キャリアセンター主催の「架空の世界を描く」は、ファンタジーやSFなど、架空の世界観をデジタルペイントで描いたコンセプトアートの学内コンクールです。第2回となる今回は、学内審査に加え、ゲーム企業、ゲーム業界で活躍する外部審査員による審査が行われ、多数の応募作品のなかから企業賞・審査員賞を選出。2026年4月29日(水)~5月11日(月)には、鷹の台キャンパスで「デジタルペインティング/コンセプトアート展『架空の世界を描く2』-キャリアセンター主催チャレンジプログラム入選作品展-」が開催されました。
コンクール参加の動機や作品についてお話を聞かせてくれたのは、横山宏賞を受賞した油絵学科グラフィックアーツ専攻3年のHさんと、富安健一郎賞を受賞した油絵学科油絵専攻3年のZさん。そしてコンクールへのムサビ生の反応や昨年からの変化について、キャリアセンターの山越梓さんにもお話を伺いました。
――第2回となるデジタルペインティング/コンセプトアートの学内コンクールですが、ムサビ生の反応はいかがでしたか?
山越梓さん(以下、山越):昨年に引き続き、たくさんの学生が学内コンペに積極的に参加してくれたこと、また高い実力を持った学生が多いことに驚きました。みなさんの創意工夫や、おそらく独学で勉強して身につけたスキルなども垣間見え、ムサビ生が真剣にものづくりに取り組んでいる様子が伝わってきました。
――学科や学年を問わず幅広く応募があったのでしょうか。
山越:はい。ファイン系の学科からもデザイン系の学科からも応募がありましたし、通学だけでなく、通信の学生も入選するなど、本当に幅広く参加してくれました。また今回は1、2年生も多かったんです。作品提出の締め切りが11月だったので、夏休みや芸祭期間を経て最初にチャレンジするものとして取り組んでくれた低学年の学生も多かったのかなと感じています。

――コンクールの内容について、初回のコンクールを踏まえて変えたところもあるとお聞きしました。
山越:大きく変えたのは、審査から展示までの過程です。初回のコンクールでは、入選者の作品に対して中間講評会を行い、そこからブラッシュアップして入選作品展に臨んでもらいましたが、今回は中間講評会は行わず、応募作品をそのまま展示する流れにしました。これは、応募時に最後までしっかり仕上げる意識で取り組んでもらいたいと考えたからです。
また、コンセプトアートはゲームや映画、アニメーションなどで用いられるものなので、メディアに合わせた比率ということで、今回は作品サイズを16:9の横位置に指定しました。これも初回と変えたところです。

――入選されたおふたりに伺います。まずは入選したこと、また展示をしたことへの率直な感想をお聞かせください。
Hさん:入選できたことがとてもうれしかったです。私は描画よりもアイデアやコンセプトづくりのほうに時間をかけて制作するので、応募作品のなかではちょっと変わった立ち位置かもしれないと思っていましたが、発想や世界観を評価していただけたのかなと捉えています。
Zさん:入選という結果には、単純な驚きよりも、これまで積み重ねてきた技術がプロの視点から認められたという安心感のほうが大きかったです。特にライティングやスケール感といった技術面で高い評価をいただけたことはとても光栄で、自分の方向性に対する迷いが少し晴れたような感覚もありました。
――応募のきっかけや動機を教えてください。
Zさん:昨年、学内で開催された「架空の世界を描く」展を観たことが大きなきっかけです。同年代の学生たちの熱量ある作品に触れ、「自分もただ観るだけでなく、クリエイターとしてこの場に立ちたい」という思いが芽生えました。応募の動機は、プロの視点で客観的に評価していただける場で、デジタルペイントの技術を試してみたかったからです。将来はゲーム業界のクリエイターを目指しているので、在学中から作品を発表し、実績を積んでおきたいという思いもありました。
Hさん:私は見たことがないようなものを考えるのが好きで、自分のアイデアをいろんな人に見てほしいという思いから、これまでも学内外問わずたくさんのコンペに応募しています。デジタルペインティングのゼミにも参加しているので、ゼミや学内のお知らせで今回のコンクールを知って応募しました。

――ご自身の入選作品について、まずはHさんから簡単に解説をお願いします。
Hさん:「ジンギスカン温泉」というタイトルの作品です。羊たちが銭湯に入っているのですが、その湯船がジンギスカンの鍋になっています。この作品は「羊の毛って石鹸の泡みたいだな」と思ったのがきっかけで、羊の毛が本物の泡だったら……というところから想像を広げ、ジンギスカンの要素として鍋や野菜のキャラクターも登場させました。私は普段からアイデアをたくさんメモしていて、そのなかからコンセプトアートにマッチするアイデアで、ちょっとおかしな世界観になるような題材を選んだという感じです。

