就職、作家やフリーランス、起業、進学など、ムサビ生の進路は本当に多様です。どれくらいの人が就職するのか、どういう業界に進む人が多いのか、そもそも自分には何が向いているのか…。進路を考え始める手がかりとなるような、ムサビ生の進路の傾向や進路の考え方を、キャリアセンターの舘野可奈さんに聞きました。


——まず、ムサビ生の進路の傾向を教えてください。どれくらいの学生が就職しているのでしょうか。

舘野可奈さん(以下、舘野):毎年だいたい6割が就職希望者で、作家やフリーランス、起業の志望が3割、残りの1割が進学です。やはり作家・フリーランス・起業の割合が大きいところが、一般大学と違う特徴的なところですね。

——就職する学生はやはりクリエイティブ系の職種が大半でしょうか。最近の傾向などあれば教えてください。

舘野:大まかにいうと、クリエイティブ系の専門職が7割で、総合職が3割です。ただ、総合職の割合は年々増えていっています。

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——「総合職」について、特に美大ではあまりイメージできない学生もいるようですが、どういった職種なのでしょうか。

舘野:専門職は明確に職務の領域が決まっていますが、総合職は例えば営業や企画、開発など、企業の中の多岐に渡る業務を担う職種です。少し前まではいわゆる一般大学で文系に分類されるような方が多く就くイメージでしたが、ムサビ生はものづくりを通して課題に対する多様な視点や解決していく能力を伸ばしているので、総合職のあらゆる場面でその力が活かせるのだと思います。

——今はクリエイターが活躍できる領域がどんどん広がっています。美大生に対する企業側のニーズも変わってきたということでしょうか。

舘野:そうかもしれません。これまでは美大生といえばものづくりという印象があったかもしれませんが、ものづくりのスキルはもちろんのこと、そのプロセスで培った課題解決能力が、企業側の求めるものにマッチしてきたのと同時に、美大生の視点も幅広くなり、双方に需要が増えてきているように感じます。

——それだけ世の中のビジネスが複雑になってきているということですね。学生側の傾向として、希望が多いのはどういった業界ですか?

舘野:やはりデザイン系がいちばん多いですが、その中でもゲーム業界が圧倒的に人気です。ゲーム業界の中には様々な職種があるので、ファイン系で絵を描いてきた学生がスキルをそのまま活かせるようなところもあれば、デザインをやってきた学生がヒットするようなものもあり、幅広い学科の学生が志望できます。

また学生たちの業界の選び方も本当に多様になってきており、例えば、ファイン系の学生がテレビ局に就職したり、彫刻学科から総合職へなど、それまでの学びの領域からは遠いところを志望して就職を決めるというパターンはとても多いです。それまでの学びから逸れない進路を選ぶ学生ももちろんいますが、全く関係ない領域を選ぶというのも、幅広いものづくりを経験してきたムサビ生の特徴かなと思います。私たちもガイダンスなどでは「学科に縛られず自分と向き合った上で業界を考えて」とアナウンスしているので、今後もその傾向は強くなっていくのではないかと思います。

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——「業種」や「職種」という分類では、どういったものが人気があるのでしょうか。

舘野:業種で人気なのは先ほども出てきたゲームやITですね。ゲームは根強い人気で、就活イベントでもゲーム関係のものは圧倒的に人が集まります。ITはスマホのおかげでかなり身近になっていて、アプリやサービスをつくるところに需要があります。また、割合的には少ないですが、公共的事業もデザインの力を求めるようになってきているので、今後は志望する学生も採用される学生も増えていくのではないかと思います。

職種としては、プランナーや企画職のようなものは、ここ1〜2年で挑戦する学生が増えました。これまでのように直球でグラフィックデザイナーを目指すというより、企画力を生かしながらものづくりに関わりたい学生が出てきたのが最近の傾向でしょうか。
課題が出されてコンセプトをつくり形にするというプロセスがあったら、これまでは最終的な形にするところがすごく好きという傾向だったのが、コンセプトを立てるところにやりがいを感じる学生が増えつつあるようです。そうすると、まずは職種としてプランナーや企画職を選び、次にどういう業界で何を企画しようと考える。面談をしているとそういう学生に会うようになりました。

——社会の美大生に対する期待値が変化し、進路の選択肢も多様になる中で、なかなか自分に合う職業のイメージを固めるのは難しいと思いますが、どれくらいの時期から考え始めるのがいいのでしょうか。

舘野:欲をいえば3年生に上がる時点で、なんとなく方向性が定まっているといいですね。そのためにはやはり1・2年生のうちに今後に向けてじわじわ考え始めていることがベストかなと思います。1・2年生に対してはキャリアセンターでそういった授業も行っているので、それはぜひ履修してほしいです。
3年生の夏頃になるとインターンシップがあるので、それまでに自己分析などを終えて方向性が定まり、ざっくりと業界が決まっていれば、インターンシップでその業界のことが確認できるのでとても理想的な状態といえます。もちろん、それを逃したらもう手遅れということではありませんが、早め早めに考え始められるといいと思います。

——自分に合う職業のイメージがなかなかできないときは、具体的にはどうすればいいですか?

舘野:キャリアセンターで面談していると、自分のことがよく分からなかったり、やりたいことがないという学生もいますが、話を聞いていくと、全くないわけではないんです。最近嬉しかったことは何だろう、それはなぜ嬉しかったんだろう、というように「なぜ?」を繰り返していくと、意外と気づいていないだけで、やりたいことや自分が喜びを感じる源が見つかったりします。その見つかったものが職業で体現できるとすごくいいと思うので、できれば、そうやって自問自答しながら見つけてみてほしいです。
それでもどうしてもやりたいことが見つからなければ、どういう働き方をしたいか、休みはどれくらいほしいかなどの労働条件の面で探してもいいと思いますし、あとは、街中に一歩出てみると、本当に色んな職業があちこちにあるので、その中でいちばん興味や関心が持てるものを考えてみてもいいと思います。

——方向性が定められないときにキャリアセンターに相談するというのも有効な手段かと思いますが、キャリアセンターにはどの段階で相談にいったらいいのでしょうか?ある程度自分の進みたい方向がイメージできていないと、何を相談しに行ったらいいのか分からないという学生も多いと思います。

舘野:そうですよね。でも、全く方向性が何も決まっていない状態でも大丈夫です。話を聞きながら一緒に自己分析をしたりもできますし、気軽に何でも相談してもらえればと思います。1年生でももちろん大丈夫です。

——特に予約をせずにセンターに直接行っても相談に乗ってもらえますか?

舘野:飛び込みでも対応できますが、面談予約をとってもらうとしっかり時間をかけて相談に乗ることができます。どうしても今すぐ相談したい…!ということでなければ予約をお勧めします。

——これから進路を考える学生に、進路の選択についてメッセージをお願いします。

舘野:就活は、まず自分を知るところから始めてほしいです。しっかり自分のことを分析しないで方向性を決めてしまい、あとから「あれ、ちょっと違うかも…」と気づき、そこから方向転換するのが結構大変ということもあるんです。短期間で自分の将来の方向性を決めるというのは誰でも本当に難しいと思うので、1・2年生のうちからしっかり自分と向き合って学生生活を送ってほしいと思います。