2024年春からスタートする「武蔵野美術大学実験区」は、美大生が描く世界を実現させるために、クリエイティブとビジネスという手法でアプローチする創業支援プログラム。トークイベントでは、さまざまなバックグランドを持つゲストと一緒に創業支援プログラムの可能性について探っていきます。
2024年3月14日(木)に開催された#01のゲストは、千葉大学で学生や研究者、教員に向けてさまざまなスタートアップ支援を行っている片桐大輔さん。「美大にしかできない創業の場をつくるには?」を切り口に、幅広く意見を伺いました。

▼武蔵野美術大学実験区
https://jikkenku.musabi.ac.jp/

【ゲストプロフィール】
片桐大輔
千葉大学学術研究・イノベーション推進機構(IMO)特任教授、千葉大スタートアップ・ラボ 責任者

千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(薬学博士)。(独)日本学術振興会特別研究員として薬学研究に従事したのち、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のNEDOフェローとして研究成果の実用化、並びにベンチャー支援の実践的業務を遂行。その後、大学発バイオ系ベンチャーを起業し経営を実践。経営の傍ら大学では産学連携業務、イノベーション教育を実施。その後、官民投資ファンドにベンチャーキャピタリストとして参画し、複数の大学発スタートアップに投資。投資先社外取締役を務め企業価値向上に努める。2022年1月より現職。第12回(平成26年度)産学官連携功労者表彰 経済産業大臣賞。
https://startup-lab.chiba-u.jp/

【モデレータープロフィール】
酒井博基
武蔵野美術大学創業支援プログラムディレクター

武蔵野美術大学大学院修士課程修了。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程中退。ビジネスのシクミとシカケをデザインするクリエイティブカンパニー「d-land」代表。「六本木未来会議」「中央線高架下プロジェクト(コミュニティステーション東小金井)」「LUMINE CLASSROOM」などのプロデュースを手掛ける。
2016年グッドデザイン特別賞ベスト100及び特別賞[地域づくり]をはじめ、受賞歴多数。
書籍「ウェルビーイング的思考100 〜生きづらさを、自分流でととのえる〜」(オレンジページ)が2023年に出版。


アントレプレナーシップを育む千葉大学の取り組み

酒井博基(以下「酒井」):まずは、片桐先生が責任者を務めていらっしゃる「千葉大スタートアップ・ラボ」の取り組みについて教えてください。

片桐大輔さん(以下「片桐さん」):千葉大学は千葉県の西千葉エリアにメインキャンパスを構えています。10学部・17大学院を擁しており(令和5年度現在)、この春には11学部目のデータサイエンス学部ができます。歯学以外はすべてある大学だと思ってください。学生数は13,000人ぐらいで、教員が1,300人くらい。このなかからスタートアップを立ち上げるような学生や研究者、教員が1%でも生まれてくるといいなというのが私の理想です。

千葉大学は西千葉のほかにも複数のキャンパスを持っています。そのひとつが墨田サテライトキャンパス。ここには“試行錯誤を通じて未来の生活をデザインする実践型デザイン研究拠点”である「デザイン・リサーチ・インスティテュート(DRI)」というものが設置されており、工学部のデザインコースを中心に、都市環境システムコース、建築学コース、それから園芸学部の環境造園学プログラムの方々が中心となって活動しています。

そのようななかで、墨田区にキャンパスを持つ千葉大学として、墨田区のスタートアップ支援に取り組んでいたところ、区内のスタートアップイベントで酒井先生とお会いする機会がありまして。いろいろとお話を伺い、美術大学と一緒になにか活動することで、アントレプレナーシップ(起業家精神)の新しい側面が見えてくんじゃないかという期待感を抱きました。

ゲストの片桐大輔さん

片桐さん:千葉大にある「Innovation Management Organization」、通称「IMO」という組織は、すべての学部に対して横断的にアントレプレナーシップ教育やスタートアップ支援を展開するほか、産学連携活動、学術研究支援などを展開しています。そのなかにあるのが「千葉大スタートアップ・ラボ」。研究成果を、研究だけにとどめず社会実装していくために、2021年にできた組織です。

