<卒業生データ>
川島圭祐
2021年 基礎デザイン学科卒
株式会社ポケモン
デザイナー
・情報本部 カード事業統括部
・アジア事業本部 アジアカード制作部 兼務
・管理本部 アートデザイン部 兼務
――現在の業務内容について教えてください。
川島圭祐さん(以下、川島):所属している部が3つあり、カード事業統括部では国内のポケモンカードゲーム周りのデザインを担当しています。カード商品そのものではなく、ポケモンカードのイベント会場装飾や告知媒体などをデザインする仕事です。アジアカード制作部では、国内で発売しているポケモンカードのパッケージや商品ロゴなどを繁体字・インドネシア語・タイ語などの各言語にローカライズして、商品のレイアウトをつくりあげています。
アートデザイン部は社内のデザイナーが一堂に会する部署で、普段はそれぞれが別の部署で働くデザイナー同士で情報交換・共有したり、どこの部署にも属さない全社的なプロジェクトを担当したりしています。全社的なプロジェクトの多くでは、部内でコンペを実施して担当を決めています。

――進学先にムサビを決めた理由を教えてください。
川島:教授や卒業生に著名なデザイナーがいたことと、オープンキャンパスに行ったときに感じた温和な雰囲気に惹かれたことが大きいですね。
――基礎デザイン学科を選んだのはなぜでしょう。
川島:もともとグラフィックデザインが好きだったのですが、それに限らずいろいろなことを学んでみたいと思ったからです。グラフィックデザイナーの原研哉さんが教授としていらっしゃったこともあって、基礎デザイン学科を選びました。
――ムサビ時代、大学の講義以外で取り組んでいたことはありましたか?
川島:印象に残っているものはふたつあります。ひとつは芸術祭で参加したコンペティション形式のグループ展です。他学科生を含めた18名が集まり、実在する企業の広告を一人ひとりが制作して展示。来場者の投票によって順位づけをするというものでした。僕は文具メーカーであるステッドラーのポスターを制作したほか、展示全体のアートディレクターとしてメインビジュアルやフライヤーのデザイン、企業への許可取りなどを担当しました。
展示は盛況で、ノベルティとして配布したオリジナルの缶バッジも1時間ほどで終了。自分の作品を学外の人にも見てもらえるいい機会になりました。

もうひとつは、選択授業でシルクスクリーンを学んだことです。すごくおもしろくて、授業とは関係のないところで自主制作もしました。芸術祭での広告制作とはまた違って、印刷という表現でどう化学反応を起こせるかということを試行できるところがハマった理由です。制作した作品は就職活動でも提出しました。

――ゼミではどのようなことをされたのですか。
川島:原先生のゼミに入りました。もともとは平面表現をベースに検討していましたが、突き詰めていくうちに立体にしたほうがおもしろいのではないかと思い始め、卒業制作ではさまざまなデザインの蛇口をつくりました。原ゼミにかぎらず、いろいろなデザインを幅広く経験したうえで、自分がやりたいアウトプットの方法を選択できることは、基礎デザイン学科の特長のひとつだと思います。
――ムサビで特に思い出に残っていることはなんですか?
川島:美大のなかにいると、どうしても作品をつくる側の視点だけに立ちがちです。だからこそ、学外の人に見てもらうというのは意識していた部分でした。学外のデザインコンクールに応募したこともあって、そこで入選できたことは印象深い出来事です。
“外”に向けてつくるにせよ、自分の表現を突き詰めていくにせよ、説得力があるものをつくるには、まずは自分の興味があるものを追求することが大事だと思います。作品のクオリティーを高めていくことに加えて、自分の軸を持つことは特に意識していた部分ですね。
――就職することは早くから決めていたのでしょうか?
川島:はい。もともとグラフィックデザインに興味があったということもあり、なんとなくデザイン事務所や広告制作会社のデザイナーを目指していました。
ただ、就活のことはあまり考えておらず、自分の表現の探求を優先していたんです。でも振り返ると、その探究が自分の軸をつくることにつながり、結果的に就活にも役立ったと感じます。
――キャリアセンターは利用していましたか?
川島:はい、何度か利用しました。当時はコロナ禍だったこともあり、同級生たちとポートフォリオを共有する機会もほとんどなかったので、特にポートフォリオを制作する際には大きな助けになりました。
――就職活動を進めていくなか、株式会社ポケモンを選んだきっかけを教えてください。
川島:一番は「楽しそうだったから」というのが正直な理由です。幼いころからポケモンが好きだったので、一度説明会に行ってみようと考えたのがきっかけでした。最初はゲーム制作をやるのかなと思っていましたが、株式会社ポケモンのデザイナーは、どちらかというとグラフィックデザイン寄りの仕事が多いことがわかって。これなら自分が大学で培ってきたことを活かせるし、好きなポケモンにも携わることができると考えました。
――入社されてからこれまでに印象に残っている仕事はありますか。
川島:ひとつは入社後3、4カ月くらいのときに携わった、大相撲の懸賞旗のプロジェクトです。まさかポケモンに入社して相撲の懸賞旗をデザインするなんて思ってもみませんでした。珍しい媒体ですし、大相撲ファンの方々にも受け入れてもらえるかという不安はありましたが、いろいろな方に喜んでいただけて本当によかったです。

