武蔵野美術大学実験区「MAU SOCIAL IMPACT AWARD 2025」で特別賞(NTTアーバンソリューションズ賞)を受賞し、アクセラレーションプログラムに進んだチームにインタビュー。お話を聞いたのは、「まち育子どもアトリエプロジェクト 〜子どもを育てることを、まちの仕事に〜」を提案したチームの代表者・石井美羽さんと多谷咲希さんです。子どもの居場所づくりという原体験から始まったプロジェクトが、地域に実際に飛び込んで形になっていくまでの過程、アクセラレーションプログラムを経験したことで得た気づきなどについて聞きました。
・チームメンバー
代表者:石井美羽(武蔵野美術大学 芸術文化学科3年)
代表者:多谷咲希(武蔵野美術大学 芸術文化学科3年)
・マネージャー
三島賢志(フリーランスプランナー、フォトグラファー)
・メンター
酒井博基(武蔵野美術大学実験区 プロデューサー、d-land 代表)
▼武蔵野美術大学実験区
https://jikkenku.musabi.ac.jp/
原体験は“子どもは居場所を自由に選べない”ことへの違和感
――まず、「まち育子どもアトリエプロジェクト」という事業の概要を教えてください。
石井美羽さん(以下「石井さん」):居場所に悩みを抱える国分寺市の子どもたちと、コミュニケーションデザインに関心を持つムサビ生を、ものづくりを通してマッチングし学びの場をつくるプロジェクトです。
将来的に、ムサビ生にとっては学業と両立できる新しいアルバイトの形に、子どもたちにとっては自分で選べる居場所に、地域にとっては子どもたちをみんなで一緒に育てていく仕組みにしたいと考えています。
――このプロジェクトに取り組もうと思った経緯を聞かせてください。
多谷咲希さん(以下「多谷さん」):実験区に参加するにあたって、自分たちの幼いころの経験を振り返りました。そこで、子どもたちが家庭や学校、習い事や塾など、限られたコミュニティでしか生きていけないということに違和感を持ったんです。それがプロジェクトの出発点でした。
大人だったら、自分が行きたい環境に自由に飛び込んで、そこが気に入らなければ別の居場所に乗り換えることができます。でも子どもは選択肢が限られていて、自由に選べない。だからこそ既存のコミュニティを少しでも居心地よくしようと考えて、2025年8月のビジネスデザインアワード「MAU SOCIAL IMPACT AWARD 2025」では、「コミュニティが居心地よくなるようサポートするアイテム」としてカードゲームを制作しました。
石井さん:このカードゲームは、「冷たい」「もちもち」「甘い」といった単語カードを持ち札にして、「ケーキ」などのお題に対して、想像上の食べ物をつくってもらうものです。勝ち負けがなく、お互いのアイデアを褒め合ったり、そこから会話が発展したりするきっかけを生むことを目的としました。お互いが関わり合えば関わり合うほど、ゲームがおもしろくなるような仕組みをつくりたかったんです。

カードゲームから地域での実践へ
――アクセラレーションプログラムに進んで、プロジェクトはどう変化しましたか。
石井さん:これを事業・ビジネスとしてどう回していくのかという議論になったとき、最初は「カードゲームを量産することでビジネスになるんじゃないか」という話も出ました。でも、私たちが本当にやりたかったのはカードゲーム屋さんになることではなく、子どもたちの居場所をつくることや、美大生をマッチングする仕組みをつくることだったんです。ビジネス化する時に、初めてそこがはっきりしました。
――アクセラレーションプログラムで、実際にどんな活動をしたのですか。
石井さん:ふたつの施設・団体にお力を借りて、ワークショップ形式のイベントを4回実施しました。国分寺市にあるもとまち児童館さんと、第四小学校放課後子どもプランさんです。
活動フィールドに国分寺市を選んだのは、子どもの居場所づくりに力を入れている市であることと、ムサビから近くて活動しやすいこと。加えて、メンバーの多谷さんが住んでいる街で、ムサビ生が認知されやすく、信頼関係を築きやすいと思いました。
多谷さん:これらのイベントは、ものづくりをベースにしています。第1回目はオリジナルクレヨンづくりを実施して、つくったクレヨンに「今日の空の色」といった名前をつけたり、大きな紙にみんなで絵を描いたりしました。2回目はシャカシャカと音が鳴るメッセージカードづくり、3回目はテントづくり、4回目は第四小学校でランタン制作を行いました。