2023年5月の日経新聞に掲載された「大学発スタートアップの増加数」のランキングでは、千葉大は11位でした。これは各大学で年間に生まれたスタートアップの数を比較したものですが、このときの千葉大は1年間に12社。2024年はいまの時点で18社生まれています。ただ課題もたくさんあり、累計を見ていただくと、このときでたったの44社なんですね。学生は約13,000人、教員は約1,300人もいる大学ですから、もっとあってもいいなと思うんです。上位を見れば、たとえば東京大学さんは371社、筑波大学さんは217社と桁が違います。この差を埋めるべく、いま一生懸命頑張っているところです。

どんな取り組みをしているかというと、たとえば、学内ギャップファンドプログラムを実施したり、気鋭の経営者やキャピタリストと語り合う「スタートアップカフェ」を開催したり、千葉銀行さんや千葉市さんと組んでアクセラレーションプログラムをやったりしています。

本物の起業家と触れ合う機会を創出するスタートアップカフェは、学内のカフェスペースで不定期に気楽に開催している

片桐さん:そうした取り組みを通して、徐々にスタートアップが生まれてきました。たとえば株式会社MamaWellは、大学院看護学研究科の博士課程に在籍している学生が立ち上げた会社。妊娠・育児期の女性を対象に、ウェアラブルデバイスで得た活動量のデータにもとづいてパーソナル助産師が身体づくりなどのサポートを継続的に行うサービスを提供しています。これは、テクノロジーを新しい視点で活かした例と言えるでしょう。ひょっとするとテクノロジー自体は特別先進的ではないかもしれませんが、代表の関まりかさんはもともと看護師として働いていたこともあって課題意識が非常に高く、秀逸なサービスになっています。

大学院のアントレプレナーシップ教育講義では、前期に座学の「スタートアップ概論」、後期にワークショップ形式の「スタートアップトレーニング」を行います。千葉大学は後期入学の学生もいますので、後期で座学をやった場合は翌年の前期にトレーニングが受けられるようにしています。

2023年度のスタートアップ概論の初回テーマは「なぜ今イノベーションか、なぜ今、大学発スタートアップか」。「ゲスト講師を迎え、ディスカッションスタイルで進行しました」と片桐さん

片桐さん:また、2023年に学生向けスタートアップ支援事業を新たにスタートしました。これは、起業に関心のある千葉大生に他大学・他エリアで行われるビジネスコンペなどのアクセラプログラムに参加してもらおうというものです。北は北海道、南は沖縄まで、合計20名弱の学生を連れて行きました。北海道の中標津町では、地域の課題を解決するようなトレーニングを行い、沖縄ではスタートアップ商店街というものに参画させていただき、学生と一緒にワークショップをやったりしました。千葉大生は西千葉や東京エリアからあまり出ない人が多いので、外に連れ出すことによって刺激を受けてほしいという想いもあって生まれた支援事業です。

まとめると、我々は「知識として知る」「理解して体験する」「一歩踏み出すを支援する」の3段階をコンセプトに今年度は1年間活動してきました。はじめにきちんとインプットをするプログラムを用意し、理解して体験する場を増やすために学生向けスタートアップ支援をつくった。いまは最後の「一歩踏み出すを支援する」ために、具体的なスタートアップ創出の支援に本格的に取り組んでいるところです。

MamaWellのようなテクノロジースタートアップは今後も求められると思いますが、スタートアップの商売を加速させるために、アート的思考やアート的表現、アートの素養や教養を持った人が、デザイン以外にもどういう形で参加したいと思うのかということを、今日は一緒に考えたいです。イノベーションというものは、一見関係ないと思われるもの同士の交流から始まります。まさにムサビさんと千葉大学のあいだにもなにかが生まれるかもしれません。

批評にさらされることでレジリエンスが鍛えられていく

酒井:片桐先生がスタートアップ支援のなかで特に大切にされていることはありますか?

