<卒業生データ>
中島 純
2023年 クリエイティブイノベーション学科卒
三井不動産株式会社
DX本部
DX一部
――中島さんの業務内容を教えてください。
中島純さん(以下、中島):三井不動産株式会社のDX本部に新卒で配属されて、三井不動産グループ全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みにかかる資金面での全体計画策定を担当しています。
DXは、新しいテクノロジーを使って生活や仕事を便利で効率的にすることです。社内の決済管理や案件管理などをシステム化して業務の効率をよくしたり、商業施設やオフィスビルを利用する人の利便性を向上するサービスを提供したりと、全社でさまざまなDX施策が行われているので、それらのコストを集計し、多角的に分析し報告することがメイン業務です。
まだ入社1年目なので、目の前の仕事を先輩に教えてもらいながらこなしていく段階です。最初はわからないことばかりでしたが、自分で判断して対応できることが次第に増えてきたなと感じています。
――中島さんはクリエイティブイノベーション学科(以下、CI)の1期生なんですよね。
中島:はい。1、2年生のときは鷹の台キャンパスでさまざまな表現や技術を学びました。絵画や彫刻、映像、建築など、いろいろな分野を幅広くやって、3年次からは市ヶ谷キャンパスに移り、産学連携プログラムなどを通して、実際の社会課題に対して具体的にアプローチしていくカリキュラムでした。
――中島さんが美大を受験した理由を教えてください。
中島:美大に入りたかったというより、ムサビのCIに入りたいという気持ちが強かったです。北海道の地方都市で育ったこともあって、高校生のころから街づくりに関心がありました。街づくりのアイデアを形にするための手段を身につけたかったので、CIのカリキュラムは自分の興味や卒業後のキャリアプランにも合っていると思ったんです。
CIの入試には実技試験がなくて美術のスキルが必要ないので、どんな人でも受験できます。絵が苦手だけどデザインやビジネスについて学びたかった私には、ぴったりの学科でした。
――どんな授業が印象に残っていますか?
中島:課題制作に対して教授陣から意見をもらう講評会ですね。厳しい指摘を受けてつらく感じることも多かったのですが、講評を受けることで作品はもっとよくなります。同級生への講評からもいろいろな視点や意見があると学びました。2年生までにたくさんの造形実習と講評を経験したことが、3年生以降の実践的な授業にも活かされていると感じました。自分にとっては、CIのカリキュラム全体がとてもよかったと思っています。
――就職活動はどのように始めましたか?
中島:2年生の終わりごろからは、街づくり関連のコンサルティング会社でインターンをしていました。
3年生になって、ムサビのキャリアセンターの方にいろいろと相談していく過程で不動産デベロッパーという業界を知ったんです。当初はベンチャー企業への就職を考えていたんですが、私のやりたいことを話したら「デベロッパー業界はどうか」とすすめられて。それから3年の冬のインターンに急いで申し込みました。
――キャリアセンターはどのように利用していましたか?
中島:悩みごとの相談から、エントリーシートの添削や模擬面接まで、幅広くお世話になりました。いま他大学出身の同僚などと話すと、ムサビのキャリアセンターって実はすごく充実していたんだなって思います。学科専任のスタッフの方もいて、学生が普段どんな授業を受けているのかも把握されているからアドバイスも適切で。対面でもオンラインでも、たくさん相談させていただきました。
――三井不動産を就職先に選んだ理由を教えてください。
中島:街づくりについて構想をするだけでなく、実際に建物や街に落とし込んでいくことを仕事にしたいと考えていました。
ほかにもデベロッパー企業はありますが、なかでも三井不動産は当時から美大生向けの広報を積極的にしていました。説明会などで話を聞いて納得したのですが、街づくりはさまざまな人々が影響を受ける事業だからこそ、社員の多様性もとても重要なのだと思います。ほかの業界も含めて、総合職の面接はいくつも受けました。美大生はやっぱり珍しがられるし、関心を持っていただきやすいのですが、「なぜ美大なのに総合職志望なのか」とか、「デザインのスキルはどのくらいあるのか」といった質問が多かった印象でした。でも、三井不動産の面接では、私個人をしっかり見て判断してもらえていると感じましたね。
――美大出身ということが入社後もプラスに働いていると感じますか?
中島:そうですね。たとえば、社内向けのChatGPT環境をDX本部がリリースしたときには、アイコン画像のデザインを担当させてもらいました。他部署からもデザインの相談を持ちかけられたり、社内報で美大出身者として取り上げていただいたりもしています。ただ、私はあくまでも総合職であってデザイナーではないので、本業がおろそかにならないようにはしたいですね。
――仕事をするうえで心がけていることはなんですか?
中島:入社時の研修で言われた「一緒に働きたいと思われる人になる」ことです。仕事のスキルはもちろんですが、自分の人間性も大切にしたいと思います。
――大学で学んだことは現在の業務にも活きていると感じますか?
中島:打ち合わせの場などで、テキストだけでなく図にすることで議論を整理することがあるのですが、これにはムサビで学んだことが活かされているなと感じています。物事をビジュアルで可視化する習慣は、美大生が無意識に身につけている強みなのかもしれません。
それから、プレゼン資料をつくるときには、デザインを学んでよかったなとよく思います。DX本部の資料には専門用語なども多いので、伝わりやすい資料をつくることは特に気をつけているんです。私の教育担当をしてくれている先輩が、私のPowerPointを見ながら「自分もちょっとデザインを勉強しよう」と言ってくれたことがあって。その後先輩がつくった資料が見やすくなったんですよね。それはなんだかうれしかったです。
――今後の目標を教えてください。
中島:せっかくDX本部に配属されたので、システム関係のことにもっと詳しくなりたいです。DXの観点から街づくりに関わるようなプロジェクトにも携わっていけたらと思います。
ホテル事業部にも興味があって、もし将来的にホテル事業部に配属されたら、ホテルの家具や装飾品などを選定して空間をデザインする仕事をしてみたいですね。広報の仕事もやってみたいと思っています。ムサビで学んだことがより活かせる仕事ができたらうれしいです。
――ムサビの受験を迷っている高校生に向けて、メッセージをお願いします。
中島:美大に進学すると将来の可能性が狭くなるといったイメージがあるかもしれませんが、私は逆だと思っています。美大生はいろいろな企業から求められています。デザインを学んだから、デザインの分野でしか活躍できないというわけでない。それ以上に活躍の場がたくさんあると実感できているからです。
美大生が作品を制作するときって、すごくいろいろなことを考えていますよね。限られた時間のなかで課題に取り組んで、なぜ自分がその画材を選んだのか、どうしてこういう表現を選んだのかを論理的に説明しないといけない。作品をつくるだけじゃなくて、展示場所や照明の当て方まで考える。造形実習と講評会で培われた思考力は、どんな企業のどんな職業にも通じるものだと思います。
街づくりでいえば、その土地に建物を建てることでどんな人が集まるのか、どんなマーケットが生まれるのかを考え、どんな環境が求められるのかを分析して、具体的な建設計画を立てて遂行していくという過程があります。これって、美大生が制作をするときの思考と連動していると思うんです。
だから、美大を専門大学だと思わずに、総合的な力が身につく場所だと知ってほしいですね。美大に行ったら就職が難しくなるなんてことはありません。可能性はすごく広がっていますから。