――地域に入って活動してみて、どんなことに気づきましたか。
石井さん:子どもたちに「普段はなにをして遊んでるの?」と聞いたら、スケジュールが塾や習い事でパンパンで、友だちと遊べる時間がほとんどないと話してくれたんです。こういうイベントが、子どもたち同士の貴重な交流の機会になっているんだなと感じました。
また、放課後子どもプランさんは保護者の方がメインで動いているのですが、自分の子どもが小学校を卒業すると同時にスタッフを辞めてしまう人が多いそうなんです。継続的に活動してくれるスタッフがいないという課題に対して、ムサビ生が継続的に関われる存在になったらいいなと考えました。
――今回の活動には、ほかのムサビ生にも参加してもらったんですか?
石井さん:はい。基本的に1回のイベントに対して3人くらい手伝いに来てもらっていたほか、メッセージカードづくりは企画からほかのムサビ生に担当してもらいました。それまで先生やムサビ側が関わったプロジェクトに参加したことはあったのですが、今回は企画もコンセプトも目的も自分たちで一から考えたんです。それもあって、イベント当日に子どもたちが楽しんでいる様子をじかに感じられたとき、すごく達成感があってうれしかったです。
多谷さん:冒頭でお話しした通り、将来的にはムサビ生のアルバイトの場にもしたいと思っています。私たちのまわりのムサビ生には飲食店などでアルバイトをしている人が多くて、アートやものづくりに関わる仕事をしている人はあまりいません。企画を立ててもらったら〇〇〇円、当日サポートに来てくれたら〇〇〇円という形にして、ムサビ生が自分の得意なことを活かしながら、学びの場にもなるような仕組みにしていきたいですね。

地域の子どもの居場所づくりに学生が関わる社会をつくりたい
――実験区のプログラムに参加したことは、おふたりにとってどんな意味があったと感じますか。
多谷さん:プロジェクトをゼロから立ち上げて、いろんな人に協力いただいてつくりあげたという経験が、なによりも糧になりました。国分寺市の方や企業の方など、多くの大人と関わりながら形にしていくことの難しさもありましたが、それと同時にやりがいも大きかったです。
石井さん:エントリーしたときは、もともと友人だった多谷さんと「楽しそうだからやってみようか」といった感じで、本当にただの好奇心から始めました。でもワークショップで自分たちの思考を深掘りしていくなかで、子どもの居場所というテーマが見え、お互いにこのテーマに納得して進められました。
多谷さん:お互いに得意なことが少し違うので、凸凹がうまくはまっている感じです。でも、好奇心の的やモチベーションの強さは一緒なんですよね。好奇心に従って動き、その好奇心が向かった対象に対して深く考えられるところが、私たちの強みなのかなと思っています。今回のプログラムを通して、その点にも気づくことができました。

――今後の展望について教えてください。
多谷さん:目標を大きく5つ立てています。ひとつ目がクラウドファンディングの実施。材料費や人件費を補うためでもありますが、クラウドファンディングを通じて国分寺市の市民のみなさんが応援することで、自分ごととして“地域で子どもを育てる”ことにつながると考えています。
現状、1回のワークショップに約5万円の予算を見込んでいます。クラウドファンディングでたとえば50万円集まれば、年間10回のワークショップが開催できる計算です。地域のみなさんからの支援が増えるほど、子どもたちと関われる機会も増やしていけるはずです。
2つ目がムサビ生のスタッフの継続募集、3つ目が定期的なワークショップの開催です。
石井さん:4つ目が自分たち主催でのイベント開催です。いままでは紹介していただき場所を確保していましたが、次のステップとして自分たちで場所を探し、宣伝告知から子どもたちを集めるところまでやってみたいです。5つ目が国分寺市以外での活動展開。もっといろんな地域でも活動できたらいいなと思っています。
――この事業を通じて、世の中がどのように変化すればいいなと思っていますか。
石井さん:子どもが地域のなかで安心して過ごせる居場所が増えてほしいですね。子どもたちには安心できる居場所が増えて、地域では活動を支える人が増える。学生にとっては自分が大学で学んでいることを社会で活かせる機会になる。子どもと地域と学生がお互いに支え合って、循環が生まれるような社会を目指していきたいです。