モデレーターの酒井博基

片桐さん:ふたつの考え方があり、ひとつは大学セクターのなかでの支援という点で大事にしているところは、「商売はしたくない、研究を続けたい」という人に起業をあおるようなことは絶対しないようにしています。というのも、特に国立大学の先生方は一線級の研究をされているので、そういう方々には研究・教育で社会にインパクトを残してほしいんです。それを研究・教育でインパクトを残してほしいとすると、先生が持っている“種”を一緒になって商売してくれるアントレプレナーをちゃんと見つけてきてあげるとか、そういうところを丁寧にしてあげたいなと思います。大学ランキングなんかがあると数字を求めがちになってしまいますが、あおるようなことはしないというのが、私が大学セクターにいて大事にしているところですね。

一方、実際にスタートアップが立ち上がってきて、彼らが大学にサポートを求めてきたときに大事にしているのは、ゼロ回答はしないことです。「もう立ち上がってるし、大学とは関係ないでしょ」ではなくて、「大学と一緒になにかできるんじゃないか、なにができるんだろう」とまず考えることを大事にしています。

酒井:今日の「美大にしかできない創業の場をつくるには?」というテーマについて、率直にどう感じましたか?

片桐さん:いま何度目かのスタートアップブームが到来していますが、ビジネスコンテストになると、どうしてもアイデアを資料にまとめることに優れている人や、プレゼンがうまい人が評価されがちです。でも、実際にはものは出てきていないし、商売もしてないわけですよね。一方で美大生は、必ずアウトプットを表現できるんですよね。普段から、作品としてアウトプットをして、批評にさらされてフィードバックを受けることに慣れている。それをデザイン思考に置き換えて言うと、顧客の価値=カスタマーバリューを起点にサービスやプロダクトをつくり、フィードバックを受けてPDCAサイクルを回すことができるということです。アウトプットができて批評にさらされることに慣れていることはすごい強みで、期待したいところですね。

酒井:そのあたりはまさに美大生の強みかなと。前回のトークでも話したのですが、美大の授業の特徴として講評会というものがあります。自分が表現したものが批評の目にさらされ、そこに絶対的な答えはなく、なんならA教授とB教授に相反するようなことを言われる。そういうことが日常的に行われることでレジリエンス(乗り越える力)が鍛えられていき、なおかつ「表現しなければ批評にもさらされないから、常に具体化しないといけない」という感覚が育つのだろうと思っています。

片桐さん:先ほど申し上げた千葉大の墨田キャンパスにあるDRIのデザイン系4コースの卒業制作展も、展示に至るまでには先生たちからの批評に相当さらされていますね。それから、医学部や私が卒業した薬学部でも、国際学術誌に論文を投稿したり、国際学会に出てくような人たちは、グローバルに批評にさらされます。だから理系教育のなかでもアントレプレナーシップ教育の要素は絶対にあるんです。美術教育は、それがさらに尖っているというイメージです。

酒井:批評にさらされ、傷つきながら、でもそれを乗り越えていこうとする。それがまさにアントレプレナーシップなのかもしれないですね。

片桐さん:おっしゃる通りです。私自身、起業して10年ほど会社を経営していたことがありますが、やっぱり商売って難しいんですよね。批評にさらされるどころの話じゃないぐらい、精神的にも追い詰められます。ですから、そういうときにレジリエンスを発揮し、課題を正面から受け止めてフィードバックしていける強さを持った人を育てないといけない。できるできるとあおって、いざ起業したらあとは知らないなんて無責任だと思うので、そこはしっかり支援してあげたいなと思いますね。

クラフトマンシップとクリエイターシップ

酒井:武蔵野美術大学実験区のコンセプトを考えようとしたとき、以前聞いた片桐先生のお話から着想したのが、「クリエイターシップ」という考え方でした。クラフトマンシップに起源を持つものづくりから、産業革命を経て大量生産ができるようになり、現在はアントレプレナーシップを持つ人たちが可能性を広げていくなかで、またクラフトマンシップとアントレプレナーシップを行ったり来たりするような新しい概念が必要だと思ったんです。それを我々は、クリエイターシップと呼びたい。表現して批評にさらされ、でもビジネスが目的化されないように、描いたビジョンを世に問うていくようなことを、クリエイター層にしっくりくるような言い方はないかと探ったコンセプトなのですが、いかがでしょうか。

