2023年9月、鷹の台キャンパス9号舘1階(ゼロスペース奥)にあるキャリアセンターが、より多くの学生が利用しやすいようリニューアルされました。そもそもキャリアセンターとはどういう場所なのか、リニューアルしてなにが変わったのか、そして職員たちの想いについて、キャリアチームのリーダーである須藤周子さんに聞きました。
——今回、どのような課題意識のもとにリニューアルされることになったのでしょうか。
須藤周子さん(以下、須藤):まずキャリアセンターは、出入りしたことのない学生にとっては、「近寄りがたい」「怖そう」などのイメージを持たれてしまうという課題がありました。要するに入りにくいということです。また、コロナ禍の影響で学生が大学にあまり来られなくなった時期を経て、進路や就職に関する情報の手に入れ方も一気に多様化しました。そこであらためて、キャリアセンターというリアルな場所があることの意義を捉え直し、学生に還元していけるようにリニューアルすることになりました。
——リニューアルのいちばんのポイントを教えてください。
須藤:キャリアセンター内のレイアウトを変えたのですが、いちばん大きなポイントは、学生が自由に利用できるスペースに対して職員の視線を遮った点です。これまでは、センターに入るとまず職員と目が合ってしまったり、声をかけられそうで入りにくかったりという印象がありました。職員はもちろん学生の力になりたいのですが、まずは自分で好きなように情報を探したいという人もいると思います。なによりも学生が立ち寄りやすい場所にすることが大きな目的でした。
職員のデスクも移動し、学生の利用スペースに対して斜めに配置しています。職員にとっても、学生の出入りに気づくことはできるけれど視線は逃しやすい環境になり、仕事がしやすくなったという声が上がっています。
——キャリアセンターに来た学生には、どのようなタイミングで声をかけているのでしょうか。
須藤:学生にとっては、「基本的には放っておいてもらえるけれど、困ったときには気軽に相談できるような環境」がいいのだと思います。以前は学生が入ってくるとすぐに声をかけにいっていましたが、いまはお互いにあまり気にならないようなレイアウトになり、声をかけるタイミングはすごく難しいところです。実際に声かけをするというやり方以外にもいろいろなアプローチができると思うので、インフォメーションの仕方はこれから充実させていきたいです。
——レイアウトを変更して、利用する学生に変化はありましたか?
須藤:はい。リニューアル以降、自由に入ってくつろいでいく学生がいたり、窓際のひとり用スペースで就活ではない作業をしている学生もいたりします。そうやって各々の用事で訪れ、自由に出入りできる場所として使う学生が増えてくれればと期待しています。
ただ一方でキャリアセンターは、卒業後の進路には就職だけでなくいろいろな可能性があることを身近に捉え、考えるきっかけになる場所でありたいのですが、いまはまだそのためのコンテンツが成熟していないということも、課題として感じています。リニューアルして立ち寄ってくれるようになった学生に対し、もう少し厚みのあるサービスや情報提供が必要ではないかと思っています。
——目的が明確な学生と、まだ具体的な目標は持っていないけれど進路について考え始めたいという学生、そのどちらにも意義のあるキャリアセンターにするというのは、なかなかバランスが難しいところではないでしょうか。
須藤:そうですね。たしかに、コンテンツを増やしていくと必要な情報が伝わりにくくなる面もあると思います。たとえば情報発信では、リニューアル前はチラシやポスターのほか、大学からのメール、キャリアセンターからのメールなど、ありとあらゆる手段で情報を発信していました。情報があふれていて、どこに必要な情報があるのかがわかりにくい状態だったと思います。そうした発信についても、このリニューアルに合わせて情報を一元化し、まずは「ムサビ進路ナビ」ですべての情報を掴めるように整理していきます。
——キャリアセンターは学生にとってどんな場所になることを目指していますか?
須藤:キャリアセンターが目指すのは、学生に「気づいてもらう」場所であることです。たとえば学生が就活に成功した場合、それは私たちの支援の力で内定をもらったわけではなく、あくまでも学生自身が持っている力を存分に発揮した結果です。ムサビ生には、学生自身が持っている魅力や力がすごくあるのですが、大学という小さな世界のなかで周りを見て自己肯定感が下がってしまう学生もいます。キャリアセンターを訪れた学生に、ムサビ生には本当に優れた力があり、社会から求められているということを再認識してもらえるようなサポートができたらと思います。
社会が成熟して技術が発達し、美大生に求められることも、純粋にものをつくるところから課題解決などにシフトしてきています。ムサビ生たちはまさに物事の本質を捉えて解決していくということを学んでいるはずなので、活躍のフィールドは増えている。どの学科の学生も、進路の可能性がすごく幅広くなっているはずです。学生自身がそういった可能性に気づくことができるような働きかけを、キャリアセンターは全力でしていきたいと思っています。
——自分の可能性をいろんな視点から一緒に見つけてくれる場、自分への理解が深まる場、と考えると、キャリアセンターを利用するのは1、2年生でも決して早すぎるということはないですよね。
須藤:もちろん早すぎることはありません。進路指導の場ではなく、自分のことに気づける場として、迷ったときにはなにかのヒントやきっかけになればうれしいです。いまの学生はキャリア教育が浸透している世代ですが、ムサビに入った時点でキャリアの方向性がかなり絞られたと考えているかもしれません。そのぶん、入学すると一旦進路について考えることをストップしてしまいがちですが、継続して自分の進路について考えていくと、その先によりよいキャリアが開けると思います。
ただし、それは進路を早く決めないといけないということではありません。いろいろな可能性に気づいてほしいということです。1、2年生で課外活動や就職とは関係ないことに全力で楽しみながら取り組むことがキャリアにつながっていったり、そういう経験を重ねることで3年生になってから見えてくるものもあると思います。キャリアセンターは、学生と一緒にそういうことに気づいていける場でありたいです。