多くの企業で実施されている「インターンシップ」。その目的やスケジュール、気になる就職試験への影響などをキャリアセンターの西 崇弘さんに聞きました。単なる職場体験やアルバイトとも違う、インターンシップの深い意義とは?


——インターンシップの目的を教えてください。

西 崇弘さん(以下、西):大学卒業後の進路に就職を選ぶうえで、志望する業種や職種への理解度を高めるために就業体験を積むことです。
また、実際に就職活動をするときに、企業とのミスマッチが起こらないようにするという目的もあります。就職活動の流れは美大受験と似ているところがあって、美大受験では、まずオープンキャンパスに行って、自分の適性をたしかめてから試験を受けて入学しますよね。就職活動も同じように、インターンシップに参加して自分の適性をたしかめ、採用試験を受けて入社します。インターンシップは大学受験におけるオープンキャンパスのようなもの、と捉えるとイメージしやすいかもしれません。

——具体的にはどういうことをするのでしょうか?

西:企業側が用意したインターンシップ用のプログラムに取り組むのが一般的です。期間は、「One day仕事体験」のように1日で終わるものもあれば、大きい企業だと5日間程度の長い期間のものまで幅広くあります。内容は大学の授業課題と似たところがあり、あるお題に対して解決策やプランを考え、最終的にプレゼンを行うものが多いですね。特にメーカーなどでは「ユーザー体験を考えてみましょう」といったものも増えています。
昨年まではオンライン開催や配信だけという企業も多くありましたが、コロナが落ち着いてきた今年は対面形式が増えました。

——アルバイトとはどのように違うのでしょうか?

西:労働を通して成果をおさめ、対価をもらうのがアルバイトですが、インターンシップは基本的に報酬が出ません。労働ではなくあくまで大学の教育の一環であり、就業体験を積むことが目的だからです。

——一般的にはいつ行われるのですか?

西:夏休み、冬休み、春休みに実施されることが多く、特に8月に集中しています。たとえば8月の1週目はA社、2週目はB社、というようにうまくスケジュールを組んで複数の企業のインターンシップに参加している学生もいます。ただし、昨今は新卒採用選考のスケジュールと絡める傾向があるので、1〜3月も増えている印象があります。なお、美大に限らず、全国的な学生平均からも、大学3年生の夏休みから参加するのが一般的です。

——インターンシップに参加することのメリットを教えてください。

西:インターンシップの選考では、志望動機や強みを聞かれたりします。つまり、自分についてきちんと説明することが求められる。デザイナー系の職種だと、自分がつくってきたものをまとめたポートフォリオを提出するケースもあります。だからインターンシップは、早いうちから自己理解を深めて、自分のウリはなんなのか、なにがしたいのか、なにができるのかを言語化したり、整理することにも役立つんです。
また、企業の雰囲気を知ったり、自分の適性が見えてくるというのはなかなかできない体験です。将来的なキャリア形成において、進路選択の際のミスマッチを防ぐことにつながるのは大きな利点ですね。

——体験した職種に対しては魅力を感じたけれど、企業には魅力を感じなかったというようなケースもありそうですね。

西:実際にありましたね。その人は、誰もが知る有名企業のインターンシップに参加したら、想像していたような働き方や雰囲気とまったく違ったので、別の企業に切り替えたと聞きました。でも、それはそれで正解です。いいところを知ることもあれば、自分とは合わない部分が見えてくることもある。それがインターンシップのよさだと思います。
注意したいのが、インターンシップで感じたひとつの企業の印象が、そのままその業種のイメージになってしまうこと。それを防ぐために、できるだけいろんな企業を見てみて、見極めていくことが大切です。

——インターンシップの情報はどのように集めるのでしょうか?

西:就職支援サイトを中心に、インターンシップの情報が検索できるようになっています。大手サイトのなかには、たとえばデザインや編集など、専門職が細分化されて検索できるようになっているものも。ほかにも、ポートフォリオを通じてメーカーとマッチングさせるサイトや、映像系やマスコミ系に強いサイトなど、クリエイティブ職に特化したものもあります。業界によって強い・弱いがあるので、取捨選択しながら情報を探していく形ですね。

インターンシップの情報も掲載されている『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(3・4年生向け)』

——インターンシップに参加するための倍率はどれくらいなのでしょうか?

西:企業のほとんどは倍率を公表していませんが、人気の企業だと、おそらく数十倍になることもあると思います。実際、エントリーがなかなか通らないという学生からの相談も多くあります。

——なるほど。参加するにはそれなりの対策が必要になるということですね。

西:デザイナー職などでは、書類選考だけではなくポートフォリオを提出することもありますし、一般大学の学生もエントリーするものであれば、SPIのような試験や面接を行うケースもあるので、企業研究などで情報を集めたうえでしっかりと対策することが求められます。

——キャリアセンターではどのようなサポートを行っていますか?

西:特にデザイナー職などの専門職の場合は、美大生のみに絞った募集もあります。そういったものについては、キャリアセンターでその企業に勤めているOB・OGを呼んでインターンシップの説明会を開催しています。説明会の開催時期で多いのは、5月下旬ごろから6月いっぱいまで。夏休みに実施するインターンシップの多くは6月1日からエントリーが始まるためです。そこでまず接触を持てることは大きなメリットではないでしょうか。
さらに、社会連携活動など、キャリアセンター主催のもの以外にも企業と連携して行う活動があるので、それに関する情報も発信しています。

——インターンシップに参加すると、採用試験で有利になるのでしょうか。

西:必ずしもそうではありません。ただ、インターンシップにエントリーした時点で企業との関係性が生まれ、さらに、実際にインターンシップに参加すると企業の人との接点が増えていくので、結果的に採用選考につながることもあるのではないかと考えています。また、インターンシップに参加できなくても、エントリーした人に「早期選考のお知らせ」「インターン第2弾のお知らせ」といった優先的な連絡がくることもあると聞きました。

——参加しなくても、採用試験の門が閉ざされるわけではないけれど、ということですね。

西:はい。「インターンに参加していないのですが、就職は厳しいでしょうか」と相談してくる学生も多いのですが、OB・OGに話を聞くと、参加していなかった人でもきちんと就職活動を終えている人は多くいます。ですから、そこは誤解のないようにしたいですね。

インターンシップを通じてより早く実社会と接点を持つことが、選択肢の幅を広げてくれます。実際の企業就職における採用選考では面接というシーンがありますが、そこで大事なのは、しっかりと語るための引き出しをいかに多く持っているか。その引き出しを増やしてくれるもののひとつがインターンシップなので、ぜひ積極的に活用してもらいたいです。