武蔵野美術大学実験区「MAU SOCIAL IMPACT AWARD 2025」で準グランプリを受賞し、アクセラレーションプログラムに進んだチームにインタビュー。お話を聞いたのは、「Metalogue 〜“本当の自分”をメタに捉える、自然の中での対話体験〜」を提案した中山美咲さんです。「自分のためのメモ」という原体験から始まったアイデアが、自然の中での対話体験という独自のサービスへと進化していくまでの過程や、社会実装に向けての葛藤、プログラムを通じて得た気づきなどについて聞きました。

・チームメンバー
代表者:中山美咲(武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科3年)

・マネージャー兼メンター
酒井博基(武蔵野美術大学実験区 プロデューサー、d-land 代表)

▼武蔵野美術大学実験区
https://jikkenku.musabi.ac.jp/


「思考資産」を形成し、自分が自分の良き相談相手になるアプリ

――まずは「Metalogue」という事業アイデアの概要を教えてください。

中山美咲さん(以下「中山さん」):私のアイデアは、自分の本当の気持ちや考え、価値観を捉えるための自己探求サービスです。自然の中で1対1の対話を行い、その音声を記録してAIで分析。日常に戻ってからも、アプリを通して自分の価値観や欲求に基づいた意見が示されるようになるという仕組みです。情報にあふれすぎてしまっている時代でも、自分がした決断に納得できるようになります。

――「Metalogue(メタログ)」というネーミングにはどんな思いが込められているのでしょうか。

中山さん:「メタ」と「ログ」のふたつの言葉を組み合わせています。「メタ」は、自分自身を客観的、つまりメタに捉えられるようになるという意味です。「ログ」は記録を意味しています。自然の中での対話を通して自分の考えや思考の記録がどんどん溜まっていく。これを私は「思考資産」と呼んでいます。資産形成のように、自然の中で対話のログを重ねて思考の資産を形成していくというコンセプトです。

――この事業アイデアに取り組もうと思った動機はなんだったのでしょうか。

中山さん:高校生くらいのころから、感じたことや疑問に思ったこと、心に残ったことなどを、スマートフォンのメモに文章で記録する習慣がありました。そして、そのメモをよく見返していたんです。自分の思考の記録を見返すことで、決断への後悔がなくなったり、自分の気持ちに自信が持てるようになったりと、たくさんの良い変化がありました。

私自身が感じたそんな「メモを見返すことで得られる良い体験」を、他の人にもしてもらいたいと思ったのが出発点です。ただ、文章を書くのが苦手だったり、継続するのが難しかったりする人もいますよね。そこで「対話」という形にすれば、メモをとらなくても同じような体験ができるのではないかと考え、いまの形に行き着きました。

――最近ではChatGPTのような生成AIに慣れている人も多いと思いますが、そういった既存の生成AIとMetalogueの違いはどこにあるのでしょうか。

中山さん:Metalogueの最大の特徴は、体験者がリアルな人間である私と1対1で対話した音声データをソースとして入力することです。そのデータを分析することで、「自分の思考パターンをもとにしたオリジナルAI」のようなものができあがる。悩みごとを質問すると、文章で返事をしてくれます。

ChatGPTは一般的かつ平均的な回答を返しますが、Metalogueは自分自身と対話できる。つまり、自分のことをメタに捉えることができるのです。

――自分自身を顧みて、自分と対話できるというところがポイントなんですね。

中山さん:はい。対話を重ねる工程は、AIが学習するための「教材」を自分でつくっていく取り組みとも言えます。機械が自分のことを深く理解するための資料づくりですね。

自分のことって、自分ではなかなか理解できないものです。かといって、テクニックに頼りすぎると本当の自己開示ができなくなってしまうというジレンマもある。私自身がメモを書き続けてきた経験を通してそのことに気づき、Metalogueのアイデアにつながりました。対話記録を積み重ねることによって、自分が自分の良き理解者になるというメタな構造になっています。思考資産を積み上げるプロセス自体が、自己理解にもつながっていくんです。

「違和感」と純粋な好奇心から始まった実験区での1年

――中山さんは約1年にわたって実験区の取り組みに参加してきましたが、最初はどのような気持ちで応募したのですか?

中山さん:エントリーしたときは「なんだかおもしろそうだから、申し込んでみよう」という軽い気持ちでしたね。単に起業がしてみたいという純粋な好奇心もありました。

でもワークショップに参加して、自分の些細な経験や気持ち、自分の中にあった違和感がなにかのアイデアにつながるという感覚を初めてつかむことができました。私はもともと、自分のために書くような文章を、わざわざSNSを使って人に見せることに違和感を持っていて。「自分のためだけに発信する文章があってもいいんじゃないか」と思っていたんです。

――そこからどのようにアイデアが深まっていったのでしょうか。

中山さん:ワークショップを通して自分の深いところの話をして、そこからいろいろなキャッチボールを重ねる中で、アイデアがどんどん深まっていく感覚がありました。その中で、「いままで自分が当たり前に続けてきたメモの習慣って、もしかしたらすごいことに活かせるのかもしれない」と思えるようになったんです。