片桐さん:すごく素敵な言葉ですよね。クリエイターシップやクラフトマンシップの話を聞いてちょっと思い出したのが、18世紀にイギリスで蒸気機関を発明したジェームズ・ワットです。彼は20歳の時点では数学器具職人だったんですが、蒸気機関を発明するまでになにがあったのかを見ていくと、キーになったのは経済学者、哲学者であるアダム・スミス博士の存在です。ジェームズ・ワットは数学器具工房を開きたかったけれど、お金や制度などの面で難しかった。アダム・スミス博士はそんな彼をグラスゴー大学の技手として雇い入れると、工房を開いていいよと場所を提供したんです。いまでいう、大学併設インキュベーターでしょうか。さて、そこまではクラフトマンシップの成功例ですが、その後すごかったのが、アダム・スミス博士がジェームズ・ワットにグラスゴー大学の聴講権を与えたこと。彼はここで生まれて初めて数学と物理と機械設計の基礎を体系的に学び、これが後の蒸気機関の原理の発明につながるんです。

今回のプログラムにおいても、美大生にはクラフトマンシップというキーワードはしっかり押さえておき、あとは理工系の素養を他大学の学生との交流のなかで自然と培えるような機会を用意してあげると、パンと跳ねて次の産業を生むようなテクノロジーベンチャーが生まれる可能性もあるのではないでしょうか。大学間の連携だけではなく、学生の“学ぶ壁”を取り払ってあげるような仕組みが必要だと思います。

昔のように、20代までは教育を受け、60歳まで労働し、あとはハッピーリタイアメントみたいな時代はもうないわけですから、生涯学び続けたり、学び直すことが必要になります。そんななかで大学が、働きながらでも気楽にアクセスできるような場所になってほしいですね。さらに、クラフトマンシップの基本的な原理を学べるような場所にできたら、スタートアップ支援の基盤になるのではないでしょうか。ビジネスマンが経営管理学を学べるビジネススクールはすでにありますが、理工系の学問を通してクラフトマンシップを育てたり、アントレプレナーシップを学ぶような場があってもいいのかなと思います。

酒井:そこにクリエイターシップのような考え方をミックスできると、もっと世界が広がるような気がしますね。我々もクラフトマンシップから発展していくようなことがこのプログラムでできるんじゃないかと考えています。ただ、千葉大学には研究を通じて培ってきたビジネスの種があるというお話でしたが、美術大学にはあまりないかもしれません。そもそも、上の世代のクリエイティブを乗り越えていく、1学年上の先輩がやっていることさえ更新していくような精神が強いので、引き継いでいくということが苦手な側面があります。わかりやすいシーズが学内に少ないなかで、武蔵野美術大学実験区では、他大学や企業との連携するところに勝ち筋を見出していきたいなと。もちろん美大単体での可能性もあるのですが、広く連携の方向性を探っていきたいと考えています。

片桐さん:テクノロジーだけで考えてしまうと、たしかに美大にはシーズが生まれにくいかもしれませんが、商売に対する考え方やサービスを新しく生み出すということに関しては、シーズがあるかもしれないと僕は思っています。ただ、その一方で美大単独では学生の絶対数は少ない。そういった視点でテクノロジーを研究しているような大学とどう連携するかを考えると、学生さんをがちゃっと混ぜて、ひとつのプロジェクトをやると効果的なのではないかと思います。

具体的には、Greater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE:ジータイ)という東京エリアの大学のコンソーシアムがあって千葉大学も入っているのですが、ときどき東京工業大学さんが中心となってワークショップをやるんですね。そこに参加していた千葉大の医学部の学生に、「僕のチームにはテクノロジー系や医療系のメンバーはいるけれど、デザイナーもほしい」と言われたことがあって。理由を聞いたら、単にデザイン要員がほしいという話ではありませんでした。