――審査員の方からは、どのようなコメントがありましたか?
Hさん:選出してくださった横山宏さんから、「AIの時代だからこそ、個人の視点のある作品が大事になる」というような言葉をいただき、それがすごく心に残っています。また「いいものをつくるためのヒントは、頭のなかではなく身の回りにある」というお話もありました。私もこれまで作品をつくるときに、普段の暮らしからモチーフや素材を集め、そこに自分の視点をどう反映させるかということを大切にしてきたので、それを作品から汲み取っていただけた気がしてうれしかったです。
学内審査員の先生方には、「ジンギスカン温泉」のゆるいかわいらしさだけでなく、不条理さやシニカルな側面に触れてくださった方もいらっしゃり、自分が意図していたギャップが伝わったことに手応えを感じました。ただ、描写の甘さについて指摘をいただいて、課題も見えてきました。アイデアを人に伝えるには、受け取りやすさや完成度が不可欠だということを、今回のコンクールで実感しました。
――Zさんもご自身の入選作品について解説をお願いします。
Zさん:私は留学生なのですが、もともとJRPGというジャンルのゲーム(1980年代から日本で発展してきたロールプレイングゲーム)が大好きで、それらの作品が持つ壮大なファンタジーの世界観から影響を受けてきました。今回の作品では、JRPGの一場面を切り取ったような世界を描いています。太古の神の亡骸が大地を穿ち、その巨大な肋骨が天蓋を支える光景は、圧倒的なスケール感と神秘的な物語性を表現したもの。画面中央に佇む防護服を着た旅人は、この広大な空間で失われた世界の謎を解き明かそうとする物語の象徴として描いています。

――審査員の先生方からどのようなコメントがありましたか?
Zさん:富安健一郎さんからは、構図やライティングなど技術面で「総合的に一番スキルが高い」という身に余る評価をいただきました。また、学内の先生方からも、暗部の色彩設計やアナログ的なマチエールの表現についてお褒めの言葉をいただき、自分のこだわりがプロの目にも届いていたことに、安心感と自信を得ることができました。
一方で、「匂い」や「音」、「時間の感覚」を絵に込めること、近景の描写の密度といった課題も明確になりました。今回の講評は、自分の現在地を確認すると同時に、表現の可能性を広げるための貴重な指針となりました。
――コンセプトアートの魅力はどんなところにありますか?
Hさん:やっぱり自分の発想をそのまま立ち上げられることだと思います。現実ではあり得ない組み合わせや違和感も含め、ひとつの世界として成立させることができる。それがとてもおもしろいと思っています。
Zさん:コンセプトアートの最大の魅力は、まだ存在しない物語や世界観を「現実」として描き出せるところだと思っています。美しさを追求するだけでなく、その世界の空気感や歴史、流れる時間までも視覚化し、見る人を異世界へと引き込む。そのような表現の力に強く惹かれます。
特に私が熱中しているJRPGのような作品では、コンセプトアートはプレイヤーが体験する感動の「出発点」です。自分の想像力から生まれた景色がリアリティを帯び、誰かの心を動かしてその人の想像力を広げる。そのプロセスこそが、私にとってのコンセプトアートの醍醐味です。

――今回の経験や実績を、今後の制作やキャリアにどう活かしていきたいですか?
Hさん:私は絵本を描くのも好きなので、絵のおもしろさを追求することにコンセプトアートという手法が活かせると思いました。コンペも、イラストやゆるキャラのデザイン、漫画や絵本など幅広く挑戦しているので、引き続き自分のアイデアを形にする実験を重ねながら、自分に合う媒体や方向性を探っていけたらと思っています。
Zさん:今回の受賞を通じて、油絵で培った基礎がデジタル表現の土台にもなっていると確信することができました。今後はアナログの質感とデジタルの自由さをより高い次元で融合させ、自分だけのスタイルを確立していきたいと思っています。
審査員の方々からいただいた「五感に訴えかける表現」という言葉は、これからの制作を導いてくれる指針になりそうです。将来ゲーム業界でクリエイターとして働くとき、「格好いい絵」を描くだけにとどまらず、見た人が感動したり、物語のなかに引き込まれるような体験を設計できるようになりたい。今回の経験を自信に変えて、自分の描く世界が誰かの心を動かす架け橋になれるよう、これからも精進していきます。
(取材日:2026年5月7日)