――アイデアがビジネスへと形を変えていく中で、「自然の中での対話」というコンセプトに行き着いたのは大きなブレイクスルーだったと思います。どうやってそのヒントを得たのでしょうか。

中山さん:2025年8月にビジネスデザインアワード「MAU SOCIAL IMPACT AWARD 2025」のプレゼンが終わったあと、地方滞在型の授業で1カ月間、北海道に滞在する機会がありました。その滞在中も、並行してMetalogueのアイデアを練っていました。

現地で会う人はみんな初対面で、一緒に参加した学生ともそれまでほとんど話したことがありませんでした。にもかかわらず、自然と自分の深い話ができたんです。「どうしてこんなに自然な自己開示ができるんだろう」と考えたときに、環境が東京とはまったく違うことに気づきました。

――環境の違いが、自己開示に影響を与えたことに気づいたんですね。

中山さん:はい。聞こえる音も違いますし、景色も広大で。東京にいるとどうしてもせかせかして「急がなきゃ」という気持ちになってしまいますが、北海道の大自然の中では落ち着いて話せる感覚がありました。そういった自然の中であれば、初めて会う人でも自己開示がしやすく、自分の話をしやすいのかもしれないと思ったんです。それが、「自然の中で対話する」という手法に行き着く大きなヒントになりました。

当時、まさにAIに学習してもらうための素材づくりをどうするかについて悩んでいました。でも、常に思考のアンテナを張っていたからこそ、まったく関係ない北海道での経験がMetalogueのブレイクスルーになったのだと思います。

――大学の授業と今回の実験区の取り組みとでは、どのような違いを感じましたか?

中山さん:リアルさが全然違うと思いました。授業でアイデアを考えているときはあまり現実味がなくて、どこかアート作品をつくっているような感覚もありました。

でも今回は、社会実装していくためのアイデア以外の部分もたくさん考えなければいけませんでした。Metalogueについて考えている時間も圧倒的に長かったです。授業だと決められた期間が終われば頭からも離れてしまいますが、今回はずっと向き合い続けていました。

2026年3⽉10⽇(火)に開催された「武蔵野美術大学実験区 DEMO DAY 2025」での発表の様子

「起業したい」という気持ちだけで進んでいいと思えた

――アイデアを社会実装するにあたって、クラウドファンディングの実施など、自分の内側にあったものを社会に向けて発信していくプロセスがありました。そういった場面での戸惑いや葛藤、自分のアイデアを外に出すことへの怖さはありましたか?

中山さん:戸惑いが一番大きかったのは、クラウドファンディングに挑戦したときです(目標金額を達成し現在は終了)。それまで自分の頭の中だけで考えていたものを、社会に向けて発信するにあたっては大きな覚悟が必要でした。知り合いにも支援を呼びかける中で、「お金をいただいて事業を実行していくんだ」という責任も感じました。

――その戸惑いをどのように乗り越えていったのでしょうか。

中山さん:言葉にして人に伝える経験を通して、ある程度自分の覚悟が決まっていった感覚がありました。それに加えて、プロジェクトのページを読んだたくさんの方が応援メッセージをくれたんです。それを読むたびに「よし、頑張ろう」という気持ちになれました。

――約1年間プログラムに参加してきて、特に印象に残っている出来事はありますか?

中山さん:一番印象に残っているのは、成果発表会である「武蔵野美術大学実験区 DEMO DAY 2025」の直前に行った、マネージャー兼メンターの酒井博基さんとのミーティングです。当時、私は「なにをやればいいかもわからないし、やったことがないから怖い」とすごく悩んでいて、「いや、でもこれが……」「でも……」とずっと言っていました。

でも、ミーティングの最後のほうにポロッと「起業がしたいっていう気持ちはもともとあったので」とこぼしたら、酒井さんが「それが十分な理由だよ」と言ってくださって。その言葉を聞いて「確固たる理由がなくても、起業がしたいという気持ちだけで突き進んでいいんだ」と思えたんです。実験区が個人の物語や想いを大切にしているからこそ、私自身も素直な気持ちをさらけ出すことができましたし、そこから一気に視界が開けて突き進もうと覚悟が決まりました。

――DEMO DAYは企業の方々との出会いの場にもなり、伊豆大島などの自然豊かな場所でやってみないか、といった具体的なお声がけもありましたよね。

中山さん:はい、すごくうれしかったです。大学の中だとどうしても身内の目線になってしまいますが、企業の方はよりフラットな目線で私のアイデアを聞いてくださったように感じます。自分では思いつかないような視点からのお話もたくさん聞くことができました。自然の中での実証実験という点でも、新しい展開が生まれそうで非常に楽しみです。

――最後に、今後の展望や目指す社会について教えてください。

中山さん:まずはクラウドファンディングを無事に終わらせることです。そのあとは、対話の実証実験を進めていき、メソッドを確立していきたいと考えています。同時に、予約システムなど現実的な部分も検討していく予定です。

私が目指しているのは、このサービスを使ってくださった方が、私の原体験と同じように、自分の決断を自分自身で下せるようになり、決断したあとも後悔がなく前向きになれるような社会。誰もが「自分が自分の良き相談相手になれる」、そんな世界をつくっていきたいです。