彼が取り組んでいるのは、これまであまり認知されていなかった病気をいかに知ってもらい、その患者たちが社会に溶け込めるかという課題を、サービスで解決したいというテーマでした。そのサービスを考えるうえで、普段スマートフォンゲームのモックをつくっているような他大学の工学部の学生とすでに組んでいたのですが、「これって楽しいのかな」「なにが感情を揺さぶるのか」、そういうところをもっと知りたくてデザインの素養がある人を求めていたんです。単にプロダクトの「デザイン」ではなく。いろいろな分野の学生さんを混ぜてプロジェクトをやると、そういう気づきがたくさん生まれると思うんですよね。さっきご紹介したMamaWellの関さんも、最終的にサービスデザインを仕上げるときにはデザイナーの方にプロボノ(専門家が知識やスキルを活かして社会貢献するボランティア活動)で入ってもらってると聞きましたが、そこを学生のうちに教育プログラムとしてやることで大きく可能性が広がるはずです。

武蔵野美術大学実験区に最も期待するのは偶発性

酒井:ビジネスをつくるにあたっては、まだ存在しない製品やサービスを世の中に問うことになるので、そういうものが世の中に必要だよね、社会に広がっていけばいいよねと共感から入ってもらうということがより重要だと思います。まさに片桐さんがおっしゃった“感情を揺さぶる”という。そういう、ビジョンのデザインみたいなところは、チームを組んだときに、美大生は抽象的なことを語るのではなく、具体にしていく役割を持つはずです。その具体になったものをチームのみんなでさらに粘土のようにこねていき、そしてまた実装のところでも美大生が役に立てるというのが、ひとつの勝ち筋なのではないかと考えています。

片桐さん:エンジニアとは絶対喧嘩すると思いますけど(笑)、むしろいいですよね。やっぱり、もめないものはいいものにはならないと思います。エンジニアはいいものは絶対売れると思ってるから、要求仕様を高くしてもっといいものつくろうとするんです。でもそれってお客さんはよろこぶんだっけ?みたいなことを、一緒になって考えていかなきゃいけないんですよね。

いわゆる狭義のデザインであるプロダクトデザインについても少し補足しますと、もちろん期待は大きいです。テクノロジー系のスタートアップでも最後のプロダクトデザインのところは本当にばかにならなくて。具体的にいうと、医療機器なんかは臨床研究に入る前に規定に準拠したプロダクトをつくり申請を行います。ということは、その時点で最終的なプロダクトのデザインがすでに決まってるわけですよ。機器開発のスケジュールに乗せながら、そこにプロダクトのデザインをフィットさせていき、品質管理の基準を満たしていくのは素人だけではできないので、医療機器開発をしたことがあるデザイナーがチームにいることが重要になります。ですから、デザインができる人にどのタイミングでチームに入ってもらうかなどを、今回のプログラムで実際にシミュレーションしてみるというのも、すごく意味のあることなんじゃないかと思います。

それから、最も期待できるのは、やっぱり偶発性ですよね。武蔵野美術大学実験区はエントリーの段階では美大生が入ってなくていいというところがすごくよくて。そのあと先生方がマッチングさせる、しかも手取り足取りというわけではなくて、テスト感覚で合わせてみると意外にマッチするかもしれません。考えてみれば、こういうプログラムっていままでなかったかもしれないですね。ビジネススクールとテックの人がマッチングするというのは聞いたことがありますが、アート的思考を持った人とテクノロジーの人という組み合わせは初めてです。

酒井:おっしゃる通り、チームのなかに美大生をマッチングしていくのが僕らのおもしろい役割だなと思っています。美大のなかで他大学の学生さんにプレゼンしてもらって、「手伝いたい」「このチームに入りたい」という反応のほかに、「ここが惜しい」みたいなパターンもあると思います。そんなふうに、学生が学生に問うような場になったらいいですね。

片桐さん:そうですよね。あとは、必要以上にけしかけて結果的に立ち上げたスタートアップが潰れてしまうなんていうことは避けたいので、ケーススタディやトライアルを通して、安全なところで転がしてあげたいという想いがあります。実際に商売を始めるとそんな甘いことは言っていられませんが、そうは言っても、いきなり裸のまま草原に出すみたいなことはしたくない。ドラクエで言うと、布の服ぐらいは着せてから出させてあげたいなと思っています。ちょっと最後は冗談のような例で失礼しました。