もうひとつは飛行機を主軸とした「そらとぶピカチュウプロジェクト」です。2023年にANAのジェット機「イーブイジェットNH」の全体のデザインとディレクションを担当しました。このときは社内デザイナー3人でチームを組んでいたのですが、そのなかで自分がデザインとアートディレクション、もうひとりがイラスト制作、もうひとりがデザイン兼全体進行という形で、それぞれの強みを活かして進めていくのが楽しかったですね。

当時はまだ入社3年目だったのですが、株式会社ポケモンは大きなプロジェクトでも若手に出番をつくるという社風があります。想像以上に大きな仕事を任せてもらえることは刺激になりますし、この会社の魅力ですね。
――仕事をするなかで心がけていることはありますか?
川島:つねに意識しているのは「ポケモンの魅力の最大化につながっているのか」ということです。他社とタイアップして行う仕事では特に強く考えます。
たとえば商品のコラボパッケージを制作する場合、コラボ元の商品に込められている思いやこだわりは、必ずポケモンと同じくらい理解を深めるようにしています。
ときには両者のこだわりがぶつかることもありますが、そのうえで、いかにポケモンを魅力的に見せるのかをものすごく考えています。
――ムサビでの経験が活かされていると感じる瞬間はありますか。
川島:ムサビではいろいろな分野をひと通り経験できたので、状況に応じてアウトプットの方法を選択できるようになったのはよかったと思っています。たとえば、カードイベントでデジタルサイネージのデザインをすることになった際、映し出すものは静止画ではなく映像のほうが訴求できるのではないかと提案して、実際に制作に至ったこともあります。そういった柔軟なアプローチができる対応力が身についたのは大きかったと感じていますね。
――ちなみに社内にはムサビ出身の方はいらっしゃいますか?
川島:デザイナーのうち、4分の1くらいはムサビ出身です。また、基礎デザイン学科出身の人はデザイナーには僕しかいませんが、総合職では2、3名いると思います。同じ大学を卒業した人が同じ環境で働いているというのは心強いですね。社外の方でも、ムサビ出身者に会うことがあり、親近感を持ってコミュニケーションが取れることがうれしいです。

――学生時代にやっておけばよかったと思うことはありますか。
川島:もっと旅行しておけばよかったです。行きたい気持ちはあったのですが、コロナ禍もありかないませんでした。
東京であれば、クオリティの高い展示や広告にたくさん触れることができるので、クリエイティブなインプットという意味では事欠きません。すごくいい点ではあるのですが、そのなかだけで完結してしまっていたなと思います。やはり、いろいろな場所に行って、自分の目でいろいろなものを見たほうがいいですね。
――今後の目標を教えてください。
川島:ポケモンはどちらかといえば“カワイイ面”に着目されることが多いのですが、それだけではないカッコよさ、クールさといった新しい魅力を見せていきたいと思っています。
――ムサビへの進学を迷っている高校生へメッセージをお願いします。
川島:美大への進学を考えているなら、先ほど話した理由で東京にある学校がおすすめです。その中でもムサビはほどよくのどかで、制作に集中できる環境があるのが魅力。自分の興味があることに真正面から向き合う4年間は、その後の人生でかけがえのない経験になると思います。ぜひ、ムサビへの進学を検討してみてください。
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