」と称することが多いですね。
――入社の決め手を教えてください。
清水:大学生のときから使っていたソニーのカメラに対して、“普通じゃない尖り方”をしていると感じたのが、ソニーに興味を持ったきっかけです。万人受けする使いやすいカメラも正解だと思うのですが、ソニーは専門性に思いっきり特化している。たとえば夜でも昼のように撮影できる「超高感度」や、何億ピクセルもの「高解像」。この吹っ切れ方が気に入っていました。
もうひとつ、規模の大きいプロジェクトに関わりたかったというのも大きな理由です。ソニーだけではないのですが、ほかの企業も含めてデジタルイメージング産業のほとんどが日本メーカーとなっています。そのなかでもソニーは世界中のスマホのセンサーを担うなど、今後10年の未来、デジタルイメージングの分野で選ばれる企業のひとつだと思っています。これからの映像記録の発展に貢献できるということは、人類の発展に貢献できるということ。僕が勝手に思っているだけかもしれませんが、カッコいいですし、おもしろい。そういう大きいことができる会社なのも決め手でした。
――印象に残っている仕事について教えてください。
清水:新しいカメラの製作に向け、最前線で必要なスペックを知るためのタンザニア出張です。タンザニアでコントロールの効かない動物を被写体とする撮影隊に帯同して、新しいカメラはこうあるべき、こういう環境に耐えられるスペックで設計すべき、などを提案するための仕事ですね。砂塵が飛び交うなか、レンズを外して放り投げながら交換する。レンズはそのまま、センサーはむき出しの状態で耐えられないとダメ、東京のようなアスファルトが整備された素晴らしい環境で使うことを考えていてはいけない、と肌で感じました。
――仕事をするなかで、清水さんが心がけていることはなんでしょう。
清水:僕たちが「こういうデザインや映像をつくりたい」と制作するのではなく、見る側の求めているもの、消費者の方がソニーに求めている世界観や理想像を誠実に読み取って、それを表現すること。つまり、“見る側目線でつくる”ことを常に心がけています。
――最後に今後の目標を教えてください。
清水:もっと学生と絡んでいきたいですね。講師として大学に行くのもいいですし、産学協同など、どんな形でもいいと思っています。学生が持っている根拠のない自信はすごく大切だし刺激的。僕も持っていたし、いまもあると思っています。なにかちょっとでも迷っている後輩たちには、ぜひ、根拠のない自信を持ってほしい。あくまで僕のいち意見ですが、心に留めてくれたらうれしいですね。