2023年4月に発行された『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(1・2年生向け)』。1・2年生の頃から、将来をイメージしキャリアを考え始めるきっかけとなるべく、キャリアセンターが企画編集をした冊子です。新入生のオリエンテーションで配布されるこのガイドブックをどう使ったらいいか、またなぜ入学早々からキャリアを考え始める必要があるのかなど、キャリアセンターの奥村志保さんに聞きました。


——『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(1・2年生向け)』はどういう目的でつくられた冊子なのでしょうか?

奥村志保さん(以下、奥村):これまでは就職活動が本格化する3年生に向けて、春のガイダンスで就職ガイドブックを配布していました。ただ、学生の立場になって考えてみると、それまで就活なんて意識したこともなかったのに、突然ガイドブックを渡されて、「はい、今日から就活しましょう」と言われても、腰が重くてスタートが遅れてしまう学生が多いように感じました。一方で、早く動き出す学生はすでに始めていて自分でどんどん進めていく。就職活動の進め方が二極化している印象がありました。そこで、どんな進路を選択するにしても3年生くらいからはしっかり考えていかなければいけないのであれば、入学したときからこの先のことを意識できるようなものをつくりたいと考え、1・2年生に向けたキャリアガイドブックが生まれました。

——確かに、多様な進路がある中で、そもそもどういう業界があるのか、自分には何が合っているのかなどを考えて様々な可能性を探るようなことは、早い段階から始めるとよさそうですね。就活のウォーミングアップのようなイメージでしょうか。

奥村:そうですね。ただ、就活のために今後の作品づくりを、などということではなく、1~2年先をイメージしてみて、3年生になったときに「こうありたい自分」になっているには今どうすればいいのかを考えるきっかけになればいいなと思っています。

——『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(1・2年生向け)』の具体的な内容について教えてください。

奥村:まずは「就活の流れを知ろう」ということで、就活本番の3年生になってから慌てないために、1年生から4年生までの大まかなスケジュールを掲載しています。例えば、1年生だったらどんなことを意識しながら学生生活を送ればいいのかということや、キャリアセンターで主催する、その学年に合わせたイベントの情報などを示しています。

そして「進路のヒント」として、身の回りのモノやコトから、世の中にどんな仕事があるのか、その仕事をするのはどんな会社なのかなどを考えるきっかけになるページがあります。例えばコンビニには広告や商品ディスプレイ、家の中にも家電やスマホなど、日常生活で目にする様々なことが仕事につながります。身近なところから仕事や会社を知って進路を考えるきっかけになればと思います。

将来のことを考え始めるきっかけとなる『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(1・2年生向け)』

またムサビ生の中には、就職ではなく進学したり作家やフリーランスとして活動を始めたり、起業するなど、会社で働くことを選ばない学生もいますので、「ムサビ生の進路はいろいろある!」というページで、様々な進路を示しています。『武蔵野美術大学 キャリアガイドブック(1・2年生向け)』は基本的には、少し先の就活を意識してもらうための構成ではありますが、私たちキャリアセンターは、学生がどういう進路を選択しても、自分で納得して将来社会で活躍できること、延いては幸せな人生が送れることを願っていますし、学生には自分の可能性を広げて進路を考えてほしいと思っています。

「社会で求められる能力ってどんなもの?」のページは、経産省が提唱する「社会人基礎力(※職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力)」に、ムサビでの学びで培われる力を照らし合わせています。ムサビの授業で直接的に社会人基礎力を養っているわけではありませんが、例えば、自分の作品を周りの人に言語化して伝える力や、課題に対する洞察力やリサーチ力など、長い目で見るとムサビでの学びは社会人基礎力に通じるものがあるのではないでしょうか。隣のページにセルフチェックのワークシートがありますが、自己理解につながると思いますので、自分でやってみたり友だち同士でチェックしてみたりできるようになっています。

——自分のことを客観的に見るというのはなかなか難しいですよね。

奥村:3年生になって急に「自己分析が大事」といわれてもあまりピンとこないかもしれないので、1・2年生でまずやってみるといいと思います。次のページにもワークシートがありますが、ここでは将来自分はどうなりたいか、そのためには今何をしたらいいかを考えることができます。就活やビジネスでも活用される「will-can-must」のフレームワークがありますが、「can」を増やすためにどんなことをしていけばいいのかを、自由にたくさん書き込んでほしいです。できることが増えると選択肢も可能性も広がっていくと思います。

「1・2年生のうちにやっておきたいこと」では先輩たちの声を掲載しています。「私たちのときはこうしていたよ」ということや、「これはやっておけばよかった」ということを集めました。キャリアセンターが口酸っぱく言ってもなかなか届かないことが、先輩たちが自分の体験として伝えると響いたりするんですよね…。ここに書いてある通りにすれば必ずいい就職先にたどり着けるということではありませんが、取り組んだことが巡り巡って就活のときに役にたった、というようなことを掲載しています。充実した学生生活を送る参考にもなると思います。

先輩たちの声を聞いたところで、次はいよいよ「どんな仕事がしてみたい?」ということで、ちょっとじっくり考えてみましょうという、ワークシートのページになっています。職業情報提供サイトや自己分析ツールも紹介していますので、悩んだら活用してほしいです。続いて「キャリアセンターに行ってみよう」というページで、キャリアセンターの紹介をしています。本当は相談したいことがあるけどキャリアセンターは行きにくいという声も少なからずあり、1・2年生の頃からキャリアセンターに慣れてほしいと思ってつくったページです。

キャリアセンターでは、先輩たちが実際に就活に使ったポートフォリオも閲覧できる

——就活自体が初めてなので、キャリアセンターで何ができるのか、何を相談したらいいのかがわからず、足が向かないという学生は多いように感じます。

奥村:そうなんです。都市伝説的に、「履歴書は全部書いていないと添削してもらえない」とか、「ポートフォリオは完成版じゃないと見てもらえない」とか思い込んでいる学生がいるようですが、そんなことは全くありません。むしろ、本当に白紙状態で何をしたらいいかわからないという学生にこそ来てもらいたいと思っています。

——「就職課」ではなく「キャリアセンター」という名前自体が、必ずしも就職ということだけでなく、生き方や働き方をサポートしてくれそうというイメージがあります。

奥村:そうですね。本当に気軽に利用してもらいたいです。次のページに、キャリアセンターが学生からよく聞かれることをまとめています。最後はおまけとして、インターンシップを申し込む際の電話やメールのマナー、そして業界別お役立ちサイトを載せました。就活サイトはいろいろありますが、大体この辺りを見ておけば大丈夫というイメージです。

——この冊子を受け取った学生にはどのように使ってほしいですか?

奥村:このガイドブックは、できるだけ学生に寄り添いたいという気持ちでつくりました。書き込むところも割と自由に使えるようにしているので、絵を描いてイメージを膨らませていくのもいいですし、ムサビ生らしい使い方をしてもらえればと思います。就活ってキツそうだし面倒臭そうだし、ちょっと自分には無理かもと思わずに、このガイドブックを読むことで選択肢や可能性が広がっていくと嬉しいです。